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逃避

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 一人暮らしをしていた家にすぐに帰る気になれずにいたら、その雰囲気を察したのか、晶は近くの公園で会えなくなっていた間の話を沢山聞いてくれた。
 今まで自分がΩ性に変化したことをどうにか肯定的に捉えようと頑張ったこと。でもどう考えても不便ばかりが付きまとって一つもいいとは思えなかったこと。
 家族にすら打ち明けられぬ蓄積して言った沢山の不平不満、そして誰からも理解されぬ哀しみ。それをぼやける相手もおらず、いつも悩みがなく明るいところが取り柄だった自分が鬱々と暗い悩みを抱えていると。
 そもそもそんな腐った姿を人に見せていることすら嫌で、限界まで我慢していた思いが酒の力も手伝って大爆発したのだろう。

『俺はただ、これからも家族みんなで幸せに暮らしていきたかっただけなんだよ! なのに、なんでこんなことになっちまったんだよ!』

 柚希は晶に見守られながら、真冬の公園でおいおい泣きじゃくりながら、さらにコンビニで買ってきた缶チューハイを煽った。ぐしゃぐしゃの顔で鼻水を啜る姿は、さぞかし滑稽でみっともなかったことだろう。
 だが最後まで根気強く話を聞いてくれた彼は、柚希を憐れに思ったのか、多分同情から告白をしてくれたのだ。

『ユズ先輩。俺と付き合いませんか?』
『はあ? 今の流れでなんでそうなんの?』

 学生時代に『スリーオンスリーやりませんか?』と誘ってくれた時ぐらいごく自然にそう告げられた。
 ときめいたというより驚いて思わず吹き出してしまった。最初は冗談かと思い、『俺ではお前に釣り合わないから、やめとけやめとけ』と言ったが昔から沿うと決めたら頑固なところがある晶はそれを取り合わなかった。

『先輩の事、ずっと見てきましたから。人となりはよくわかっているつもりです。チームを明るく引っ張ってきた貴方が、あんな扱いを受けていいはずがない。学生時代、貴方の優しさに俺は幾度も助けられた。今度は俺に貴方の事を、守らせてくれませんか?』

 晶は学生時代に慕ってくれた後輩であり、のちに下の代ではキャプテンになっていた。もちろん柚希も晶の面倒見がいい性格の事をよくわかっていた。

『いや、でも。お前付き合っているやついるだろ? 学生時代からモテまくってたし』
『いませんよ。αっていうだけで寄ってくる相手がそれなりにいただけです。付き合いたかった相手は、俺にはとても手が届かない高根の花だったから……』
『ふうん……。そっか』
 
 寂し気に微笑む彼の姿をみて、きっと好きだった相手はもうすでに誰かの番にでもなってしまったのだろうとその時思った。
『だからってさ。なにも男のΩの俺と付き合わなくても、お前なら望んだ相手と絶対番えるだろ』
『そううまくいくものじゃないんですよ。先輩相変わらずですね』
『悪かったな。単純な性格で!』
『そういう先輩の素直なところ、俺は好きです』
『……』

 
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