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逃避
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ベッドサイドの小さなテーブルに置かれたスマホがまた律動し、画面に晶の実家で飼われている愛犬のプードルのぬいぐるみのような顏が映し出された。
「……晶」
まだ完全に発情期が始まっているわけではないが、徐々に倦怠感が増し起き上がるのも億劫だ。悪いと思いつつもちらりと一瞥をくれた後、枕に顔を埋めて無視を決め込む。しかし正直、晶からの鬼のような着信履歴を確認するのが恐ろしいのだ。
(晶。ごめんな)
本当は恋人の晶と番になって即結婚してしまえばこんな苦労をすることもないだろう。
だが柚希が成人後という思いがけないタイミングでΩの判定をされてからまだほんの二年弱だ。
それだけ時が経ったと言われればそれまでだが、柚希はそうは思えない。それまでの人生を自分はβ男性だと思って生きてきた、自分自身を捨てきれない。
前回の発情期も晶と番になる踏ん切りがつかず、結局弟の和哉が探してくれた番のいないΩ向けのシェルターホテルで乗り切った。発情期のΩへの配慮の行き届いたシェルターホテルへの滞在は一週間近くなり、薄給の身の上にはかなりの出費が厳しかった。しかし役所へ申請すれば後から補助金も降りると和哉が調べてきてくれたので、ありがたくその制度を使わせてもらった。持つべきものは出来のいい弟だ。
そうしている間にもまたスマホが長く震え、その音をに柚希の心も共に揺さぶられる。
(流石にもう、別れようって言われるかな……)
晶は高校のバスケ部の一つ年下の後輩だった。派手なタチではないが長身でバスケも上手で、当時から柚希を慕い懐いてくれていた。そもそもは可愛い後輩だ。
(晶が今まで俺に対して怒ったところなんて見たことないけど……。今回ばかりはキレるかもな。いや、むしろ呆れるか? 今度こそ別れようって言われるだろうな。そもそも急にΩになんてなっちまった俺のことを心配して恋人になってくれたようなものなのに……。晶。煮えきらなくて、ごめん。馬鹿な俺で、ごめん)
端正な顔立ちで黙っていると切れ長で鋭い瞳が、笑うと途端に穏やかに見える。穏やかな彼の面差しを思い浮かべて柚希は心の中で詫びを繰り返した。
顔好し、頭好し、性格も良くて、おまけにバスケも上手。選手層が薄かった柚希の代と一緒にプレーをすることも多く、チームメイトでいられる期間も試合の遠征の時など一緒に行動する時間も長かった。
先輩たちの中で気を遣うことも多いだろうと、副キャプテンだった柚希は晶がチームに溶け込めるよう特別彼を可愛がっていた。そんな柚希を晶も慕ってくれて、二人は他の同級生と同じくらい気安く、一緒に遊ぶことも多かった。もちろんその頃は恋人同士のような関係ではない、あくまで先輩後輩の域を出なかった。
当時柚希は自分がβだと思っていたし、実際高校在学中希望者に行われる一次判定の結果もβだった。自分で言うのもなんだが柚希は目元もパッチリとして鼻筋も通った、割と整った顔立ちをしていると思う。女の子からそれなりにモテた。
晶と付き合った今となっては笑い話だが、当時バスケ部内で仲の良いもの同士で恋人がいるものはその子も連れて水族館にグループデートに行ったりした。その中に柚希も晶も当時の彼女がいたのだ。二人とも女の子の方とはすぐに疎遠になったが、まさか後々晶の方と付き合うことになるなんて、そんなとんでもない展開を想像できたはずもない。
「……晶」
まだ完全に発情期が始まっているわけではないが、徐々に倦怠感が増し起き上がるのも億劫だ。悪いと思いつつもちらりと一瞥をくれた後、枕に顔を埋めて無視を決め込む。しかし正直、晶からの鬼のような着信履歴を確認するのが恐ろしいのだ。
(晶。ごめんな)
本当は恋人の晶と番になって即結婚してしまえばこんな苦労をすることもないだろう。
だが柚希が成人後という思いがけないタイミングでΩの判定をされてからまだほんの二年弱だ。
それだけ時が経ったと言われればそれまでだが、柚希はそうは思えない。それまでの人生を自分はβ男性だと思って生きてきた、自分自身を捨てきれない。
前回の発情期も晶と番になる踏ん切りがつかず、結局弟の和哉が探してくれた番のいないΩ向けのシェルターホテルで乗り切った。発情期のΩへの配慮の行き届いたシェルターホテルへの滞在は一週間近くなり、薄給の身の上にはかなりの出費が厳しかった。しかし役所へ申請すれば後から補助金も降りると和哉が調べてきてくれたので、ありがたくその制度を使わせてもらった。持つべきものは出来のいい弟だ。
そうしている間にもまたスマホが長く震え、その音をに柚希の心も共に揺さぶられる。
(流石にもう、別れようって言われるかな……)
晶は高校のバスケ部の一つ年下の後輩だった。派手なタチではないが長身でバスケも上手で、当時から柚希を慕い懐いてくれていた。そもそもは可愛い後輩だ。
(晶が今まで俺に対して怒ったところなんて見たことないけど……。今回ばかりはキレるかもな。いや、むしろ呆れるか? 今度こそ別れようって言われるだろうな。そもそも急にΩになんてなっちまった俺のことを心配して恋人になってくれたようなものなのに……。晶。煮えきらなくて、ごめん。馬鹿な俺で、ごめん)
端正な顔立ちで黙っていると切れ長で鋭い瞳が、笑うと途端に穏やかに見える。穏やかな彼の面差しを思い浮かべて柚希は心の中で詫びを繰り返した。
顔好し、頭好し、性格も良くて、おまけにバスケも上手。選手層が薄かった柚希の代と一緒にプレーをすることも多く、チームメイトでいられる期間も試合の遠征の時など一緒に行動する時間も長かった。
先輩たちの中で気を遣うことも多いだろうと、副キャプテンだった柚希は晶がチームに溶け込めるよう特別彼を可愛がっていた。そんな柚希を晶も慕ってくれて、二人は他の同級生と同じくらい気安く、一緒に遊ぶことも多かった。もちろんその頃は恋人同士のような関係ではない、あくまで先輩後輩の域を出なかった。
当時柚希は自分がβだと思っていたし、実際高校在学中希望者に行われる一次判定の結果もβだった。自分で言うのもなんだが柚希は目元もパッチリとして鼻筋も通った、割と整った顔立ちをしていると思う。女の子からそれなりにモテた。
晶と付き合った今となっては笑い話だが、当時バスケ部内で仲の良いもの同士で恋人がいるものはその子も連れて水族館にグループデートに行ったりした。その中に柚希も晶も当時の彼女がいたのだ。二人とも女の子の方とはすぐに疎遠になったが、まさか後々晶の方と付き合うことになるなんて、そんなとんでもない展開を想像できたはずもない。
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