39 / 296
金木犀
4
しおりを挟む
「……まあ、そりゃさ。付き合ってるし、俺のこと好きだって言ってくれるし。あいつ、昔からすごくいいやつだし。俺には勿体ないくらいの男だよ」
「僕が聞いてるのは、恋愛的な意味でだよ?」
弟の問いに柚希は一度ぐっと口をつぐんで逡巡する。
「……付き合ったら、恋愛っていうんじゃないの?」
柚希のその声からは狂おしい恋情や執着のようなものをまるで感じられず、和哉は苦笑しながら身体を起こす。
寝ころんだままの兄にあらためて覆いかぶさるようにな姿勢になり、上から見下ろした。
さらさらと綺麗な弟の前髪が乱れて額に掛かると、昔みたいに少しだけ幼く見えて柚希は微笑んだ。
「兄さんがこういう可愛い顔、僕にだけ見せてればいいのに」
「……」
和哉はいよいよ黙っていられなくなり、自分の気持ちをそこここに織り交ぜた熱っぽい口調になった。
「違うよ。全然違う。相手を自分のものにするためなら、手段を選んでいられないぐらい、相手に溺れきって自分で自分を制御できなくなるような感情を、恋っていうんだよ」
案の定兄の瞳には発情を迎え始めたΩ特有のとろりとした色気はあるものの、会うことができなければ心が千切れるほどに、相手を一途に恋い慕う熱情はかけているように思えた。
いっそ何もかも見透かされているのかと疑うほどに静かな瞳に涙を浮かばせた、兄の美しい面。その綺麗な顔をぐしゃぐしゃに乱してやりたい、泣いても喚いても、腕の中に抱きしめてどこにもやりたくない。そんな衝動にかられて和哉は自らの形良い下唇を一瞬だけ噛んだ。
「……兄さんってさ、優しいけど、いつでもちょっと残酷だよな」
聞こえるか聞こえないかというほどの呟きを飲み込んで、和哉は大きな瞳を一度ぎゅっと瞑ると、覚悟を決めたような凛々しい顔つきで囁くように甘く、兄に問いかけた。
「じゃあさ、僕よりも?」
「え?」
「僕よりも、晶先輩の方が好きかってきいてるの」
「僕が聞いてるのは、恋愛的な意味でだよ?」
弟の問いに柚希は一度ぐっと口をつぐんで逡巡する。
「……付き合ったら、恋愛っていうんじゃないの?」
柚希のその声からは狂おしい恋情や執着のようなものをまるで感じられず、和哉は苦笑しながら身体を起こす。
寝ころんだままの兄にあらためて覆いかぶさるようにな姿勢になり、上から見下ろした。
さらさらと綺麗な弟の前髪が乱れて額に掛かると、昔みたいに少しだけ幼く見えて柚希は微笑んだ。
「兄さんがこういう可愛い顔、僕にだけ見せてればいいのに」
「……」
和哉はいよいよ黙っていられなくなり、自分の気持ちをそこここに織り交ぜた熱っぽい口調になった。
「違うよ。全然違う。相手を自分のものにするためなら、手段を選んでいられないぐらい、相手に溺れきって自分で自分を制御できなくなるような感情を、恋っていうんだよ」
案の定兄の瞳には発情を迎え始めたΩ特有のとろりとした色気はあるものの、会うことができなければ心が千切れるほどに、相手を一途に恋い慕う熱情はかけているように思えた。
いっそ何もかも見透かされているのかと疑うほどに静かな瞳に涙を浮かばせた、兄の美しい面。その綺麗な顔をぐしゃぐしゃに乱してやりたい、泣いても喚いても、腕の中に抱きしめてどこにもやりたくない。そんな衝動にかられて和哉は自らの形良い下唇を一瞬だけ噛んだ。
「……兄さんってさ、優しいけど、いつでもちょっと残酷だよな」
聞こえるか聞こえないかというほどの呟きを飲み込んで、和哉は大きな瞳を一度ぎゅっと瞑ると、覚悟を決めたような凛々しい顔つきで囁くように甘く、兄に問いかけた。
「じゃあさ、僕よりも?」
「え?」
「僕よりも、晶先輩の方が好きかってきいてるの」
0
お気に入りに追加
300
あなたにおすすめの小説
真柴さんちの野菜は美味い
晦リリ
BL
運命のつがいを探しながら、相手を渡り歩くような夜を繰り返している実業家、阿賀野(α)は野菜を食べない主義。
そんななか、彼が見つけた運命のつがいは人里離れた山奥でひっそりと野菜農家を営む真柴(Ω)だった。
オメガなのだからすぐにアルファに屈すると思うも、人嫌いで会話にすら応じてくれない真柴を落とすべく山奥に通い詰めるが、やがて阿賀野は彼が人嫌いになった理由を知るようになる。
※一話目のみ、攻めと女性の関係をにおわせる描写があります。
※2019年に前後編が完結した創作同人誌からの再録です。
いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜
きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員
Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。
そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。
初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。
甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。
第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。
※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり)
※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り
初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。
【連載再開】絶対支配×快楽耐性ゼロすぎる受けの短編集
あかさたな!
BL
※全話おとな向けな内容です。
こちらの短編集は
絶対支配な攻めが、
快楽耐性ゼロな受けと楽しい一晩を過ごす
1話完結のハッピーエンドなお話の詰め合わせです。
不定期更新ですが、
1話ごと読切なので、サクッと楽しめるように作っていくつもりです。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
書きかけの長編が止まってますが、
短編集から久々に、肩慣らししていく予定です。
よろしくお願いします!
平凡なSubの俺はスパダリDomに愛されて幸せです
おもち
BL
スパダリDom(いつもの)× 平凡Sub(いつもの)
BDSM要素はほぼ無し。
甘やかすのが好きなDomが好きなので、安定にイチャイチャ溺愛しています。
順次スケベパートも追加していきます
相性最高な最悪の男 ~ラブホで会った大嫌いな同僚に執着されて逃げられない~
柊 千鶴
BL
【執着攻め×強気受け】
人付き合いを好まず、常に周囲と一定の距離を置いてきた篠崎には、唯一激しく口論を交わす男がいた。
その仲の悪さから「天敵」と称される同期の男だ。
完璧人間と名高い男とは性格も意見も合わず、顔を合わせればいがみ合う日々を送っていた。
ところがある日。
篠崎が人肌恋しさを慰めるため、出会い系サイトで男を見繕いホテルに向かうと、部屋の中では件の「天敵」月島亮介が待っていた。
「ど、どうしてお前がここにいる⁉」「それはこちらの台詞だ…!」
一夜の過ちとして終わるかと思われた関係は、徐々にふたりの間に変化をもたらし、月島の秘められた執着心が明らかになっていく。
いつも嫌味を言い合っているライバルとマッチングしてしまい、一晩だけの関係で終わるには惜しいほど身体の相性は良く、抜け出せないまま囲われ執着され溺愛されていく話。小説家になろうに投稿した小説の改訂版です。
合わせて漫画もよろしくお願いします。(https://www.alphapolis.co.jp/manga/763604729/304424900)
こじらせΩのふつうの婚活
深山恐竜
BL
宮間裕貴はΩとして生まれたが、Ωとしての生き方を受け入れられずにいた。
彼はヒートがないのをいいことに、ふつうのβと同じように大学へ行き、就職もした。
しかし、ある日ヒートがやってきてしまい、ふつうの生活がままならなくなってしまう。
裕貴は平穏な生活を取り戻すために婚活を始めるのだが、こじらせてる彼はなかなかうまくいかなくて…。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる