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可愛い弟

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「そんな理由で家族を避けて、番が欲しいからって理由だけで、晶先輩と付き合ってるなら、先輩に対しても不誠実だよね? 僕はそんなのとても看過できない」

 やはり和哉には番を欲しがる理由を見透かされていたようだ。自分の浅慮を恥じてかっと頬を赤らめると柚希は瞳を反らした。

「……晶のことは、ちゃんとする。ちゃんと、好きだと思う。だけど……」

 いうか言わないか逡巡を繰り返し、瞳を泳がせた柚希は一度ぎゅっと瞑目すると大きく息をついた。

「発情期が近くなると、どうしても晶に触れられると怖くて堪らなくなる。自分じゃどうしてもこの感情を抑えられないんだ。あいつのこと好きなのに、どうしてか分からないんだ……。どうしてそんな風になっちまうのかも、謎。自分のことなのに、謎すぎ。俺はさ、ずっと自分のことが何一つ分からないまま、この二年、ずっと……。自分で自分をどうしたらいいのか、まるで分からないんだ」

 今までで誰にも言えず、心に秘めていた思いを、ついに弟に吐露して、柚希はまた顔を覆って項垂れた。

 この2年、Ωになってからは苦しくて怖くて、たまらなかった。
 βの頃の自分はひたすら燦燦と明るい陽の光の下、ただ毎日仲間と馬鹿をやったり、髪型がどうとか、勉強が意外と難しいとか、バイト先の人間関係とか、そんな普通のことで悩んでいたのに。
 今までの自分を認めてくれていた居場所すら失い、Ωとしての新たな生を得た、普通の男の頭を持った孕む身体を持つ、まるで『クリーチャー』のような自分自身を持て余した。
   普段通りいつも通り、前と同じようにしようとすればするほど今の自分とのギャップに悩んだのだ。

 和哉は互いのシートベルトを外してブランケットごと、兄の身体を包み込むように抱きしめた。じわじわと染みこむ温かさ。路肩の脇の金木犀の芳香がまたふわふわと優しく柚希を包み込んでくれる。ほうっと安堵の吐息をつくと、父によく似ているがやはり少し違うちょっと甘く熱に浮かされたような掠れた声で和哉が柚希の耳に付きそうな近さに唇を寄せて囁いた。

「……無理しないで。兄さん。苦しい思いをしてまで、すぐに番を作らなくたっていいんだよ? シェルターに入って、落ち着いたらまた考えればいいでしょ? 先輩には俺から連絡してあげるから。兄さんはゆっくり休むんだ」

    蕩けるように甘く、耳をじんっと擽る言葉に柚希が無意識に色気滴る吐息を「はぁ」と漏らすと、和哉は柚希に見えぬ角度で唇を吊り上げ微笑んだ。
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