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幕間
ある御屋敷で-part3
しおりを挟む「んはー.....久しぶりの我が家なのだよ。....やはり当主である僕が追い出されたのはおかしいのではないか?」
「いい歳した大人が追い出されるような事をするのがおかしいのだ。当主だからと関係ない。これに懲りてちゃんと自制しなさい」
「善処する」
「はぁ......まったく.....」
譲斎は疲れたように目元を揉んだ。息子である鉄斎は久方ぶりの我が家を堪能するように息を大きく吸い込む。そして「この匂いなのだよ」と感慨深げに呟いた。
「で、どうなのだ辺境は」
「時ケ谷の坊ちゃんが暴れてるおかげで怪我人は少ない」
「誰が怪我人の多さを聞いとるんだ。私が知りたいのは侵食の度合いだよ」
「各辺境を回って問題ないレベルに下げてきた。しばらくは大丈夫だろう」
「....また土地が必要になる。聖域を作りやすくするため今のうちに減らせるだけ減らしておくのがいい。政府が新しい事業とやらで場所を欲しがっている」
「それは神崎に言って欲しいのだよ」
「伝えに行くついでに斎良を連れてってお茶でもしてこい。お前と斎良に足りないのは社交性だからな。あと自制」
「社交性は十分あるだろう?無能力者の人間と上手くやっているのを親父は知ってるはずだ」
ふん、と呆れたように笑う鉄斎に譲斎のこめかみに青筋が立った。
「馬鹿なのかね!?あれはどう見ても腫れ物扱いだろうが!!興味無い話は「そうか」の一言で済まし、怪我人の話となれば鼻息荒く詰め寄る!私がどれだけ恥をかいたか知っているか!?どれだけフォローしたか知っているか!?」
「.....フォローを頼んだ覚えはないのだよ」
「私だってしたくてしとるんじゃないわ!!」
ふぅふぅと息を荒らげる譲斎を前に鉄斎はバツの悪そうな顔をした。
ということは自覚があったわけだ。それなのによくぬけぬけと社交性があると言えたな......譲斎は悲しく思った。
「どうして私の息子と孫は私に似ないんだ.....育て方を間違えたのか?」
老公の嘆きはドアから飛び出す大きな影によってかき消される。
「父さん!!ペイシェントの耐久実験をやると聞いて────げっ」
「.....『げ』とはなんだ。いや待て、ペイシェント耐久実験?っ鉄斎!!!」
「息抜きなのだよ!行くぞ斎良!!」
「待てっ、コラーーーーーーー!!!」
追いかけようと咄嗟に立ち上がるも、老骨の身では追いつきやしないと気づき、渋々座り直した。
「ぐぅ....誰かあのバカ者どもをどうにかしてくれんか」
40を超えてなお子供っぽい息子に、親の悪いとこだけ受け継いだ孫。
譲斎は考えただけで胃がキリキリしてきた。他の当主達とその子息達はああもしっかりしているというのに、どうして自身の息子と孫はこうなのか?
「....永将君に斎良を預けようか。彼の教育ならば幾らかまともに矯正できるだろう」
隣の芝は青く見えると言うべきか、永将の息子である永利の苦しみを知っていながらも譲斎は羨んだ。
「鉄斎はもう手遅れだが斎良はまだ間に合う。....間に合うと願いたい。永将君に連絡してみるか」
頼まれてくれると言うなら、先日のパーティーの働きはチャラにしても構わない。
『やめておけ。俺の愚息を見ただろ?アレはそういう才能なんだ。人をダメにする』
先日のパーティーで思い出した。あの、美しい青年のことを。
「そうだ、燈弥君が居るではないか.....」
永将が太鼓判を押すほどの害悪。もとい、人をダメにする装置。
パーティーでの永利の狼狽えようを知っている譲斎は、彼に斎良を任せることに決める。
「ふ、ふははは!......頼むぞ燈弥君」
祈るようにスマホを握った譲斎は疲れたようにソファへと背を預けた。
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