八尋学園平凡(?)奮闘記

キセイ

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理想

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「アタシのかわいい坊や。あんたにアタシはどう見えるん?」


ワイのオカンは少しふわふわしとる性格やった。それは箱入り娘で蝶よ花よと大切に育てられたことが大きく影響しとる。
そんで、いつもどこか遠くを見とるんや。ふわふわわろうて。


「オカンは幸せそうやなぁ。」

「うふ、うふふふっ、そやそーやろ。だって、オトンが居るからなぁ。」


『オトンはもう居らんで』その言葉を飲み込む。
それを1度言ったらどえらい目にあったからや。簡単に言えば首締められて殺されそうになりよった。実の母親に。

やけどその時感じたんは恐怖やなくて、羨ましさやった。そんなに愛しとるんやなぁって。


「オカンはオトンがホンマに好きなんやなぁ。」

「当たり前やろ。なんせオトンはアタシの理想やからな。」


理想
オカンから物心着く頃に言われた言葉。
自分だけの理想。
理想を語るオカンは目ェキラキラさせて、そりゃもう幸せそうやねん。


「ワイも理想見つけられるんかな?」

「だいじょーぶや。なんたってアタシの子やもん。あんたの理想はどういうのやの?」

「んー......ワイを愛してくれて、可愛うて可愛うてかわいくて、思いやりがあって、人を傷つけんくて、いい子がええなぁ。」

「なんや意外と欲張りやなあんた。」

「別にええやん。オカンはどうやってオトンを見つけたん?」

「きっと運命で理想やったんね。」

「運命で理想?どういうことや?」

「ふふふ、一目見てビビッと来よった。ほんで知ってくにつれ理想が塗り替えられたんや。まぁ、あんたにもいつかわかる。」


あぁええなぁ。オトンが居らんのに幸せそうなオカンが羨ましいで。
ワイはどうなってしまうんやろうな?
理想が死んだら、ワイは耐えれるんか?
オカンみたいに壊れてしまうんやろか.....。

それはええなぁ。愛した理想に壊されるなら本望やわ。





「好きなタイプ教えてください!」


ちっさい男を見下ろす。
いきなり話しかけてなんやと思ったらタイプ?そんなん聞いてどうするんやろか.....。ま、ええけど。
タイプってことは理想でええんよな?


「ワイのタイプはワイを愛してくれて、可愛うて、思いやりがあって、人を傷つけんいい子やな。」

「あっ、あの僕は違いますか?」


何が?
こいつの言うてる意味がわからん。


「僕はタイプじゃないですか?」


あぁなるほど。
......ふむ。顔立ちは整っとるなぁ。せやけど、目の前の男のことよう知らんから思いやりある子とか判断できへん。それになんか違うんよなぁ。


「ちゃうな。お前やない。」


ワイの理想は。


「そ、そうですか。」


理想はどこにおるんやろ?
もし見つけたらはよ結婚しよ。オカンもそうしとったし。逃げられへんように、法で縛るんやと。

絶対に幸せにしたる。だからはよう会いたい。

そう理想に思いを馳せていたワイの膝裏に衝撃が走る。ワイは堪らず両手を着いた。
誰や?せっかく理想を思うとったのに。


「なんや、脳内どピンクやん。ワイに喧嘩売るとは死にたいらしいなぁ。」

「はっ!?俺じゃねーよ!」


振り向くとムカつくやつがおった。
真っ赤な髪に真っ赤な瞳。風紀を乱す筆頭格や。
何よりも、存在が受け付けん。


「なんでもええ。はよ死ねや。」

「んだと糞メガネ、てめぇこそクタバレ」


蹴りのフェイントをいれ右で殴る。
だが相手はなんなく避けカウンターを仕掛けてくる。

何避けとんねんこのクソがっ!



「「うぜぇ!!!!」」


腕を振り上げる、こいつで終わらせてやる。
そして振り下げる瞬間、


ぱしゃっ、ぱしゃっ


「「!?」」


ゴキっ


何か飛んできたと思うたら、鈍い音。視界に入る黒い影。
......脚がジンジンすんなぁ。

?......なんでこんな汚れとるんワイは?

蛍光ピンク?

あの黒い影がっやったんか?


「あの野郎っ」


目の前の蛍光ブルーに染まる男はどうやらあの黒い影のことを知っとるようやった。


「誰や。今のは。」


このワイにこんな事をする阿呆は。


「.....知らねぇ。つうかもう帰る。萎えた。」


嘘やろ。絶対知っとるやん。
やけど引き止めんのも癪やからもうええわ。

ワイも風紀室へ行くために歩き出す。


ズキリ


「あ?.......折れとるやん。」


あぁ、こういうとき理想に看病してもらいたいなぁ。



ーーーーーーーー


怪我も治り書類仕事から解放されたワイに舞い込んできたのは、食堂での乱闘やった。

向かうとごっちゃごちゃの人だかり。
めんどいなぁ。これを制圧せなあかんのか....。


ゲシッ!


「うぉ!?」

「げっ!?」


なんやこのデジャブ!?
しかも聞いた事ある声聞こえたで?

後ろを振り向くと.....やっぱりか。


「またお前か。」

「はっ!?俺じゃねぇ!チッ、またこのパターンかよ!!」


それはこっちのセリフや!
あと、お前の尻拭いさせられるこっちの身にもなれやこの馬鹿が!


「どーせこの乱闘もお前のせいやろ?」

「........テメェに用はねぇ。そこを退け。」

「それは無理やなぁ。一度ならず二度までもワイの裏膝に蹴りいれおって....ただで済むと思うとらんよな?.......またその腕折ったるわ!!!!」

「上等だ!二度と歩けないようその足へし折ってやらァ!!!」

「この脳内どピンク野郎がっ!今日こそその頭血ぃで真っ赤に染めたる!」

「んだとこのださメガネ!今日こそそのメガネかち割ってやる!」


うっさいのぉ!
ワイのメガネにケチつけんなや!
今日こそお前をぶちのめしてやる!!


ぱしゃっ、ぱしゃっ


ま、またや。なんでや?なんでカラーボールが降ってくるん?


「誰じゃコラーーー!!!!」

「設楽ァァァァァァ!!!!!」


誰やっ、一度ならず二度までもワイにこんなもん投げたのは!?

いや待て....今こいつ設楽言うたか?


設楽.....調べてみるか。


怒りに震える馬鹿と乱闘を放置してワイは風紀室へ戻った。

設楽 未途
黒髪黒目の平凡。
サボり癖のある生徒で、咲洲のお気に入り。
しかも入学してからあのクソに目付けられて追いかけ回されとる姿が目撃されとる。


「.....気になるなぁ。気になるで。設楽 未途。」


今んとこ後ろ姿しか見たことない。書面では顔見たけど、実際に会ってみたいわぁ。


「おお!親衛隊の制裁だ!」


あ?制裁やて?


「うっわー、強姦じゃん。可哀想に....。」


黒髪平凡が教室をこっそり覗いとった。
......今こいつ強姦言わんかったか?
なんで見とるだけなん?

しかもあの後ろ姿見たことあるなぁ。

......あぁ!!あいつが設楽 未途や!!


「ふはははっ、現実だなぁ.....」


あ、その笑顔アカン。


ぶわり


顔が熱くなるのがわかる。
ヤバいヤバいヤバいヤバい!
.........理想や。


嘲笑うような横顔に目が離されへん。

おかしい。ワイの理想は思いやりがあって、人を傷つけんいい子や。
こんな制裁されとるのを見過ごすやつやない。

なのに惹かれる。


ワイの理想ってなんやったっけ?
理想やないのに心がこいつだって言うとる。

理想、理想


.......理想ってなんや?


ワイを愛してくれて、
ーまだまともにはなしたこともない

可愛うて、
ー平凡や

思いやりがあって、
ー強姦を見過ごすやつや

人を傷つけんいい子
ーワイをクソに嗾けるやつや


ワイの理想には当てはまらんやつやん。
なんであいつなん?
.......認めとうないのに、心が欲する。


『ふふふ、一目見てビビッと来よった。ほんで知ってくにつれ理想が塗り替えられたんや。まぁ、あんたにもいつかわかる。』


あぁ、こういうことなんやな。
理想の塗り替え。
なんや、小さい頃憧れとった理想は結局.....無駄やったんやな。


「理想が未途なんやない。未途がワイの理想なんや。」





(辿る道はきっと一緒)
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