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項の痛み
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一ノ瀬柚希は何か心を揺さぶられるような長い夢を見ていた気がした。しかしその内容を目が覚めたら全て忘れてしまっていた。
(あれ……、俺泣いてた?)
指先で頬に触れれば濡れた感触と、瞼が重くひりつく感覚があった。しかし頭に靄がかかったように眠る前の記憶を上手く辿れず首をひねる。
広いベッドの上、柚希は気だるげに身を起こす。
「どこだ、ここ……」
真っ白なリネンが清潔感がある、ホテルの一室のようだ。水滴がついた窓の向こうに遮るものがなく、鈍色の雲を割る様に秋の日が差し込んでいる。その眩しさにつきんっと頭の痛みも感じ柚希は目を細る。
(えっと……。昨日……ってか一昨日? 午後発情期に入りそうだから早退して、次の昼にアパートまでが和哉迎えに来てくれて、シェルターホテルまで送ってくれることになったんだっけ?)
意識は徐々に冴えてきたが、身体中がやたらと痛くて怠い。中学生の頃入部したてのバスケ部でしごかれた後、階段を上ることすら辛いと感じたあの筋肉痛、あれに近い怠さだ。
この世の中にはα、β、Ωの第二次性をもつ人間が暮らしているが、第二次性にΩをもつ柚希は数か月に一回発情期という厄介事を抱えている。動物の発情期に似たその時期には熱に浮かされ色欲に苛まれる。直前の記憶が飛ぶこともままあったが、今回はとくに酷いようだ。
(その後、晶から電話があって……。それで……。それから?)
事情を聞こうにも弟の和哉、恋人の晶。
頼もしい二人の男の姿はどちらもここにはない。
寝返りを打ち、一つ一つ直前の行いを確認している間も、全身が色々な不調を訴えかけてくる。
脚の付け根に腰、そして口で言うには憚られるような場所、端的にいえば尻の辺りだが、じんじんと熱を帯びたようにむず痒いような痛みを訴えてくることに慄いた。
(マジか……。ついにやってしまったか……)
柚希は眉間にしわが寄るほどぎゅっと眼を瞑った。勿論腰回りの色々が気になるのは当然であったが、しかしΩ男子の端くれとして真っ先に気にせねばいけないのは別の場所だった。項からズキズキと断続的に鮮明な痛みが送られてくのだ。
(やばい……)
血の気がさあっと引き、柚希は青白い顔でぶるっと身体を震わせた。
項はΩにとって急所といってもよい大切なその場所を、発情期にα性を持つものから噛みつかれたら、番契約というものが成立してしまう。番契約は一度成立してしまえば、Ωは一生涯、そのαに文字通り囚われることになるのだ。
(あれ……、俺泣いてた?)
指先で頬に触れれば濡れた感触と、瞼が重くひりつく感覚があった。しかし頭に靄がかかったように眠る前の記憶を上手く辿れず首をひねる。
広いベッドの上、柚希は気だるげに身を起こす。
「どこだ、ここ……」
真っ白なリネンが清潔感がある、ホテルの一室のようだ。水滴がついた窓の向こうに遮るものがなく、鈍色の雲を割る様に秋の日が差し込んでいる。その眩しさにつきんっと頭の痛みも感じ柚希は目を細る。
(えっと……。昨日……ってか一昨日? 午後発情期に入りそうだから早退して、次の昼にアパートまでが和哉迎えに来てくれて、シェルターホテルまで送ってくれることになったんだっけ?)
意識は徐々に冴えてきたが、身体中がやたらと痛くて怠い。中学生の頃入部したてのバスケ部でしごかれた後、階段を上ることすら辛いと感じたあの筋肉痛、あれに近い怠さだ。
この世の中にはα、β、Ωの第二次性をもつ人間が暮らしているが、第二次性にΩをもつ柚希は数か月に一回発情期という厄介事を抱えている。動物の発情期に似たその時期には熱に浮かされ色欲に苛まれる。直前の記憶が飛ぶこともままあったが、今回はとくに酷いようだ。
(その後、晶から電話があって……。それで……。それから?)
事情を聞こうにも弟の和哉、恋人の晶。
頼もしい二人の男の姿はどちらもここにはない。
寝返りを打ち、一つ一つ直前の行いを確認している間も、全身が色々な不調を訴えかけてくる。
脚の付け根に腰、そして口で言うには憚られるような場所、端的にいえば尻の辺りだが、じんじんと熱を帯びたようにむず痒いような痛みを訴えてくることに慄いた。
(マジか……。ついにやってしまったか……)
柚希は眉間にしわが寄るほどぎゅっと眼を瞑った。勿論腰回りの色々が気になるのは当然であったが、しかしΩ男子の端くれとして真っ先に気にせねばいけないのは別の場所だった。項からズキズキと断続的に鮮明な痛みが送られてくのだ。
(やばい……)
血の気がさあっと引き、柚希は青白い顔でぶるっと身体を震わせた。
項はΩにとって急所といってもよい大切なその場所を、発情期にα性を持つものから噛みつかれたら、番契約というものが成立してしまう。番契約は一度成立してしまえば、Ωは一生涯、そのαに文字通り囚われることになるのだ。
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