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第十一章 月の下で貴方とワルツを①

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「なぁなぁ、永利大丈夫だったか?」


次の日、学校に登校すれば兎君が心配そうに寄ってきた。実は彼も何度か委員長の部屋を突撃したらしいのだが、最後までドアは開かず泣く泣く帰るというのを繰り返していたという。

僕は兎君のように何回も行くの嫌だったので、躊躇いもせず強硬手段をとった。ドアくらい、いいだろう?

さて、委員長が大丈夫かどうかだっけ?


「大丈夫かどうか一概には言えないですね。なんせ動けないほどの風邪をひいていましたから」


アレから委員長は大熱をだした。僕の部屋に辿り着くなりその場で倒れ、熱を測ったらあっちぃあっちぃ。火傷しそうなほどの熱を内包した身体は見るからに怠そうで、起き上がることすらもままならないようだった。

だから僕がベッドまで引きずって....でも持ち上げられなかったから(ベッドの高さ50くらいある)、結果床に布団を引いて寝かせている状態だ。


「マジで!?だ、大丈夫じゃねぇじゃんそれ!!生きてるよな?」

「単なる風邪ですから生きてますよ。今は僕の部屋で療養中です。放課後お見舞いにでも来ますか?」

「い、行く!!」

「なんなら泊まりません?」

「!?!?い、いいのか?」

「ぜひ。というのも僕一人じゃ世話しきれなくて.....手伝って欲しいんです」


あんな大熱だ。昨日はお風呂には入れれなかった。かといって汗だくの状態を放置できないため、身体を拭いて新しい服を着せるのだが.....。もう一度言おう。委員長は起き上がるのすらままならない状態だった。

タッパのある彼を支えて身体を拭くなんざ1人じゃできない。力の入っていない身体など尚更重くなるため、大変だ。トイレに連れていくとか、本当に潰れそうだった。


「それなら将翔呼んだ方がよくね?」


彼は五大家と相性悪いからダメ。というか委員長は誰にも弱った姿を見せたくない筈だ。.....兎君もダメかな?いやいや、委員長は兎君に心開いてるから大丈夫。と思いたい。


「委員長はプライドが高いので、弱った姿を他人に見せたくないんです。察してあげてください」

「えっ、俺はいいの!?」

「いいんじゃないですか?」

「て、てきとー.....」


さぁ授業、授業。兎君席に座ったら?












放課後。
兎君と寮へ帰ろうとしていたところ、モッチー先生に呼び止められた。

げっそりとした表情をしていたため面倒事と予想。


「兎君、先に帰って委員長の看病お願いします。これ僕の部屋のスペアキーです。えーっと、委員長がちゃんと薬を飲んだかの確認と、飲み物の補充.......あとは委員長が変なことしないように見張っといてください。何かあったら僕に連絡を。くれぐれも保健医を呼ばないように」

「なんで!?」

「理由は知らないですけど、委員長はどうしても保健医を頼りたくないそうです」

「わ、わかった」

「では頼みましたよ」


ということで、僕はモッチー先生に連れられ職員室へ。







職員室は普段通りで特に慌ただしい様子はなかった。モッチー先生の様子からして、結構忙しいのかと思ったが.....なんだただのゲームのやりすぎか。


「で?」


急いでいるんですが??
そういう圧を込めて一語で尋ねる。するとモッチー先生は疲れたように頭を掻きながら1枚の紙を渡してきた。

このシチュエーション....前にもあったな。
あの時も1枚の紙を渡されて『風紀から生徒会移動ね』と抗議も拒否も出来ず配属を変えられたっけ.....。

この紙は何が書かれているのかな?
なになに​─────嘆願書?
ふむふむ....
ちょっと待って!『一条 燈弥の風紀副委員長除名願い』って書かれてない!?


「.....これは?」

「書かれた通りだ。ある生徒の保護者からその嘆願書が送られてきてな......普通なら跳ね返すんだが、送ってきた人が人なだけに無視ができねぇんだ」

「誰が送ってきたんです」

「それは言えねぇ」


だよねぇ。


「理由は?それくらいは教えてくださいよ。理由もなしにポイ捨てされるのは納得できないです」

「あ~.....う~.....『そいつのせいで愚息が壊れた』だってよ」


はい特定。
緋賀 永将さんだね、絶対に。というかそんな一言で収まる、理由とも言えないお粗末な言葉を学園は受理したの?

はぁ??(キレ気味)


「この紙を渡してきたってことは決定事項なんですか?」

「いや、まだだ。さすがに可哀想っつう意見が教員の中で上がってな?てきとーな理由つけて返事を遅らせてる。んで、今はどうするか話し合ってる最中。渦中の人である一条に何も伝えないのはおかしいから今日伝えたわけだが.....何か聞きたいことはあるか?」

「.....理事長は何やってるんですか?あの人は自身の箱庭を外から弄られるの嫌いらしいじゃないですか。五大家全員ならまだしも、その内の一家の介入ごとき、彼の人なら跳ね返せるでしょう?」


学祭が終わってから笹ちゃんに五大家と時ケ谷について聞いた。
時ケ谷のこれまでの偉業を聞けば、『なるほど、だから緋賀さんはユーベラスの捜査を断念したのか』と納得できるほどの影響力を持っていて。
それと同時に、緋賀さんと時ケ谷は相性悪そうだなぁとも思った。

彼はユーベラスを倒壊させた僕に怒っていたが、何より自身の行動を止められたことに怒っていたんじゃないかっていう......。どこからどう見ても他人からの指示を嫌う俺様っぽいしね、あの人。


閑話休題


笹ちゃんから聞いた話ではここの理事長は勝手な介入を嫌うそうだ。意見は聞くが、~~して欲しいとかいう要望は一切受け付けないらしい。

つまり緋賀さんのこの横暴とも言える嘆願(笑)は破り捨てられていてもおかしくないものである。


「お前、どこまで知ってるんだ?あのクソ爺の家柄知ってるとか.....あぁ、そういえばお前の周りに居たな。爺の家と関わりのある奴。そいつらから聞いたのか.....」


1人で勝手に納得したモッチー先生。そして先生はバツが悪そうに顔を歪めた。


「さっき言ったろ『今はどうするか話し合ってる最中』って。つまり、理事長は''どっちでもいい''と判断した。.....そもそもこの嘆願書は理事長から渡されたものだ。俺らんとこに回された時点で頭ごなしに拒絶する気はないって言ってるようなもんだろ」


まだ顔も知らぬ理事長に殺意が湧いた。
生徒を守る気ないのか??


「チッ.....誤算ですね。理事長が味方になってくれると思っていたのに」

「ということは副委員長辞めたくねぇんだ?」


ニヤニヤと揶揄からかうような笑みを向けられる。いつもの僕ならイラッときて手を出していただろう。だけど今は頭の中で『辞めたくない』という言葉がグルグル回って、何も言葉を返せなかった。


「.....別に」


ゆっくりと、時間をかけて.....否定と言うには曖昧な言葉を返す。

僕は、風紀を辞めたくないのだろうか?
だって、生徒会に移籍する時はなんの未練もなく迷いもなく、風紀に思い入れはないと頷けたのに。

今は風紀を辞めることに『嫌だ』と思う自分が居る。風紀に『居たい』と思う自分が居る。



「ははっ!別に無理に否定しなくてもいいだろ!半年以上、毎日のように顔を合わせてきたんだ。離れたくないって思うのは当然だ」

「.....」


モッチー先生の言葉が右から左へ抜けていく。心には得体の知れない不安がじわじわと広がり、このままではダメだという焦りが頭を支配した。
不味い。これはとてつもなく不味い。

何が不味いかは分からない。
ただ漠然とした危機感が募る。


「一条にも人間らしい感情あったんだな.....」


そうしみじみと呟くモッチー先生にハッとした。


「もう用はないですよね?僕は帰ります」

「あぁ待て待て。あとこれを緋賀に届けてくれねぇか」


封筒を渡される。分厚いな.....緋賀さんが持ってきた物だろうか?


とにかく落ち着く時間が欲しかったので、了解を伝え職員室を後にした。















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