仔犬のキス 狼の口付け ~遅発性オメガは義弟に執心される~

天埜鳩愛

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そのまま二人は黙り込んで、少し重苦しい雰囲気を引きずったまま車で1時間も走らずホテルの駐車場まで辿り着いた。
 前回泊まったのと同じところがいいと思って、今回は柚希が同じホテルを予約していたのだ。

 『シェルターホテル』というのは通称で実際は通常のホテルの業務形態の一つだ。
 今回予約した部屋もそれなりに名の知れたホテルの一室だから一人暮らしの木造アパートでヒートを迎えるより余程安全だ。
     ホテルは4階部分がそれ専用のフロアになっている。設備も普通のホテルと大して変わらない。ルームキーを持つものしかその階に立ち入ることができないことを上手く利用したセキュリティ、看護師がホテルの医務室に常駐していて食事の差し入れや汚れ物の回収なども全て女性かΩ性を持つスタッフが行ってくれるという、安心安全をうたっている。もちろん緊急時には直ぐに近隣病院の診察も受けられる。

 発情期に入りそうだというのは基礎体温をいれる周期計算アプリや、月に一度は抑制剤の処方の関係などかかりつけ医に出向いた時に診察して貰って等、総合的に判断して大体このあたりだなという予測をつける。
 それに合わせて抑制剤の量も調節するが、本発情ともなると薬はそれなりに効いても周囲に影響を与えるほどのフェロモンの放出があり仕事は休まねばならなくなる。

 柚希の場合オメガ判定をつけられたのが成人してからと遅めで、β男性として何の制約もなく生きてきた意識が強すぎて、今でも自分がΩ性であることを中々受け入れられない、面倒くさく思う部分があるのは否めない。その上発情期の周期はまだ定まっていなくて通常四半期に1度と言われているより間が空くことがあったのは有難かった。
 しかしある程度予測をつけて調整しながら仕事をすればぎりぎりまで休まず粘れる。そのため、アプリ自体はとても重宝している。
 『誘惑する性』とまで言われるΩのフェロモンに引きずられて誰構わず誘うような真似だけはしたくないと人一倍気を使っていたのだ。

 街中でヒートを起こしてしまったオメガ用の緊急避難型の専用施設もあるにはあるが数は少ない。家族がいる場合は抑制剤を飲んで部屋に引きこもり、食事の世話などをしてもらえるが一人暮らしの若いオメガはそれも出来ないために、たった一人で家にこもりヒートを乗りきらねばならなくなる。
    柚希も実家住まいの頃は一度慣れぬヒート中、恥を忍んで母にあれこれと世話をしてもらったが、一人暮らしになってからも数回経験している。これが思いのほか辛い作業だ。

    抑制剤を服用してもピーク時には意識が飛ぶほどの酷い飢えに苛まれて、恥ずかしい話、アノことしか考えられなくなる。
  
 母が心配してアパートまできてくれたが、成人している男の自分がどうしてもみっともない姿を母に晒すことが嫌で、扉越しに対応して食べ物だけ置いて行ってもらったことがあった。
 最中にはどうしても気持ちが荒みがちで、さらに思いもいしないことも口走ってしまうのでどうしても家族を傍に寄らせたくはなかった。
    前々回のヒートの時に記憶はあいまいだが、もしかしたら心配して訪ねてきた和哉を付き合いたての晶と間違えて扉越しに誘うような変なことを言ってしまったかもしれない。
 後から自己嫌悪に陥るようなことばかりしてしまうので、シェルターホテルの存在は非常にありがたかった。

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