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項の痛み

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(これは、まずいかも……)

 柚希は重い身体を起こし、意を決してベッドに手をつくとのろのろと起き上がる。

「うわっ……」

 思わず声を漏らしてしまった。視界に入った腕といい足といい、情事の鬱血や噛み跡がべったりと身体のそこかしこに散らされていたからだ。艶めかしい経験に乏しい柚希にも流石にわが身に何が起きたのか悟り、いよいよ身体の震えが止まらなくなる。
 
「うっ……、項は……」

 Ωである柚希が最も注意を傾けねばならぬ項。震える指先でその場所をなぞれば一際鋭い痛みが返ってきた。ひりひりとした感触にびびりながら目を眇めて掌を見た。
 刺激的な真っ赤なものが指の腹にベッタリと付いていたような気がしてた。驚いてよく確認もせぬまま、思わず真っ白な上掛けでごしごしと拭ってしまう。

(こっ、怖い。見たくない。いやでも、大事な事だろ。早く……、早く確認しないと)

 腰も背中も股関節も鈍くずきりと痛む。身体を使う仕事柄、体力には自信がある方だが、身体が重たくてたまらない。足を引き摺るようにして、柚希はバスルームと思わしき場所まで向かう。すると中から迸る水音がしてきた。

( 誰かいる……)

 自分以外の人間が扉を隔てた向こうにいる。相手が誰であるか分からないのが怖くてたまらない。一瞬逃げようと思ったが足が床に縫い留められたように上手く動かない。
 柚希は茫然と立ちすくみながらも、ヒートに入る直前の自身の行動を必死に思い出そうとした。

(誰? 晶?)

 バスルームの中ではいつのまにか水音が止み、かちゃりと扉が開いた。

「……っ!」

 中から現れた逞しい身体がαのフェロモンを悩ましく放ち、柚希の全てを刺激する。ずくんっと下腹が重くなり、頬が急激に火照ってきた。

「……どうして、お前が?」

 へなへなと腰が砕け、逃げることもできずに扉の前にへたり込んでしまった。そんな柚希を見下ろしていた男が、扉から一歩踏みだす。バスローブから脛には、しっかりとした筋肉がついた覗いている。そのまま視線を上げて、相手に訝し気な視線を投げる。すると逞しい身体が攫うように柚希を抱き上げてきた。

「まっ……、駄目」

 静止を破られ、顔を寄せられる。有無を言わせぬ情熱的な口付けを受けながらも柚希は身体を強張らせつつ、目覚めるまでの記憶を必死で手繰り寄せていた。
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