八尋学園平凡(?)奮闘記

キセイ

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第41話 一歩踏み出すってよ

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「ん.....ん?」


なんだろうこの匂い.....?
鼻をヒクヒクさせると香ばしいいい匂いが俺の鼻をくすぐる。

「はっ!?」

ばさりと起き上がる。
.....ばさり?
横を見ると俺に掛けられていたであろう布団がベッドに。

「いい匂い....じゃなくてココどこ??」

俺の寮部屋と似ているけど、どこか....そう金がかかって見える。室内はシンプルで物はあまり置いていない。だけど所々ある装飾に金がかかってるなぁと思わされる。

マジでどこだここ?

えーっと、昨日は体育祭(めっちゃ濃い)があって、それで.....優勝して。その後おっちゃん片付け頼まれたんだっけ?そんで旧体育倉庫行って、閉じ込めら、れ....て。


「ぅわ~........」


思わず呻く。覚えてる。思い出した。
俺、おっちゃんにあんな事言って......っ!

じゃあ流れ的にここはおっちゃんの部屋!?

その考えに至ったとき丁度部屋の扉が開いた。
そこに居たのはやはりジャージ姿のおっちゃんだった。


「お、猫屋起きたか。おはよう」

「お、おおおはよう!」

「すっげぇ元気だな?腹減ってるだろ、顔洗ってこっち来いよ」


おっちゃんはそう言って引っ込む。
.....なんだか普通だ。
俺は自分の言った言葉はうろ覚えながらも頭にある。だけどおっちゃんが俺に言った言葉がはっきり思い出せない。

なにか重大なことを言われたような気がしたんだけど......あの時は自分のことで精一杯だったから他に気をやる暇がなかった。

しかも俺のあの乱れようを見て、自然に接されるとこう気恥しさが......ね。おっちゃん俺に引いてないかな?俺だったら他人にあんなの見せられたら引く自信しかないし。

そうもんもんとした気持ちで顔を洗い諸々を終わらせた俺はおっちゃんが居るであろう部屋に移動した。


「ん、来たか。飯食うぞ」


テーブルを見ると、そこには俺の好物である魚介天丼が置いてあった。


「魚介天丼!!」


一気にお腹が空いたように感じた。さっきまで空腹とか感じてなかったのに、口の中が涎で溢れそうだ。


「いただきますっ!!」

「ははっ、食え食え」


( ゜д゜)ンマッ!
美味い....モグモグモグモグモグモグモグモグモグモグモグモグモグモグモグモグモグモグモグモグ

箸が止まんねぇぜ!


「これっておっちゃんの手作り!?」

「いや違ぇけど......んー、練習しようかっな」

「えっ、なんで?」

「そりゃ、猫屋に毎日食べてもらいたいから....だろ」

「へぇ~......ん?」


なんか今胸がザワっときた。
あさっての方向に顔を向けるおっちゃんをじっと見てそのザワつきの正体を探す。


「っ、おいあんま見んな。おっちゃん照れるだろ~」

「あー.....ごめん。えっと、おっちゃんが魚介天丼作るなら食べに行っちゃおっかなーなんて....」

「はぁ?おっちゃんは猫屋のために作るんだ。お前が食べなきゃ誰が食うんだよ」

「な、なるほど。いや、なんだか『お前の為に毎日味噌汁作ってやる』的なプロポーズみたいだなぁっておも、って.....さ」


あ、これ俺余計な事言った。
おっちゃんの顔がぶわりと赤くなったのを見て後悔する。


「なーんてね!!冗談だよおっちゃん~!あっ、このタレ美味いな~。アジの天ぷら最高」

「猫屋」

「俺も作れるようになりたいな~。そうすれば毎日食えるし!作るならアナゴの天ぷらを盛り付けたいなぁ」

「猫屋」

「っ」


天丼に向けていた視線を声の聞こえた方に向けると、向かい合わせに座っていたはずのおっちゃんが俺のすぐそばに居た。
そのまま視線を辿ると箸を持つ右手がおっちゃんの大きな手に掴まれている。


「猫屋、俺を見ろ。見てくれ.....」


懇願するような声だった。俺がおっちゃんと出会って初めて聞く悲痛な声だ。思わず顔を顰める。

そんなふうに請われたら、向き合わざる負えないじゃないか。

渋々視線をあげるとどこか恥ずかしそうに頬を染め、俺を真っ直ぐ見つめるおっちゃんがいた。


「猫屋....さっきはプロポーズみたいになっちまったが、あれは言い過ぎた。悪い」


その言葉に俺はほっとする。なんだやっぱり冗談か、と。
しかしーー


「だが、俺が猫屋にそういう感情を抱いているのは本当だ」


息をするのも忘れて菫色の瞳を凝視する。
真剣な瞳だ。嘘じゃない。からかってもいない。

あぁ、本当に.....


「俺はお前が好きだ」


俺は好かれるような人間じゃないのに


「.....先生、その気持ちは多分ペットに対する愛玩とかだよ。ほら、よく俺に餌付けしてたじゃん。俺を恋愛的に好きになるなんて有り得ない。こんな俺を好きになるなんて......間違ってる」

「.....お前が自分を否定してもいいが俺の気持ちを否定しないでくれ」


俺の言葉を一蹴する。


「猫屋....俺と付き合ってくれ。あぁ恋人になろうってわけな?」

ぐっ、どこに付き合えばいいの?っていうとぼけも封じられた。
それでも俺は断ろうと口を開けるが遮られる。

「お」

「断っても何も変わらねぇよ」

「.....それは脅し?」

「違う。別に断ってもいいぞ?俺はお前を思い続けるって決めてるからな。ただ、よく考えろ。八尋・済賀・藍田の3人に狙われてるお前はこの先どうなるのか。.....俺には壊される未来しか見えねぇよ。お前も薄々感じてるだろ?」


そうだね、感じてる。
この学園を卒業する頃にはすっかり廃人になってるだろうなって。.....廃人は言い過ぎかもしれないけど、まぁ無事では済まないよね。

そんな俺の悟った様子をおっちゃんは顔を顰めて見ていた。


「俺はお前を守りたいんだ。別に守られたくないって言うなら.....俺を利用しろ。ピーピーうるせぇ虫除けに俺という恋人の存在をチラつかせてもいい、八尋に俺を使って牽制してもいい、済賀に襲われそうになったら俺を呼んでもいい、いや呼べ。藍田は....まぁよくわかんねぇけど、好きなように利用すればいい。俺はお前に全てをあげたいんだ」

「.....おっちゃん、俺不誠実なことはしたくないよ。俺に好意を持ってるおっちゃんを利用するだなんてできない。だからーー」

「それだとお前はこの先どうアイツらを抑えるんだ?味方もいない、相談出来るやつもいない、頼れる友達もいない....周りは敵だらけだろ」

「おっちゃん大丈夫だよ。俺強いから。あ、メンタルがね?だって済賀君にレイプされても平気だったし、とーが君にーー」

「っだから!!!」


大きな声に肩が跳ねた。
カランと持っていた箸がテーブルに落ちる。


「平気平気って言っても、お前の心は疲弊してんだよ!!!......俺が言うことじゃねぇが、お前は身勝手な執着のせいで傷つけられてんだ。もう既にボロボロなんだよ.....」


胸が痛い。頭痛がする。目眩がする。
熱い眼差しに身が焼かれそうだ。

そんな目で見ないで......

なんでそんな苦しそうな顔をしてるの


「お前を一人にもう出来ない。気づいたからにはそばに居たいんだ」


熱い熱い熱い熱いっ
掴まれた右腕が燃えるように熱く感じる。


「俺を好きになってくれとは言わないし、強制もしない。なぁ一歩踏み出してもいいんじゃねぇか?」


そんなの怖いじゃないか。
俺に恋人?恋愛?
あぁ、でも恋人になるだけで恋愛はしなくていいんだっけ
だけどおっちゃんに対して不誠実だよ?
でもそれでもいいとおっちゃんは言う

『一歩踏み出してもいいんじゃねぇか?』

踏み出してもいいかな?
逃げなくてもいいかな?
俺は変わるべきなんだろうか?

なんでこんなことになってるんだろう?
俺はただ平穏に過ごしたいだけなのに。

俺が変わらなくちゃいけないの?
俺が悪いの?

『なんで俺が?』っていう不満と、『そうだ。変わらなきゃ』という納得が俺の中で渦巻く。


そして思い出すのは暗い部屋で震えるあの時の俺。


「.....好意を返されないのはとても辛いことだよ?それでもいいの?」


苦々しく俺はおっちゃんにそう聞く。
俺はその辛さを間近で見たことがあるから.....。


「大丈夫だ。これでも俺はメンタル強いんだぜ?」

「あはははっ、屋上でネガティブになってた先生が何言ってるの!」


先生のドヤ顔とその言葉に思わず笑う。

.....うん、もういいや。
俺も変わらなくちゃ、向き合わなきゃ。
恋愛とかわかんないけど、一歩踏み出してみよう。それになにか行動しなくちゃ俺の未来はないんだろうし。


「おっちゃん、俺は恋愛とか分かんないし、いや多分嫌いだ。利用すればいいって言ってくれてたけど、本当にしちゃうと思う。きっと何度も何度もおっちゃんを苦しめる。俺は卑怯者だから.....。こんな俺でも本当に....」

「ああ。そばに居たい」

「.....そう。なら付き合おっか」



俺の言葉に嬉しそうに破顔する先生を見て漠然と感じる。

どんな選択をしても俺の未来は修正不可能までに歪んでいるんだろうなって。


でも頑張って足掻いてみよう.....より良い俺の未来の為に



「不束者ですがよろしくお願いします。おっちゃん....いや、将弥さん」

「ぶっ」



......大丈夫かなぁ?

鼻を押えて蹲る将弥さんにチラリと目を向けた俺は不安を胸にため息をつく。

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