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金木犀
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「……俺にとっては、家族が一番大切。今だってさ。お前や母さんや父さんのいる家に戻りたい。あそこはさ俺たちみんながやっと取り戻せた新しい家族みんなの大事な居場所だったんだぞ? 一緒にいると温かくって、賑やかで、笑いが絶えなくって……。昔みたいにずっとみんなで暮らしたかった。だから……、だからさ」
「だから番が欲しいの? やっぱり兄さんは、綺麗で、純粋で、信じられないぐらいに残酷。答えになってないよ? ねえ? 兄さんは? 兄さんが今、一番好きなのは誰?」
「俺が好きなのは……」
その答えを兄の口から聞きたくて、聞きたくなくて。
兄はきっと避けないだろうと見透かしながら和哉はゆっくりと顔を近づけていく。そのまま真っすぐ瞳を反らさぬ柚希の熱を帯びた赤い唇に、和哉は啄むように口づけた。
感触を味わうように今日迎えに行った時からこうして触れたくてたまらなかった唇を味わい、力が抜けたふんわり柔らかな口唇を長い舌先で割り開いていく。柚希は片手で和哉のシャツをぎゅっと握りしめて流されぬようにとこらえようとした。しかしその唇のもたらす感触と熱と味に、柚希は不思議と既視感を感じる。
(かず……? ああ。また……金木犀?)
馥郁と芳醇な花似た香りがまたふわりと柚希を包み込み、全身に染みこんでいくような感覚に何故だか柚希は身動きが取れなくなった。口づけは続けられ、一瞬だけ奥まで舌を探られ舐められる。
柚希がびくっと身体を震わせ逃げたげなそぶりを見せたので、和哉は深く味わうことをやめ、代わりに何度も熱心にちゅっちゅっと、熱でややかさついた柚希の唇にしっとりと冷たい自らの唇を押し当てた。
どこかで窓が開いているのかまたあの焦がれるほどに甘い香りが鼻先を悩ましく擽ってくる。和哉の口づけの手練に、逞しく温かい腕の中心地よさで蕩けそうになりながらも、柚希は爪を拳の中に握りこんで鋭い痛みで意識を保とうとした。
しかし片腕を背に回され強く抱きすくめられたら、次第にそんな抵抗もどうでもよくなって、そのまま弟の気のすむように任せて身体の力を抜くと、苦笑の吐息を漏らした和哉が僅かに顔をはなした。
「兄さん無防備すぎ……。可愛い……。ほんともう、狡い」
「かず、……もう子供じゃないんだから。兄弟でこんなことしちゃ……。いけないだろ?」
掠れ声で熱く吐息を漏らしながら優しくなじると、この期に及んでそんな風に誤魔化そうとしているのか、それとも本当に子どもの頃のそれの延長だとでも思っているのかと和哉は焦れた。
憎らしい程、透明感を湛え綺麗なままの兄の顔を見おろし、和哉の中にこのまま滅茶苦茶にしてしまいたいという、サディスティックでありながら甘美な疼きがどっと押し寄せてくる。
「いけない、だって。……なんか色っぽい。ねえ、誤魔化さないで。兄さんだってちょっとは分かってるんでしょ?」
「だから番が欲しいの? やっぱり兄さんは、綺麗で、純粋で、信じられないぐらいに残酷。答えになってないよ? ねえ? 兄さんは? 兄さんが今、一番好きなのは誰?」
「俺が好きなのは……」
その答えを兄の口から聞きたくて、聞きたくなくて。
兄はきっと避けないだろうと見透かしながら和哉はゆっくりと顔を近づけていく。そのまま真っすぐ瞳を反らさぬ柚希の熱を帯びた赤い唇に、和哉は啄むように口づけた。
感触を味わうように今日迎えに行った時からこうして触れたくてたまらなかった唇を味わい、力が抜けたふんわり柔らかな口唇を長い舌先で割り開いていく。柚希は片手で和哉のシャツをぎゅっと握りしめて流されぬようにとこらえようとした。しかしその唇のもたらす感触と熱と味に、柚希は不思議と既視感を感じる。
(かず……? ああ。また……金木犀?)
馥郁と芳醇な花似た香りがまたふわりと柚希を包み込み、全身に染みこんでいくような感覚に何故だか柚希は身動きが取れなくなった。口づけは続けられ、一瞬だけ奥まで舌を探られ舐められる。
柚希がびくっと身体を震わせ逃げたげなそぶりを見せたので、和哉は深く味わうことをやめ、代わりに何度も熱心にちゅっちゅっと、熱でややかさついた柚希の唇にしっとりと冷たい自らの唇を押し当てた。
どこかで窓が開いているのかまたあの焦がれるほどに甘い香りが鼻先を悩ましく擽ってくる。和哉の口づけの手練に、逞しく温かい腕の中心地よさで蕩けそうになりながらも、柚希は爪を拳の中に握りこんで鋭い痛みで意識を保とうとした。
しかし片腕を背に回され強く抱きすくめられたら、次第にそんな抵抗もどうでもよくなって、そのまま弟の気のすむように任せて身体の力を抜くと、苦笑の吐息を漏らした和哉が僅かに顔をはなした。
「兄さん無防備すぎ……。可愛い……。ほんともう、狡い」
「かず、……もう子供じゃないんだから。兄弟でこんなことしちゃ……。いけないだろ?」
掠れ声で熱く吐息を漏らしながら優しくなじると、この期に及んでそんな風に誤魔化そうとしているのか、それとも本当に子どもの頃のそれの延長だとでも思っているのかと和哉は焦れた。
憎らしい程、透明感を湛え綺麗なままの兄の顔を見おろし、和哉の中にこのまま滅茶苦茶にしてしまいたいという、サディスティックでありながら甘美な疼きがどっと押し寄せてくる。
「いけない、だって。……なんか色っぽい。ねえ、誤魔化さないで。兄さんだってちょっとは分かってるんでしょ?」
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