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第十三章 命尽きるまで貴方を想ふ①

《no side》

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まだ肌寒い空の下。
鎖真那双子と田噛 茂は気だるげに時間を無為に過ごしていた。


「今日何の日か知ってるか茂」

「んぐ、もちろんっすよ!!バレンタインデーっすよね」

「そうそう。で、お前貰った?」

「もぐもぐ...ごくんっ、0ッス」


ボリボリとクッキーを噛み砕き、ラッピングされた小袋に手を突っ込みながら茂は答えた。


「そう、貰ってねぇ」

「おれっちも貰ってねぇ」

「重ちゃんは兎も角、雅臣嘘はいけないっすよ!教室の雅臣の席にチョコ置かれてたのオイラ見たっすもん」

「おれっちは兎も角ってなんだよ、殴んぞ」

「本命から貰ってない」

「おれっちも本命から貰ってなぁい」

「あ~.....オイラも貰ってな~い」


しかし茂は内心「バレンタインデーって好きな人にあげるイベントでは?」と疑問を持った。だから「貰えなくて当たり前じゃない?」とも。

試しにスマホで調べてみた。

『恋人たちの日』

一番最初に出てきたのはそんな文字。
でも次には『親しい友人間での交換が主流』と書かれていた。


「友チョコ.....オイラ友チョコ欲しいッス」

「......お前が今食ってるのは何だよ」

「これ?これは落ちてたんすよ」

「拾い食いってマジかよww助平すけひら毒効かない身体じゃねーのに」

「助平言うのやめて欲しいンすけど。まだ根に持ってるんすかァ」


口を尖らせ茂は非難する。
助平すけひら』というのは、以前燈弥含んで赤面ゲームというゲームをした結果つけられた不名誉なあだ名である。茂が燈弥の前で重臣の恥ずかしい話をしようとしたその仕返しで重臣にそう呼ばれていた。


「まぁ茂は勘がいいから大丈夫だろ」


雅臣は茂のあだ名には触れず、拾い食いについてのみコメントした。そして冷たいコンクリートの上に寝転がると、欠伸をしながら話題を変える。


「そんで、重臣。いつだ?」

「こんな冬空の下、冷たいコンクリに寝転ぶとかマジ考えられねー。うぅ~さぶ......いつってなんの事だよ。燈弥ちゃんにチョコくれって突撃訪問する日か?」

「とぼけんな。颯希はやきと裏でコソコソしてんの知ってんだよこっちは」

「えっ、何するんすか!?聞きたいっす!」

「.......颯希に誰にも言うなって言われてんだよ~」

「どうせ燈弥関係だろ」

「黙秘」

「――珍しく重ちゃんがやりたくなさそうッスね。やりたくないなら雅臣に代わってもらうのもアリじゃないっすかぁ」


茂の言葉に目を瞬いた重臣は「それだ!」と指をさし名案だと笑った。


「雅臣おれっちの代わりにやってくれよ。おれっち燈弥ちゃんにのヤダし」


『嫌われる』というセリフに雅臣の眉は反応する。


「内容次第だな」

「ちょい待ち。これで雅臣にやらせたら颯希への貸しが返せないままになる。それはおれっちの信条的に嫌だなぁ。やっぱ無しで」


チッと内心舌打ちする雅臣。選択を誤ったことを悟る。ここは渋らずに「いいぜ」と即決するべきだった。嫌われるという言葉にしりごみした結果、颯希の企みを知るチャンスがなくなったのだ。


「信条って、重ちゃんそんなもん持ってなかったッスよね?貸しとか平気で踏み倒すのオイラ見てるっすよ」

「踏み倒してねぇし。おれっちが貸しだと思わなきゃそれは貸しじゃねーんだヨ。.....今回のは正真正銘の貸し。颯希に燈弥ちゃんの激レア写真貰ってっから。これですっぽかそうものなら、颯希のねちっこい嫌がらせが始まっちまうぜ」

「写真.....?あぁ!燈弥君達と遊んだ時のアレっすね。あー思い出した」

「そんなことはどうでもいい。問題は颯希が何を頼んだかだよ。教えろ重臣。オレ達の間に隠し事はなしだろ」

「はぁ?なにキメェこと言ってんの雅臣。そんな決まり事初耳だわ。......そんなに知りたい?」

「ああ」

「ヒントは~」


『めんどくせぇなコイツ』
雅臣は自身の片割れの返しにイラつく。思い返してみても重臣がこんな面倒臭い返しをしたことはなかった。あまりのムカつくツラと話し方に今すぐにでも殴り倒したい衝動に襲われたが、拳を握ることでなんとか耐える。

(聞け、落ち着け。燈弥に関することだ)


「ヒントいち。燈弥ちゃんとご飯食べマース」

「.....メシ?」

「え~!オイラも一緒に食べた~い」

「ヒントに。燈弥ちゃんに抱きつく」

「.....???」

「だ、抱きつくだなんて....!オイラにはまだ無理ッスよぉ」

「ヒントさん。颯希を連れて2階席でご飯食べる」

「.........」

「???」

「以上!!」


以上と締めくくった重臣を前に2人揃って黙る。茂はこれが何の話なのか分からず首をかしげ、雅臣はヒントにならぬヒントに表情が抜け落ちた。


「......いい度胸だ。はっ倒す!!!」

「いっひひひひw雅臣がキレたァ」


飛び起きた雅臣が重臣に向かって風を放つ。それを手を薙ぐだけで防いだ重臣は笑いながらフェンスの外に飛び降り逃げた。


「待ちやがれこの阿呆!!!」


重臣を追って同じようにフェンスから飛び降りた雅臣。残された茂はというと小袋から最後のチョコクッキーを取り出すと口に投げ込んだ。


「もぐもぐ.....やっぱ2人とも人外っすねぇ。ここどんだけの高さがあると思ってるんすか」


フェンスを挟んで下を見下ろすと土色の地面が広がる。ただそこに真っ赤な花散らす死体はない。
自分が同じことをしたら地面のシミになるだろうと思いながら、食べ終えた袋を放った。



「ん~......燈弥君に友チョコ貰いに行くッス!」




雅臣達のことを頭の隅に追いやり、友チョコを求め、茂は意気揚々と鉄製のドアを開けた。







​─────カラン、カラン、カラン......




音が鳴る。
それは金属の音。


茂がぶつかったのか、赤い縄を揺らし2本のポールは不安定に揺れる。


ロープパーテーションポール



立ち入り禁止を示すアイテムである。









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