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「ついたよ。いこう」
荷物は全てまた和哉が持ってくれて、その上しっかり指を絡めるようにして、手まで繋がれて、これではどちらが年上だか分かったものではない。
恥ずかしくて手を引こうとしたが、和哉は穏やかな諭すような笑顔を浮かべて車の中の時のように強引に掴まれてしまった。
いつから和哉はこんなふうにさりげなく男っぽい仕草の出来る大人の男性になったのだろう。
一人暮らしをすると和哉に告げた頃はまだ大学に入りたてで、顔のラインもわずかにあどけなさが残っていた。
どうしても一人暮らしをするなら僕もついて行くといって、背丈が上回った大きな身体で兄の身体に行かせまいと抱きつき、涙を零さんばかりだった。
しかし今見上げた精悍な顔立ちは華やかな美貌はそのままに鋭さを増している。やはりであったころの父の面影が濃くなってきていて、頼もしさすら感じる。とてもワンちゃんごっこをしてけらけら笑いながら組み付いてきた男の子とは、ちょっと想像もできないほどだ。
「……そんな風に見つめられるとちょっと照れるんだけど?」
揶揄されて瞳を細めてくる仕草は父よりずっと妖艶な感じだ。昔からたまにこいつ色気があるよなあという顔を和哉はする。
「人からじろじろ見られ慣れてるだろ。お前、知らぬ間に勝手にこんなかっこよくに育っちまってさ。なんか雑誌に出てるみたいな、お洒落な服着てるし」
くだらない話をしている方が気が紛れて、ともすれば脱力しながら快楽に身を任せたくなる心を落ち着けられる。それをわかっているのか和哉も明るい調子で合わせてくれた。
「別にお洒落な服じゃないよ。学校行ってるのと同じ。このブランド気に入ったなら、今度兄さんも一緒に服買いに行こうよ? 僕に選ばせて?」
「俺の手足の長さじゃそんな服むりむり。しかもこんなよれよれスウェットとクシャクシャのシャツで都心のホテルまで連れてこられて……、恥ずかしいったらないだろ」
「だってドアツードアで、これからどこにもいかないから大丈夫でしょ? ずっと部屋に籠ってて、帰りだって僕が迎えに来るから安心して?」
大分頭がぼうっとしていたから、部屋着にスリッパのまま車にそのまま乗りこんできた弊害が今になってでてきてしまった。
「それに兄さんはいつでも綺麗だから安心して」
前から歩いてきた人にぶつかりそうになった柚希を、和哉が手を引きまるで恋人のように自然な仕草で抱き寄せたから、図らずもドキッとしてしまったのはたぶん一肌恋しい発情期のなせる業だろう。
「綺麗って、お前……」
「兄さんはさ、初めて会った時からずっと、そこだけ空気が違うって感じなんだ。浄化される感じ」
「はあ? 何言っちゃってんだか」
すーっと自動ドアが開き、自然に繋いだままだった手を柚希の方から離した。和哉は拒むように指先を最後まで絡めたが、柚希はちょっと恥ずかしそうに頭をかく。
「俺ちょっとトイレいってくる」
「一人で大丈夫? チェックインしてるからすぐこっちに戻って」
一緒について行くとでも言い出しそうな顔をした和哉にこくりと頷き、目線で大丈夫だからと微笑むと、和哉は素直にフロントに向かった。
和哉と離れ、ややおぼつかない足取りで廊下を歩く。
(発情期終わってまだ元気あったらあのカフェのパンケーキまだ食べたい。ルームサービスで、取り寄せられるかな? んな余裕あるわけないか.......)
ぼんやりそんなことばかり考えながら、ホテル内のカフェの奥に見えたトイレの案内番を視界を上げて追いながら歩いていたら、ふいに誰かが柚希の腕を逃がすまいとばかりにがっしりと掴んだのだった。
荷物は全てまた和哉が持ってくれて、その上しっかり指を絡めるようにして、手まで繋がれて、これではどちらが年上だか分かったものではない。
恥ずかしくて手を引こうとしたが、和哉は穏やかな諭すような笑顔を浮かべて車の中の時のように強引に掴まれてしまった。
いつから和哉はこんなふうにさりげなく男っぽい仕草の出来る大人の男性になったのだろう。
一人暮らしをすると和哉に告げた頃はまだ大学に入りたてで、顔のラインもわずかにあどけなさが残っていた。
どうしても一人暮らしをするなら僕もついて行くといって、背丈が上回った大きな身体で兄の身体に行かせまいと抱きつき、涙を零さんばかりだった。
しかし今見上げた精悍な顔立ちは華やかな美貌はそのままに鋭さを増している。やはりであったころの父の面影が濃くなってきていて、頼もしさすら感じる。とてもワンちゃんごっこをしてけらけら笑いながら組み付いてきた男の子とは、ちょっと想像もできないほどだ。
「……そんな風に見つめられるとちょっと照れるんだけど?」
揶揄されて瞳を細めてくる仕草は父よりずっと妖艶な感じだ。昔からたまにこいつ色気があるよなあという顔を和哉はする。
「人からじろじろ見られ慣れてるだろ。お前、知らぬ間に勝手にこんなかっこよくに育っちまってさ。なんか雑誌に出てるみたいな、お洒落な服着てるし」
くだらない話をしている方が気が紛れて、ともすれば脱力しながら快楽に身を任せたくなる心を落ち着けられる。それをわかっているのか和哉も明るい調子で合わせてくれた。
「別にお洒落な服じゃないよ。学校行ってるのと同じ。このブランド気に入ったなら、今度兄さんも一緒に服買いに行こうよ? 僕に選ばせて?」
「俺の手足の長さじゃそんな服むりむり。しかもこんなよれよれスウェットとクシャクシャのシャツで都心のホテルまで連れてこられて……、恥ずかしいったらないだろ」
「だってドアツードアで、これからどこにもいかないから大丈夫でしょ? ずっと部屋に籠ってて、帰りだって僕が迎えに来るから安心して?」
大分頭がぼうっとしていたから、部屋着にスリッパのまま車にそのまま乗りこんできた弊害が今になってでてきてしまった。
「それに兄さんはいつでも綺麗だから安心して」
前から歩いてきた人にぶつかりそうになった柚希を、和哉が手を引きまるで恋人のように自然な仕草で抱き寄せたから、図らずもドキッとしてしまったのはたぶん一肌恋しい発情期のなせる業だろう。
「綺麗って、お前……」
「兄さんはさ、初めて会った時からずっと、そこだけ空気が違うって感じなんだ。浄化される感じ」
「はあ? 何言っちゃってんだか」
すーっと自動ドアが開き、自然に繋いだままだった手を柚希の方から離した。和哉は拒むように指先を最後まで絡めたが、柚希はちょっと恥ずかしそうに頭をかく。
「俺ちょっとトイレいってくる」
「一人で大丈夫? チェックインしてるからすぐこっちに戻って」
一緒について行くとでも言い出しそうな顔をした和哉にこくりと頷き、目線で大丈夫だからと微笑むと、和哉は素直にフロントに向かった。
和哉と離れ、ややおぼつかない足取りで廊下を歩く。
(発情期終わってまだ元気あったらあのカフェのパンケーキまだ食べたい。ルームサービスで、取り寄せられるかな? んな余裕あるわけないか.......)
ぼんやりそんなことばかり考えながら、ホテル内のカフェの奥に見えたトイレの案内番を視界を上げて追いながら歩いていたら、ふいに誰かが柚希の腕を逃がすまいとばかりにがっしりと掴んだのだった。
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