八尋学園平凡(?)奮闘記

キセイ

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第31話 親衛隊隊長会合

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ある教室に7人の生徒が集まっていた。

無表情で第一席という立て札が置かれた席に座る進藤。ほうと溜息が漏れてしまう程の美しい顔は、右頬にガーゼという無粋なものをつけていてもなお陰らない。

第二席という立て札がある席では憂う表情で座る新又あらまたがスマホをいじっていた。

第三席には事後だったのか婀娜っぽく腰掛ける胡馬こばが。

第四席には目を瞑り腕を組む比島ひじま

第五席には進藤に劣らないほど無表情な葉鳥はとりが。

第六席には以前の会合では見かけなかった少年が座っている。進藤に伊武谷いぶやと呼ばれていた少年だ。

最後の席、つまり第七席には以前進藤にチビと呼ばれていた少年.....三津谷が座っている。


7人はそれぞれスマホをいじっていたり、ぼーっとしてたりと自由に過ごしていた。
その空間はカチ、カチ、カチ、カチと時計の針の音が聞こえるほど静かだ。

カチ


「今から会合を始める。進行役は俺こと進藤が。」


時間になったのか進藤が口火を切った。


「出席確認はいいな?」

「あっれー、伊武谷がいんじゃん。まだ死んでなかったの?」


胡馬が嘲笑うように伊武谷に話しかけた。見下すような表情には伊武谷への敵意がありありと浮かんでいる。そんな胡馬に対し伊武谷はクマの酷い顔を向けニチャリと笑う。


「うん。咲洲さきしま様に殺してもらおうと思ったけど、お前誰だっけ?って言われて鬱ってた。でもよくよく考えたら僕が死んだら誰も咲洲様のことを見る人がいなくなるからやっぱり死ねないと思って....。死ぬのやめた。」

「.....ほんとにムカつくやつだねお前は。何回そのやり取りすれば気が済むのさっ!グズグズグズグズしやがって!それにあの糞教師がお前のことをっ」

「やめろ胡馬!なんで嫌っているのに絡みに行くんだ?馬鹿か?馬鹿なのか?」

「チッ」


胡馬が伊武谷に噛み付くが比島が諌める。
不機嫌そうに舌打ちをし顔をぷいと背けた胡馬だが、内心伊武谷に罵詈雑言を吐く。そうしなければ掴みかかり伊武谷の顔面を殴ってしまいそうだったからだ。それほどまでに胡馬は伊武谷を嫌っている。
そんな胡馬に対し伊武谷は特に何も思っていなさそうだが....。現に今もニコニコと胡馬を見ている。

言い合いが収まったのを見て進藤は口を開く。


「もういいか?始めるぞ。議題は体育祭。資料は見たか?今回の体育祭は今までとは違う。それはー」

「我が主がキレたからだ。」


進藤の言葉を遮るように発言したのは葉鳥だった。他の6人を睥睨するかのように見渡し、最後にまた進藤を見て目を細める。
そんな葉鳥に対し進藤は苦笑いをし肩を竦めた。


「葉鳥の言う通りだ。怪我人が多く出るだろう。そしてチームわけなんだが.....。」


進藤の口から発表された内容に顔を引き攣らせるものが数名。


「なんだよその殺意がこもったチーム分けは.....。」

「これを会長が許したの?」


胡馬が進藤に問う。その顔はやはり引き攣っている。


「あぁ了承した。望む所だと。」

「うっわ.....荒れそう。」

「ねぇねぇ猫はどっちのチームになるの?」


そんな疑問を投げたのは今までスマホをいじっていた三津谷だった。
しかし皆三津谷の投げかけを聞こえないかのように話を続ける。そんな様子に露骨に『俺傷つきました』とでもいうような顔をした。


「えっ、無視?俺傷つくんだけど.....。」

「はぁ......進藤、猫のチームは決まっているのですか?」


うるさく騒ぎ出すと堪らないとでも言うように新又が三津谷の聞きたがっていたことを聞いた。すると進藤が新又に目を向ける。


「まだ決まってねぇ。多分というか絶対にクジ引きになるはずだ。その方が公平だからな。」

「猫....」


進藤の答えに伊武谷が反応した。その瞳は何を考えているのか読み取れないほど濁っている。


「そういえば、確か猫って強姦されたんだよね?その後どうなったの?」


伊武谷の発言にピタリと空気が凍る。
誰もが敢えてその話題に触れていなかったのにこの少年は躊躇いもなく口に出したのだ。
進藤は無表情になる。
新又は目を瞑る。
胡馬が顔を顰めた。
比島は舌打ちをした。
葉鳥は目を細める。
三津谷はニヤリと嗤う。

伊武谷はそんな皆の変化に首を傾げる。鬱って部屋に閉じこもり外界の情報を遮断していたため、猫に関する情報を知らないのだ。
しかしそれは進藤、葉鳥、三津谷を除いた3人も知らない。


「お前空気読めよ伊武谷。」

「進藤君僕はなにかいけないことでも言ったの?」

「チッ......まぁいい。どの道そいつに事情聞かなきゃいけねぇしな。」

「えっ、首謀者わかったの!?」

「わかったのか!?」

「......なるほど。進藤、葉鳥、三津谷は知っているという態度ですね。知らないのは残りの私達4人ですか。」


驚く胡馬、比島に対し、新又は進藤の言葉に一瞬目を見開きながらも冷静に推測した。
新又の優秀さはこういう部分で目立つ。
進藤は感心しながら、新又に笑いかける。
それだけで新又は自分の言ったことが正しいことを悟り、そして胡馬の言う首謀者が誰なのか予想がついた。ある少年に視線を向ける。


「な~に~?そんな熱い視線を向けて。はっ、もしかして俺のこと!?う、ごめんね新又君。俺は見る専だから自分がその立場になるの無理なんだっ。俺は新又君の気持ちに応えられないけど、新又君ならきっとすぐに素敵な人が見つかるよ。俺、応援してるから!!なんならいい人紹介しようか?例えばーー」

「落ち着け新又!!っおい!だれかそのクソを黙らせろ!!」

「黙れこの汚物!」

「ぶべらっ!?」


三津谷の言葉に新又がキレた。
椅子を後ろに倒す程勢いよく立ち上がり離れた席にいる三津谷目掛けて何かを投げようとしたのだ。
しかし投げる寸前で比島が駆けつけ押さえ込み、三津谷を黙らせるよう叫ぶ。
その叫びに咄嗟に反応した胡馬は自分の席にある立て札を三津谷の顔面目掛けてぶん投げ黙らせた。

中々息のあった2人である。

比島に押さえ込まれた新又の表情は感情が抜け落ちたかのように無表情だった。
その新又の手には三津谷に投げるつもりだったのであろう物が握られている。
ガラスでできている球体だ。しかしその中身には何か液体が入っている。

比島が慌てて押さえ込むくらいだから殺傷力は推して量れるだろう.....。


「新又落ち着け。三津谷のこれはいつもの事だろ?真に受けるな。」


進藤からの言葉に新又はピタリと暴れるのをやめた。そして溜息を吐き、比島の手をタップする。解放された彼は顔を歪め、どこか恥ずかしそうに咳払いをし目を伏せる。


「すいません。私としたことが.....。良かったですね三津谷。その可愛い顔が溶けなくて。」

「え~俺のこんな平凡な顔を可愛いとか言う新又君って本当にいい人だねぇ。」

「.......」

「新又落ち着け。そしてその手に持っているものを仕舞え。」

「はぁ.......」


またもや諌められた新又は溜息を吐き無意識に握っていたガラス球を懐に仕舞った。


「ねぇ、結局猫の強姦の首謀者だれ?」


胡馬がもう疲れたというような顔で話す。彼自身別に猫のことはどうでもいいが、1度会長に半殺しにされているため、情報は持っておきたいのだ。何が会長の地雷に触れるのか分からないため、猫の情報を下の者達にも知らせておきたい。
知らなかったで殺されるなどたまったものではないから......。

胡馬の言葉を受け進藤は口を開く。端的に。なんの感情も乗ってない声音で。


「三津谷だ。」


進藤のサラリと言った言葉に胡馬、比島、伊武谷は固まり、新又はやはりといったように三津谷に虫けらを見るような目を向けた。
さすがの三津谷もそんな視線ではしゃぐ程Mでは無いのでニコリと笑顔を返す。


「お、お前なんて事してくれてんの!?」

「てめぇ俺達を殺す気か!?」

「ナイスですっ三津谷君!!!」


胡馬と比島は怒り、伊武谷は喜んだ。


「何がナイスだこの自殺志願者!死にたいなら僕達を巻き込まず死ね!!」

「お前はもう伊武谷に反応すんな!」

「仲良しだねぇ3人は....はっ、もしかして深い仲だったり!?3Pとかしちゃったんですかっ!?」

「「殺す」」


据わった目で三津谷を睨んだ胡馬と比島は立ち上がり三津谷へーー


「やめろ。茶番はもう.....うんざりだ。」


葉鳥の呆れたような言葉に胡馬と比島は渋々ながら座り直すが、殺意のこもった視線は三津谷から離れなかった。
ニタニタと笑う三津谷に全員の視線が向けられる。それでも笑い続ける三津谷は何を思っているのか......。


「みんな怖い顔してるけど、俺が指示したわけじゃないからね?」

「は?じゃあ誰が.....」

「そんなの済賀様しか居ないでしょ。俺に指示出来んのは。」

「「「「っ」」」」


4人が息を飲む。それは新又もだ。
確か考えてみればわかることだった。
強姦されたというのに会長がこの場に来ることはなかった。猫が親衛隊関係で怪我をした時、会長がわざわざここまで足を運び全員を半殺しにしたというのに、今回は来ていない。

それは相手が済賀だったから。

例え三津谷が関わっていたとしても済賀が主犯なら会長は親衛隊に手を出さない。

それは意味が無いから。

済賀の親衛隊は済賀に逆らえない。だから意味が無いのだ。会長もそれを知っている。

他の親衛隊が犯人だったら?
そんなものありえない。猫に関することは進藤が守ってるから、手が出せないはずだ。

だから強姦を企てることができるのは進藤ですら見張ることが出来ない程の規模の親衛隊のみ。つまりここに居る隊長達だ。

それがまさか済賀だとは.....。
これは三津谷を責めることができない。

胡馬、比島、新又は同じようにそう考えた。


「均衡崩れるんじゃない?」


ボソリと伊武谷が言う。その表情は嬉しそうで、無邪気な子供のような笑顔だった。


「あ~.....済賀様が動いちゃったからどこかの誰かさんが暴走して猫に乱暴しちゃったんだよねぇ。うん。伊武谷君の言う通り均衡はもう崩れてる。猫ちゃん可哀想~。でも萌えだねっ!!」


ニヤニヤとしながら三津谷は進藤を見る。しかし進藤は何も反応しない。


「.....今日の会合は終了だ。各自資料に書かれた仕事に取り掛かるように。特に伊武谷。旧体育倉庫は視とけよ。」


進藤はそれだけ言うと退室して行った。
そしてその後、葉鳥と三津谷も教室から出て行き残ったのは4人。


「どうなると思う?......強姦魔は済賀、そして三津谷の様子からして暴走したのが会長だとすると今は風紀委員長が優勢?」


どこか楽しげに胡馬は笑う。


「俺は会長だと思うな。あの人って無理矢理はしない主義だろ?猫を抱いたっつうなら両思いってことだ。」

「あんたバカ?猫に関してはあの人すっごいおかしくなんの知ってるでしょ?ってか暴走=セックスというわけじゃないじゃん。」

「じゃあお前は会長が暴走したって聞いて何を思ったんだよ。」

「..............猫の強姦」

「ほらな?セックスじゃねぇか。」

「うっさい!っ新又は誰が優勢だと思う?」

「私ですか?私は......大穴狙いで咲洲先生ですかね?」

「やめてよ!!!!!!!」


新又の言葉に大きな拒絶を見せたのは伊武谷だった。その濁った瞳はどこか虚ろで危うい雰囲気を出している。


「咲洲様は猫に興味ないんだから滅多なこと言わないで!........僕帰る」


覚束無い足取りで伊武谷は教室から出ていったが、それを冷めた目で3人は見ていた。


「さすがは咲洲の親衛隊。あそこはよく親衛隊の形を保ってられるね。所属してるヤツら大体が伊武谷みたいに現実見れてないじゃん。」

「........アイツら咲洲に好意抱いて近づくヤツを見ても制裁しねぇからな。なんで制裁の変わりに自傷行為するんだよ。俺にはサッパリ理解出来ねぇ。」

「僕あそこの親衛隊きらーい。咲洲と猫がくっついて早く絶望すればいいのに。」

「咲洲先生は猫しか見てないですからね。本当にくっつくかもしれませんよ?親衛隊を見る限り他人への興味は皆無で扱いは酷いですが、猫に対しては驚くほど甘いですし、今1番優勢なのでは?」

「僕この前さぁ、咲洲の猫への対応見てホントこいつ誰?状態になったけど、ヘタレっぽいから進んでないと思う。絶対に風紀委員長が優勢。」

「あの人突然スイッチ入ったように行動して怖ぇじゃん。」



3人は猫に興味はない。
だが、猫が誰を選ぶのかは興味がある。

その後も猫の気も知らないままに3人は予想を語り合った
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