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第十一章 月の下で貴方とワルツを①

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「あぁ、別に緋賀先輩のことを信用してないわけでは無いのです。私はただ、上の者に対して顔を隠して交流しようとする、その無礼が許せないのです。――緋賀先輩のパートナーがここから去るというなら、私のパートナー達も立ち去らせましょう」


うわぁーめんどくさ。
もういいよヒナちゃん。僕向こうに行くよ。この席に五大家が集まるならチビちゃんも後から来るということだし。なら一般参加者の中に紛れていた方が安全だ。
.....いや、安全ではないがチビちゃんに正体がバレるという最悪の事態は避けられる。


だから今にもキレて在鷹君を殴り飛ばしそうなヒナちゃんの手を握り、チョンチョンとつついて『僕向こう行くよ~』と指を指す。

すると、ヒナちゃんが何か言いたそうに顔を歪める。だけどヒナちゃんが口を開くより、美城君の方が早かった。


「じゃあ怪しいとか関係なしに、'' お前の連れは気に食わないから '' って言ったら良いんだろ?ここにいる五大家の3人は少なくともそう思っている。過半数が不快に思ってるんだ、どっかにやれ」

「......ふふふ。確かにその理由なら納得ですね」


在鷹君は確認するようにヒナちゃんと星菜君に顔を向ける。2人は美城君の言葉に賛成の態度をとっていた。これでは美城君の言う通りにするしかないだろう。

....僕の美城君への好感度は笹ちゃんとキャベツ君のそれを超えた。
なに?美城君めっちゃかっこいいじゃん。
僕より身長低くて、兎君みたいな可愛らしい系の風貌なのに。頼りになる!

もう美城君じゃなくて、美城先輩って呼ばないとね。内心でしか呼ぶ機会ないけど。


「.....嫉妬してしまいますね。そこまで庇われる貴方には何があるのでしょうか?」


めでたくお連れ様を解散させた在鷹君は僕に詰め寄ってきた。でも残念。僕には騎士が居る。
僕の可愛らしい騎士さんから許可を得て話しかけてね?


「近寄んな」

「緋賀先輩、私は貴方と話すのを楽しみにして来ましたのに....つれないですね。それにしても緋賀先輩のパートナー、従兄弟なんですよね?確か、緋賀の血筋にそんな大きな傷を持つ人間は居なかったと記憶していますが....」

「テメェの記憶違いだ」

「いいえ。私の記憶は絶対です。――まさか、神崎のようにどこぞの馬の骨とも知れない人間を緋賀に迎い入れたんですか?」


​──── r.....n

あれ?


「今すぐ追い出した方がいいですよ。先輩も知っているでしょう?神崎の失態を。やはり下賎の血は五大家に相応しくないですね」


​──── r.....n

あれれ?


「やることなすこと卑しくて.....同じ五大家として恥ずかしいと思いませんか?今までは上手く猫を被っていたようですが.....はっ、やはり野蛮人に変わりありませんでしたね。神崎のおじ様はどうしてあんな出来損ないを迎い入れたのでしょうか?理解できません」


​──── r.....n

はっ、ははっ.....こいつ殴っていい?
それが許されないなら、せめて一発足を踏ませて欲しい。

僕の弟を、僕の可愛いチビちゃんをっ!!
下賎??
卑しい?
野蛮人??
出来損ない??


ベールの下で口端が吊り上がる。

本当のチビちゃんを知らないくせして、チビちゃんを馬鹿にするのは許せない。馬鹿にするならチビちゃんの全てを知ってから、本人に面と向かって言ってよ。

というか血筋で言うなら、それ僕にも当てはまるから。

目の前で悪口とかいい度胸じゃん。

さて、この悪役令嬢をどうしてやろうか.....


「.....とにかく!緋賀先輩には是非、もう一度考え直して頂けると嬉しいです。尊い緋賀家の血に雑種が増えるのは見てられないですから」


​──── r.....n


.......というかさっきから鬱陶しいな。
耳元で飛んでいるであろう小虫を払う。
そこではたと気づく。
僕は今顔全体を隠すベールを被っているんだ。耳元でそんな音が聞こえるはずがない。

じゃあなんで僕は小虫が耳元で飛んでいると思った??


​──── r.....n


まただ。
何か鳴ってる?それとも.....僕の気のせい??
だって耳を澄ませても何も聞こえない。

ただ耳元で蚊が飛んでいるような不快感だけがある。


「――おい」


声を上げたヒナちゃんに目を向ける。
彼は険しい顔で在鷹君を睨んでいた。しかも、どうやらヒナちゃんだけでなく、美城先輩も在鷹君に険しい表情を向けている。星菜君は....思ったけど彼、表情筋死んでるよね。


「俺様が今、ここで、この引き金を引いても、テメェは文句言えねぇぞ?」

「何を読んだのか聞かせてよ、在鷹ぁ」

「俺はまぁ、読まれて困るようなことは何も無いのだがね」


呼んだ?読んだ?詠まれて?
.....わかんないけど、とりあえずこの不快感の発生源は在鷹君らしい。


「会話に気を取られて気づかなかったわ。で?何を読んだ?それさえ言えば美城は許すよ」

「....うふふふ。どうやらそちらの方、緋賀先輩よりも神崎に強い思い入れがあるようですね」



あ、こいつ精神干渉系の異能だな。
厄介――


「アカリ」

「っ」


危うく声が出そうになった。顔を上げれば、暗い目で僕を見下ろすヒナちゃんがすぐそばに居る。

ど、どうしたの~?


「神崎以外は揃った。俺様は前に出て参加者達に挨拶をしてくる。それまで美城と一緒に居ろ。在鷹と星菜には近づくなよ」


うんうん。わかった。


彼の去っていく後ろ姿を見つめていると、美城先輩がそばによって来た。


「把握。......緋賀と一緒に居るのに神崎のことを考えたらダメじゃん。アイツが可哀想。――在鷹!!次始動したらお前の足を吹き飛ばす」

「まぁ怖い。うふふ、なら私は吹き飛ばされないようにパートナー達の所へ避難致します。では皆様、御機嫌よう」



在鷹君は僕に目を向けることなくこの席から離れていった。残ったのは美城先輩と星菜君と僕の3人。


そして――


「よぉ、元気か?未来を担うせがれ共」




新たな乱入者が一人。












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