八尋学園平凡(?)奮闘記

キセイ

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第39話 死闘と書いて体育祭と読むんだってよ⑤

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開始の合図が出された瞬間、膨れ上がる殺気。
周りのギャラリーは息を飲み先程まで騒いでいたのが嘘のように静まり返った。


「死ねクソ眼鏡!!」


悪鬼から放たれるのは人を殺せるんじゃね?と見るものを恐怖に震わせる、まさに死球。
野球のデッドボールではない。読んで字のごとく当たったら死ぬ球だ。

狙われたのはやはり辰巳君。
あんな球受けるのは危険。だから避けると思われたが、彼はバジィィィッン!!と受け止めた。
球威が凄かったのか、足が10cmくらい後ろに下がっている。

皆が固唾を呑む中、辰巳君はメガネの奥の瞳を殺意に揺らめかせて悪鬼を見据えた。


「ふはっ.....死ねや」


静かな殺意を乗せたボールが放たれる。先程悪鬼が放ったボールのように当たったら人を殺せそうな球威だ。
殺す球........殺球。

しかし悪鬼も物凄い音を立てながら両腕でキャッチした。



はい、ここまで実況した俺から一言言わせてください。


棄権したいです!!!!!!(必死)


これ、凡人が関わったら即死ぬやつやん。即死ぬやつやん(2回目)

2人が死の当て合いをしているのを尻目に、俺はコート内の味方を集めた。
多分あの人たちは互いにしか目がいってないからまだ狙われないと思う。だから今のうちに皆に言いたいことを伝えよう。


「どうしました?設楽様」

「葉鳥君、様付けと敬語やめて。他と同じように接してください。......じゃなくて、みんなこの死合見て何も思わないの?」

「未途.....俺はあの二人の間に入る勇気はないぞ」


王道君が顔を青ざめさせて(瓶底メガネで見えずらいが)そう言った。

俺はそんなことを言う彼を意外に思う。だって、弱気になるなんてダメだ!とか言うと思ってたから。
.....さすがの彼でも命は惜しいのだろうか?
いや、誰でも命は惜しいよな。


「お、俺もちょっと怖い」

「僕も無理.....かも」

「死んじゃうよあれぇ....」


王道君のこの死合への否定的な言葉に次々と賛同者が現れる。皆もここまで死と隣り合わせになるとは思わなかったらしい。


「何を言って「葉鳥君シャラップ!!」....わかりました」


辰巳君信者である(推定だが)君は黙っててね?


「よし!棄権しよっか!!」

「それは委員長が許さないんじゃないかナ?」

「「「「か、会計様」」」」

「僕、藍田君に殺されるなんて御免だからね!」

「「「「しょ、書記様」」」」


君達のそのリアクション、イラッとくるんでやめてもらっていいかな?
いかんいかん。このペースに飲まれてしまっては話が進まなくなる....。
話を戻して、


「そこは大丈夫。俺が辰巳君に言うから。それに紅組も棄権したい人多いと思うし」


うん....だって凄い視線感じるし、副会長が笑顔で俺を手招きしている。
というか副会長久しぶりに見たな.....体育祭ちゃんと出てたのか?


「俺が紅組と交渉してくる!」


見送られる声を背に俺は副会長と対峙する。
銀髪に赤い鉢巻......くそっ、鉢巻をしていてもこの女神オーラが消えねぇ!交流会で1度女神と見間違えてから、イメージが女神に固定されちまったぜ.......。

ニコリと笑う副会長に俺も負けじと笑みを返す。


「すいません、紅組から提案があるのですが」

「あれ?偶然ですね。白組からも提案があるんですよ。......ではお先にそちらからどうぞ?」

「......ふふふ、紅組は会長、三津谷、済賀を残してそれ以外は棄権します。なのでそちらの大将にその旨を伝えて欲しいんです。あ、会長にはもう許可を取りましたから。」

「なるほど.......ちょっとタンマ」


俺は副会長の了承を得てその場から離れ味方の元へそそくさと戻る。
.....いや、だってもうめっちゃ決めてんじゃん。
俺としてはこっち棄権するから一緒にそっちも棄権しない?って提案するつもりだったのに。そこまで細かい所詰めてるとは思わないじゃん?
俺、今すごい恥ずかしいよ......


「なぁみんな。紅組は大将、副将、済賀君を残してそれ以外は棄権するらしい。俺達はどうする?」

「僕は棄権するよ。この綺麗な顔に傷がついたら正気じゃいられないし」


書記......ナルシストか。
周りも是非そうしてください!とか言ってるし。
うん、もういいよ。はい!書記は棄権ね。


「オレは~どうしよっかナ~.....」


迷う素振りを見せながら王道君をチラ見する会計.....王道君次第ってか。


「愛斗君はどうする?」

「俺は......流石にあそこまでガチでやるなら棄権するぞ」

「賢明な判断だよ愛斗君!」

「じゃあオレも棄権すル~」


王道君と会計も棄権と。
その結果、残ったのは葉鳥君のみだった。

死闘中の辰巳君に棄権の旨を伝えたが笑顔でOKしてくれた。.....よかった。
しかもなんか、「未途だけは絶対に守ったる」とかいわれたし。
残念ながら俺も棄権するんだけどね。


そしてまた俺は副会長のもとへ行きそれを伝える。


「なるほど。白組で残るのは委員長、設楽、葉鳥ですか」

「いや、待って下さい。俺も棄権します」

「?.......副将が棄権できるわけないじゃないですか」

「!?!?」

「大将と副将は棄権できないことは確認済みです。.....頑張ってください」

「..........(死ぬ)」


俺も審判(?)に確認しに行ったが、副将の棄権は却下だそうだ。
その事を知った王道君はやはり残ろうとしてくれたが、副会長と会計に引きずられていった。
俺も連れてって.....。


そして今コート内にいるのは
紅組 悪鬼、三津谷、済賀君
白組 辰巳君、俺、葉鳥君

チラリと隣を見ると轟音を響かせながらボールが悪鬼、辰巳君、済賀君、辰巳君、悪鬼、済賀君.....

っておい、なんで悪鬼は味方である済賀君に投げつけてんだよ!?


「設楽君~っ」


すごい音なってるけどボールは普通のだよね?
鉄球とかじゃないよね?


「設楽君!!」

「ん?」


呼ばれてることに気づき、声の方へ視線を向けると.....そこには顔色を悪くした三津谷が居た。


「どしたの?ってか無事だったんだ」


俺はてっきり辰巳君にボコボコにされてると.....


「無事じゃないよ!?俺、体育祭終わったら海外に飛ぼっかなーって思うくらい危機感じてるから!!いや、今はそんなことどうでもいい!まずはこの競技を生きて終えればそれでいいんだっ」

「あ~それは同意」

「そこで相談なんだけど、設楽君さ彼からボール貰ってくれない?」


彼?
三津谷の視線の先は辰巳君に向けられていた。


「設楽君にならボール渡してくれそうだし。それで、設楽君はボール受け取ったら俺に当てて!!」

「なるほど.....それはいいけど、その後俺はどうなんの?」

「......設楽君なら皆優しく当ててくれるさ!」

「却下!その保証がないことにはその案にのれない」

「頼むよぉぉぉぉ!!俺まだに死にたくないんだっ、せっかく腹黒×不良や小悪魔×堅物のカプを発見したっていうのに、見届けれないなんて!!それに腹黒×不良はのカプはな、なんとっ.....不良×腹黒のリバになる可能性を含んでるっぽいんだよ!?!?これは絶対に見届けなきゃ行けないよね???今んとこ腹黒が攻めっぽいけど、不良がたまに見せる雄らしいところにちょいちょい雌みたいな態度するから、わかんないんだよね!これ絶対リバあるよ?あっちゃうよ!?」

「辰巳君!助けてー!!変態がここにいるっ!!」

「!任せときっ」


不幸にもちょうど辰巳君がボールを持っているところだった。
そして俺に熱く語りかける三津谷に向かって死の球が飛んでいく。


「ま''っ、べじょぶっ!?!?!?」


えー....何があったのか説明します。
俺が冗談(?)で助けを呼んだが、辰巳君はそれを本気に受け取ってしまい三津谷目掛けてボールを投げたんですよ.....。
そのボールは三津谷の横っ腹に当たり、彼は「く」の字状態で外野を更に超えた遠い所に吹っ飛ばされていきました.......とさ、お終い。


「南無.....成仏しろよ三津谷」

「彼はかろうじて生きているようですよ?設楽様、お望みとあらば俺がトドメを刺しに行きましょうか?」

「やめてあげて!?」


葉鳥君恐ろしいこと言うね。


「どうや未途!!副将仕留めたで~」

「うん、流石だね.....」


駆け寄ってきた辰巳君の頭をナデナデする。
そういや三津谷は副将だったな。これで大将の悪鬼にボールを当てれば勝てる.....が、


「チッ.....あの役立たずめ。まぁいいか。最初から期待してなかったしな」


悪鬼おめぇ.....三津谷が浮かばれねぇよ、そんな言い方。


「流石は宇宙人だ。まさか自分から狙われに行くとは.....。おい外野、俺にボール寄越せ。」


済賀君にボールが渡る。
ん?なんで俺の方向いてるんですかね.....
君の相手はそこに居る辰巳君でしょ?

すると済賀君は獰猛な笑みをこぼした。


「未途ー.....避けろよ?」

「う''ぇっ、ちょっと!?まっ」


俺が片手で掴めないボールを済賀君は片手で持ち、さながら野球をするかのように左腕を前に出し、ボールを持った右腕を後ろに引く。

綺麗なフォームだった。

一瞬見蕩れた俺だが、向けられる殺気にすぐに正気に戻る。


「た、」

「未途!?」

「設楽様!!」

バゴォッ!!!!

「ぐぁぁぁぁっ!!」

「葉鳥君!?」


くっ、なんてことだ。俺を守る為に葉鳥君が餌食に!というか三津谷の時も思ったんだけど、ボールが当たった時の声じゃないよね?


「鳥よくやった!!おいコラ、済賀ァ!なにワイの未途に当てようとしてんねん!?アホか!」

「はぁ?これはドッジボールだぞ。なんで当てちゃいけねぇんだよ?馬鹿か?てめぇは」


うん、済賀君が正論だね......だけどあのボール俺が当たってたら複雑骨折してたよ。多分。

言い合う2人をぼーっと眺める。
葉鳥君にボールが当たり、そのボールは相手コート内にコロコロと転がって悪鬼の足元に......あ''っ


べしん


「んぁ?」

「はっ!テメェは外野行きだ、クソ眼鏡」


な、なんとっ.....悪鬼が辰巳君にボール当てたー!
しかも悪鬼は殺気を隠す為か、俺でも取れるくらい軽く投げて辰巳君に当てた.....。だから辰巳君も気づかなかったんだろう。

うっそ、ここで辰巳君アウト!?
済賀君と悪鬼残して????


「なっ、しもた.....油断したわ」

「くははははは!!さぁとっとと消えろ!」

「ぐぅ」


どうすんの?俺勝てないよ?このメンツには。
一応転がっているボールをキープするが、どう投げてもキャッチされる未来しか見えない。

渋々ながらもコート内から出ていく辰巳君。その顔は不機嫌面かと思ったが、怒りをを通り越したのか無表情だった。
みんなビビって辰巳君の傍から逃げていく。
唯一、葉鳥君だけ心配そうに話しかけていた。
そういやさっき、辰巳君....葉鳥君のこと鳥って呼んでなかった?
気のせい?

いやいや、今はこのボールをどうするか考えなくては....

外野にいる辰巳君にボール渡すって手段もあるけど、辰巳君が投げて悪鬼や済賀君がキャッチしたら俺死ぬ。彼らの力が拮抗してるから、キャッチされる可能性が高いんだよなぁ。

もう負けてもいいから傷なくこの競技を終えたい。


「俺に投げろよ未途」

「済賀君.....君は優しく俺にボール当ててくれるの?」

「あぁ、優しく嬲ってやるよ」

「チェンジで」

「ははっ、冗談だよ」


信じられません。
ボールで優しく嬲るというのは意味わかんないけど、怖いから嫌です。

俺は最後の頼みである悪鬼に目を向ける。
悪鬼はなんとも言えない、複雑そうな顔をしていた。
もー、悪鬼の考えてる事はわからん。何したいのか理解できない。


「とーが君」

「.......いいぜ、ボール寄越せ」

「!?」


悪鬼が素直だ!?
これはなにか裏があるんではないか?
俺は疑わしい目で悪鬼を見るが、相手は不機嫌面。
う~ん?どうなんだこれは.....
あぁ!信用できない!!

ええい!かくなる上はっ


「俺がとーが君を当てるってのはどう?」


大将の君さえ当てれば白組が勝てる!


「は?ふざけんな。俺は負けるのが1番嫌なんだよ」


ですよね.....


「あ~.....当てさせてくれたら俺の事1日だけ好きにしてm「よし、投げろ未途」いい、よ.....ってはやっ」

「は!?ふざけんな赤猿!!」


おっと、キレた済賀君が悪鬼の方へ!
俺は投げるぜ!!行けっ、我が思い

ポン

俺が投げたボールは仁王立ちする悪鬼の胸に当たり、地面に落ちた。


「よし!勝った!!はよ帰りたいっ」


おっと、本音が


「テメェ!!この猿がっ」

「うっせぇー!俺は紅の勝利よりこっちが大切なんだよ」


俺の1日を犠牲にしたが、生きてこの競技を終える事ができたぞ!
紅組はドンマイ!


【しゅ~りょ~!!!なんと最後っ、設楽 未途のせこい作戦により白組の勝利だ!!!】


せこいって.....もっと他に言い方ないんか?


【これで全ての競技が終わりました~。ではこの後閉会式を行います!】


まぁいいや、やっと体育祭が終わったし。




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