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金木犀

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「……まあ、そりゃさ。付き合ってるし、俺のこと好きだって言ってくれるし。あいつ、昔からすごくいいやつだし。俺には勿体ないくらいの男だよ」
「僕が聞いてるのは、恋愛的な意味でだよ?」
 
 弟の問いに柚希は一度ぐっと口をつぐんで逡巡する。
 
「……付き合ったら、恋愛っていうんじゃないの?」

 柚希のその声からは狂おしい恋情や執着のようなものをまるで感じられず、和哉は苦笑しながら身体を起こす。
 寝ころんだままの兄にあらためて覆いかぶさるようにな姿勢になり、上から見下ろした。
    さらさらと綺麗な弟の前髪が乱れて額に掛かると、昔みたいに少しだけ幼く見えて柚希は微笑んだ。

「兄さんがこういう可愛い顔、僕にだけ見せてればいいのに」
「……」

 和哉はいよいよ黙っていられなくなり、自分の気持ちをそこここに織り交ぜた熱っぽい口調になった。

「違うよ。全然違う。相手を自分のものにするためなら、手段を選んでいられないぐらい、相手に溺れきって自分で自分を制御できなくなるような感情を、恋っていうんだよ」

 案の定兄の瞳には発情を迎え始めたΩ特有のとろりとした色気はあるものの、会うことができなければ心が千切れるほどに、相手を一途に恋い慕う熱情はかけているように思えた。
 いっそ何もかも見透かされているのかと疑うほどに静かな瞳に涙を浮かばせた、兄の美しい面。その綺麗な顔をぐしゃぐしゃに乱してやりたい、泣いても喚いても、腕の中に抱きしめてどこにもやりたくない。そんな衝動にかられて和哉は自らの形良い下唇を一瞬だけ噛んだ。

「……兄さんってさ、優しいけど、いつでもちょっと残酷だよな」


 聞こえるか聞こえないかというほどの呟きを飲み込んで、和哉は大きな瞳を一度ぎゅっと瞑ると、覚悟を決めたような凛々しい顔つきで囁くように甘く、兄に問いかけた。

「じゃあさ、僕よりも?」
「え?」
「僕よりも、晶先輩の方が好きかってきいてるの」
 
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