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第十章 汝、近づき過ぎることなかれ
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しおりを挟む「遅せぇぞ。次行くぞ次」
「.....はい、すみません。次はどこ行きましょうか」
あの後、萩野君に背を押され教室から追い出された。しかも彼は何事もなかったかのように『学祭楽しんでねぇ~』とか言って笑顔で見送るし.....。
僕の情緒どうしてくれるんだ。
あんな激しい感情を見せられた後に、いきなり平常運転に戻されたら温度差で情緒がグチャグチャになるわ。
『この世界に救いは必要ないよ、イッチー』
それにしても.....どうして僕はあの時、『怒り』を感じたんだろう?萩野君とは無縁の感情なのに。
短い付き合いだけど、彼が怒ったところを見た事がない。ぶっちゃけ怒るぐらいなら嫌がらせを嬉々として行うイメージだ。
「委員長、萩野君って怒ったことあります?」
「俺様は見た事ねぇな。なんで?」
「純粋な疑問ですよ。気にしないでください」
委員長も見た事ないと。
.....この学園の生徒の地雷がどこにあるのか探すのは難しい。多分、僕は知らずのうちに萩野君の地雷を踏んだのだろう。.....謝るから命を狙うのはやめて欲しいな。萩野君なら命を狙うとかないと思うけど。
「.....次は四馬鹿んとこ行くぞ」
「赤鼠達のクラスですか?確かBに赤鼠、黄犀
。Dに紫蛇、茶牛でしたっけ。彼らのクラスはどんな出し物なんです?」
「ふっ」
おっ、悪い笑み。これはもしや、イジメに行くのかな?
「どういう訳かBとDクラスは同じ出し物でな。実は昨日も荒らしに行った」
あっ、はい。察しました。
赤鼠、紫蛇、黄犀、茶牛に合掌。
「うぅぅう!!酷い!酷い!酷すぎる!!」
珍しく茶牛が声を荒らげた。若干瞳に涙が溜まっており、肩がプルプル震えている。なんだか犬耳が垂れているような幻覚が見えたが、きっと気のせいだろう......。
「これじゃあ商売上がったりですよ。赤字です。委員長、どうせ景品なんか有効活用せず捨てますよね?Dクラスに寄付しません?遊ぶ友達の居ない委員長が持っててもしょうがないやつばか――ぶっ!!」
あ~.....余計なことばかり言うからメガネ割られるんだよ紫蛇。いい加減学習しな??
「これでDクラスは終わりだ。次B行くぞ」
両手にそれぞれ袋いっぱいの景品を持った委員長は床に転がる紫蛇を蹴飛ばしBクラスに向かった。
「一条副委員長......」
「茶牛、そんな目で見つめられても困ります」
「うぅ....お願いします、お願いします。どうか知恵を、知恵を下さい」
「はぁ....今日委員長が射的屋を訪れたのはここが初めてです。つまりBクラス以外の射的屋は無事ということ。そこから景品根こそぎ獲得して、自クラスに並べたらどうです?」
「!!」
「副委員長はやはり人の心がないですね」
「さらにメガネを割られたいんですか??」
「景品獲得しに行きますよ茶牛!!」
圧をかけると紫蛇は茶牛を連れて逃げていった。
逃走にますます磨きがかかってるなぁと、感心するも、それだけ彼らが問題を起こしているのだと気づき、ため息が零れた。
何が人の心がない、だ。
委員長ほど腕がいいわけでもあるまいし、最低限の金額で全ての景品を取れるわけないだろう?委員長相手では赤字必須だが、委員長以外なら十分利益が来る。つまり、どこぞの射的屋は利益を出しながらも景品を全て片すことが出来、紫蛇達は自クラスに並べる景品をゲットできるというウィン・ウィンの関係ではないか。
まぁ、景品を得るために出費したぶんも稼がなければならないので、大変さでは紫蛇達の方が大きいか。それに、お金をかけても全然景品が得られなかった、という場合もある。その時は.....諦めるしかないね。
「.....どちらにせよ紫蛇と茶牛次第ですかね」
Dクラスの運命は彼らに託された!!
でも、もし僕がDクラスだったらあの2人に運命を託すのは嫌だな.....。というかあの子らクラスメイトに相談せず行った??
「おれ死ぬ。クラスメイト全員から袋叩きにされる....」
「いっ、いぃいい委員長!!2日目はもう来ないって言ってたじゃないですか!!」
黄犀は初日に委員長を自クラスに誘った罪で、クラス全員から袋叩きが決定しているそうだ。赤鼠は.....うん、強く生きてとしか。
「委員長、赤鼠にそんなこと言ったんですか?」
「いや?俺様は''来ないかもな''っつったんだ。断言はしてねぇ」
「結果、赤鼠の早とちりということですね」
赤鼠は泣きながら頭を抱えてうずくまった。
「さて、ここで委員長のお気持ちを聞きたいと思います。虚ろな表情で宙を見る部下と、泣きながら蹲る部下を見てどう思いましたか?」
「最高の気分だ」
「''最高の気分''いただきましたぁ!!」
「貴方達は鬼ですか??」
あ、哀嶋君。
「どこからどう見てもイジメの現場にしか見えないのですが.....」
「イジメだなんて、とんでもない。僕達なりのじゃれ合いですよ」
「虐める側はみなそう言いますよね」
「ところで!!哀嶋君はおひとりで何をしているんですか?」
友人も、取り巻きも連れていない。珍しいな。
いつもはぞろぞろ引き連れてるのに。
「雅臣の手伝いです」
「手伝いとはまた.....ん?戦闘狂の??」
「ええ。真正面から戦いを挑むのは愚策と判断しました。これからは精神面から近づいていこうと思います」
「君なら身体で籠絡した方が早くないですか?」
サマ臣君が淡白っていうの信じてないから僕。身をもって知ってるから。.....こんなん言ったら哀嶋君に殺されそうだな。黙っとこ。
「かっ、かっ、か身体でっ、ろぅ.....!!」
嘘でしょ哀嶋君!?なに生娘みたいな反応してんの!?
君が取り巻きと何をしてるか僕知ってるからね?
今更初心ぶっても手遅れ.....あれか、好きな人の前ではどんなビッチも生娘みたいになるという、あの現象か??
哀嶋君がその現象に陥るなんて.....恋って恐ろしい。
「あ~.....今のアドバイスは聞かなかったことにしてください。委員長!行きましょう!!僕お腹がすきました」
「ん?話は終わったか」
「はい」
「飯だな。わかった。.....いやちょっと待て、一度この荷物を置いてくる。先行ってろ」
「わかりました。では先に行って美味しいとこ見つけときますね」
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