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可愛い弟

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 ふと、車内でスマホの放つ振動音が聞こえてきた。晶はまだ仕事中のはずなのにまたスマホが律動している音がして、少し怖い顔をした和哉と目が合う。

「スマホ……」

 スマホが入っているはずの鞄を探したが見当たらない。
 和哉が荷物全てを後部座席に置いていたので動いたら気分が悪くなりそうだったので無理に探すのをやめておいた。

「.......なあ、和哉。夜になったらシェルターから晶に連絡して、やっぱり番になろうって頼んだ方がいいのかもな?  ……うん。それがいいって思えてきた。お前とこんなふうに密室で二人っきりなのもさ、本当はあんまりよくないだろ? 幾らβで抑制剤飲んでても、Ωのフェロモン効かないわけじゃないし。お前だってこんな危なっかしいやつが、兄貴なんてやだろ?? 番ができたらちょっとは普通の兄貴に戻れるし……。そしたらたまに発情期があるだけで後のもう殆どただのβの男と変わらないはずだ。お前だってこの先就職もするし、好きな人もできるだろ? 今みたいにお前に時間を取らせるのもさ」

 すると順調に運転中だったのにかっと目じりを赤く染めた和哉が顔色を変え、急に路肩に車を押し付けるように急停止させた。

 驚いて顔を強張らせた柚希に和哉が切なげな顔をして向き直る。

「ねえ、兄さん。僕が好きで兄さんの世話を焼くのがそんなに迷惑? 僕が兄さんが好きだからこうして少しでも長く一緒にいたいからじゃ駄目なの?」
「俺だってお前のことが大好きだ。……だから世話は掛けたくない。分かるだろ?」
「わからないよ」

 しかしその言葉の何が気に障ったのか和哉は痛いぐらいに今度は大きな掌で柚希の現役時代よりは幾分細くなった二の腕を掴み上げて軽く揺さぶった。
 流石に気分が悪くてぐたっとすると、はっとしたような顔をしてシートに頬を埋めた柚希の顔を両手で掴んで、長い指の腹と掌で慰めるようにすりりっと撫ぜ上げる。

 
この仕草には覚えがあった。真冬の公園で飽かず二人でボールをついて遊んでいた時、あまりにも寒くて和哉のほっぺが真っ赤っかになってしまった時。
柚希が両手で温めてよく摺り上げてやっていた。
 それ以降も容姿のことで揶揄われたとか、誰それと喧嘩したとか和哉が落ち込んでいる時に二人の間で、慰める時の定番のような仕草になっていた。
 今は和哉が柚希に優しく頬を撫ぜている。
 しかし強い眼差しで兄を覗き混み、口にした言葉は厳しいものだった。

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