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逃避

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 自尊心がボロボロの時に、好きの一言は心にずしん、と響く。

『お前、それ殺し文句すぎ……。イケメンか』
『俺も少しは大人になったってことですよ。貴方の事、今なら支えられる』

 出会ったことは人間関係に不器用で、強い選手であるが故、同級生の中でどこか浮いていた青年はすっかり大人の男になって余裕さえ漂わせていた。
 その後もそのまま夜が更けるまで、何故か熱心に『付き合ってください』と請われた。
 今は気まぐれに柚希と付き合っていても、きっといつかは強烈に惹かれるオメガが現れて、晶はそちらに行ってしまうこともあるだろう。柚希自身もまだΩである自分に納得がいっていたわけではないからそれはそれで都合がいいと思った。
 ただ寒空の下、たった一人でいるのが寂しすぎたから、『じゃあ、試しに』と付き合い始めた。それももうすぐ九か月といったところだ。
 
 付き合ってすぐに来た発情期は時期尚早と番にならなかった。
 その後は勿論、若い男同士それなりにちょっとエッチな行為はしてきたが、主に口や手を使う程度で最後までは致していない。Ωとαが発情期に性交したら、いきなり子供ができてしまうこともあり得る。
 柚希には今その覚悟がないと告げ、晶がそれを尊重して大切にしてくれたからだ。晶が柚希と番になることを望んでくれていると、その熱意も伝わっていた。

 それなのに。
 迎えた二度目の発情期。柚希はこんなにも愛情を捧げてくれた相手から、意図的に逃げ出したのだ。

 『俺と番う気がないのに、なんで付き合ってくれたの?』

 前回の発情期。
 休暇をきっちり使い切り、ホテルからヘロヘロの状態で自宅に戻って来た時、晶は柚希の帰宅を見計らったように訪ねてきてそう告げた。
 流石に傷ついたような悲し気な顔をしていたが、普段通り静かな口調だった。いっそ怒鳴りつけてくれたのならまだましだったが、晶はそんな時でも温厚で紳士的で、柚希にはもったいない程の気配りの出来るいい男だった。それが余計に柚希の罪悪感を高めた。

『晶のこと、好きだ。番う気がないわけじゃない……。ただちょっとだけ、気持ちを整理する時間が欲しいんだ。俺、Ωになってまだ二年だし……』
『俺と番う気がないのに、なんで付き合ってくれたの?』

 柚希はどこかでまだΩである自分に納得がいかないのだ。ただそれだけだった。
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