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月の下で貴方とワルツを②
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しおりを挟む真奈斗は怒っていた。それはもう、かつてないほどの怒りようだった。
「何考えてんだお前!!!!!」
鬼のような形相が永将に向く。対峙する永将はというと苦い顔をして真奈斗を落ちつかせようとしているが、全体的に腰が引けていた。
何故こんなことになっているかというと、真奈斗にバレたのだ。永利の手伝っている仕事が、おおよそ子供がやっていいものでは無い内容だということを。
それを知った真奈斗は永利が就寝したのを確認して永将に詰め寄った。これが今回のあらましである。
「子供に死体処理をさせるとか頭沸いてんじゃねぇの!?!?」
「お前また俺の執務室に入ったのか?注意すんの何回目だよオイ。あそこはいくらお前でも裁かにゃならん機密事項が沢山――」
「そんなことどうでもいい!!何考えるんだお前っ。年端も行かない子供を人の悪意に晒して、あまつさえ死体を処理させるなんて....普通じゃない!!」
''普通じゃない''
真奈斗の発言に永将は心底呆れたため息をついた。
「いや、お前....異能者が普通だと思ってんのか?緋賀が普通の家だと思って、俺と一緒に居たのか?」
「っ、確かに無能力者達と比べたら異能者は普通じゃない。でも、異能者にも守るべき倫理や道徳があるだろ?緋賀は....普通じゃないけど、でもそれを幼い子供に押し付けんのは間違ってる!」
「異能者にも守るべき倫理や道徳がある??わっはっはっはっは!ねぇよそんなもの!!異能者はみーんな学園を経て社会に出る。オイ、わかってんだろ!?俺達はそこでお前の言う倫理やら道徳やらを捨てさせられるんだ!!つまり、この社会がそれを推奨してるってことだ!異能者は道徳を捨てろってなァ!!」
「だとしても!!子供に――」
「時間の問題だろ?今か、学園かの話だ」
「お前はやりすぎなんだよ!!もはや洗脳だっ!自己が確立してない息子に緋賀になれ、緋賀は凄い、緋賀はかっこいいなんて延々と言いやがって....!」
「はっ?おいおいおいおい.....俺は一言も緋賀になれだなんて言ってないぞ。アイツが自分で望んだんだ、緋賀に....『俺』になりたいと」
真奈斗は言葉に詰まった。確かに永将は緋賀の当主になれだなんて言ったことがない。いつからか永利自らが夢を語るように言ったのだ「永将のようになりたい」と。
「俺は永利が立派な緋賀の男になるよう指導しているだけだ。何がおかしい?」
「おかしい事だらけだろ.....まず最初は書類仕事とか、裏方を――」
「俺が永利くらいの頃にはもう死体処理をやらされてたな」
「もー、頭おかしい....普通自分が苦しかったことを息子にやらせるか!?」
苦しい?
永将は内心首を傾げた。永将はこの『教育』に苦しいと感じたことがない。なんなら嬉々として銃を発砲し、悪人達を蹂躙した。永利の持つ人を撃つ忌避感など ''的'' を撃った時に全て消えている。
『こんなものか』と『案外なんともないんだな』と。ただそう感じただけ。
「....苦しいかどうかは関係ない。この教育が成功しているから同じようにやってんだよ」
「~~っ、お前は優秀なんだろ!?だったら教育内容を変えたりしろよ!死体処理なんて教育必要ないだろ」
「必要だ。緋賀の教育は全て理にかなっている。それを終えた俺だからよーく分かる。口出しは無用だ」
「いーや!口出しするね!!俺の息子のことだ!ふん、いいぜ。朝まで付き合って貰うからな!俺が納得するまで永利は連れてかせ───」
「まなととながまさ.....?」
「っ....!!?」
「あ~ぁ、起きてきちまったよ.....」
息巻く真奈斗と疲れたように顔を歪める永将。その2人の間に舌足らずな声が落ちる。
「どうしたんだ永利....怖い夢でも見たのか?」
心配そうに永利の側へ駆け寄る真奈斗。眠そうに目を擦っている我が子の身体をそっと抱きしめた。
「なんか2人が騒いでたから....」
「騒いでたって.....お前の部屋はこの階じゃないだろ」
「.....?声聞こえてきたよ。それで、なんで喧嘩してるんだ?」
真奈斗は言い淀む。なんと説明すればよいのか。
すると永将がはっきりとこう言った。
「真奈斗はもうお前を仕事に行かせたくないんだと」
「え!?!?なんでっ!?」
悲しそうな目でこちらを見上げる永利に「うっ」とたじろぐ。真奈斗としては永利にもう仕事に行って欲しくない。ただこの様子だと永利は行く気満々で、どうやら自身が行っている仕事に不満や忌避感はないように見える。
「.....ここ最近酷い顔してたらから無理矢理嫌な事をやらされてると思ったんだ」
「そ、そんなことない。......嫌じゃない」
「.....なぁ永利、1回仕事お休みしねぇか?俺と永将が話し合ってる間だけでも、な?まだお前には先がある。そんな急いで仕事を覚えなくていいんだ」
永利は窺うように永将を見やった。それを真奈斗は見逃さない。やはり、永利と永将の間には何かある。永利は永将の顔色を窺いすぎているような気がした。
「ぁ、俺.....永将.....」
「はぁ....分かった。しばらくは休ませる。だが明日はダメだ。もう予定入ってるからな」
「分かった。なら明日帰ってきたら話すぞ。2人で」
そうして、この日は解散となった。
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