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「柚希! 大丈夫か?」
「兄さん! しっかりして。僕がついてるから!」
「お客様! 大丈夫ですか?!」
ちょうどその時、柚希の荷物を抱えた客室係が心配をして様子を伺いにやってきた。
そこは社会人になり、自然と人目を気にする癖がついた晶が僅かに気を反らしたのを和哉は見逃さず、ぐったりとした兄を抱き上げるとさも自分が正当な柚希の同行者であると主張するようなハッキリとよく通る声で客室係に声をかけた。
「すみません、兄の具合がちょっと悪くなったみたいなので、僕が部屋まで運びますから通してください」
「カズ!」
晶と和哉は同じ高校のバスケ部で在籍期間が重なった先輩後輩でもある。学生時代の年功序列というのは社会に出てからも通用するのが通説で、体育会系の先輩の威厳をみせつけるように晶が低く唸るような声で咎める。
もちろん今までの和哉ならばそれなりに先輩のことをたてただろうし、この、9ヶ月2人の交際について表立って強く反対してきたこともなかった。和哉が中学生の頃から知ってはいたし、兄弟は周りが驚く程に仲睦まじいので、大好きな兄を盗られたようできっといい顔はしないだろうとは思っていた。
しかし柚希を死んでも離さないとばかりにしっかりと胸に抱える和哉の逞しい腕を掴んで正面から身体で止めたが、止まるどころか和哉は真正面から晶をいっそ整いすぎて冷たく見える美貌で睨みつける。
そこには日頃明るく人懐っこい、チームのムードメーカーでもあった、可愛い後輩はもうそこにはなかった。
「離してください。先輩こそ、僕らの邪魔をしないで?」
生来琥珀色に近い薄い色の瞳を狼のそれのように睥睨し、背格好の似た逞しい男に対して一歩も引かない。
癖のない黒髪を乱し顔面蒼白になった兄を軽々と抱えて、彼を迎えに来た恋人に相手をい殺さんばかりの物騒で、しかし静かな闘志を漲らせている。
そんな和哉はまるでしなやかに強い野性の獣の様だ。
今まで試合の最中も実生活でも人に呑まれるような経験をしたことのない晶だが、一瞬身を引きかけて足の指をぎゅっと握るようにして思いとどまり、ごくりと生唾を飲み込んだ。
「……じゃあ、いきますね」
端的にそれだけ言葉を残すと、和哉は愛しげにぐったりと顔を和也の胸によせ目を瞑る柚希におよそ弟とは思えぬほど危うげに甘く響く声で囁く。
「兄さん、すぐ部屋で休めるから、もう少しだけ辛抱してね?」
そして晶に向かって不敵な微笑みを浮かべたまま、狼狽える客室係を後ろに従え、一瞬身動きが取れなかった晶をその場に置き去りにして立ち去っていった。
「兄さん! しっかりして。僕がついてるから!」
「お客様! 大丈夫ですか?!」
ちょうどその時、柚希の荷物を抱えた客室係が心配をして様子を伺いにやってきた。
そこは社会人になり、自然と人目を気にする癖がついた晶が僅かに気を反らしたのを和哉は見逃さず、ぐったりとした兄を抱き上げるとさも自分が正当な柚希の同行者であると主張するようなハッキリとよく通る声で客室係に声をかけた。
「すみません、兄の具合がちょっと悪くなったみたいなので、僕が部屋まで運びますから通してください」
「カズ!」
晶と和哉は同じ高校のバスケ部で在籍期間が重なった先輩後輩でもある。学生時代の年功序列というのは社会に出てからも通用するのが通説で、体育会系の先輩の威厳をみせつけるように晶が低く唸るような声で咎める。
もちろん今までの和哉ならばそれなりに先輩のことをたてただろうし、この、9ヶ月2人の交際について表立って強く反対してきたこともなかった。和哉が中学生の頃から知ってはいたし、兄弟は周りが驚く程に仲睦まじいので、大好きな兄を盗られたようできっといい顔はしないだろうとは思っていた。
しかし柚希を死んでも離さないとばかりにしっかりと胸に抱える和哉の逞しい腕を掴んで正面から身体で止めたが、止まるどころか和哉は真正面から晶をいっそ整いすぎて冷たく見える美貌で睨みつける。
そこには日頃明るく人懐っこい、チームのムードメーカーでもあった、可愛い後輩はもうそこにはなかった。
「離してください。先輩こそ、僕らの邪魔をしないで?」
生来琥珀色に近い薄い色の瞳を狼のそれのように睥睨し、背格好の似た逞しい男に対して一歩も引かない。
癖のない黒髪を乱し顔面蒼白になった兄を軽々と抱えて、彼を迎えに来た恋人に相手をい殺さんばかりの物騒で、しかし静かな闘志を漲らせている。
そんな和哉はまるでしなやかに強い野性の獣の様だ。
今まで試合の最中も実生活でも人に呑まれるような経験をしたことのない晶だが、一瞬身を引きかけて足の指をぎゅっと握るようにして思いとどまり、ごくりと生唾を飲み込んだ。
「……じゃあ、いきますね」
端的にそれだけ言葉を残すと、和哉は愛しげにぐったりと顔を和也の胸によせ目を瞑る柚希におよそ弟とは思えぬほど危うげに甘く響く声で囁く。
「兄さん、すぐ部屋で休めるから、もう少しだけ辛抱してね?」
そして晶に向かって不敵な微笑みを浮かべたまま、狼狽える客室係を後ろに従え、一瞬身動きが取れなかった晶をその場に置き去りにして立ち去っていった。
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