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第十章 汝、近づき過ぎることなかれ

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委員長から電話がかかってきた。
彼は焦燥滲ませた声音で1-Aから離れろと言う。話の流れで兎君が緋賀現当主を引き連れAクラスでお茶をするとかなんとか......。

兎君、そんな(推定)危険人物連れてくるなんて何考えてるの。


「どうやら緋賀現当主がこのクラスに来るようですよ?」

「「えっ!!」」


情報共有すると宮野君は嬉しそうに、瀧ちゃんは嫌そうにそれぞれ表情を変えた。


「おふたりの緋賀現当主へ抱く感情を教えて貰っても?」

「僕は~命の恩人!!ちょっと昔、死にかけたことがあってさぁ。緋賀の人が助けてくれたんだよね。だから緋賀家の人に悪い感情は無いよ~」

「俺は別になにか関わったことがある訳ではないが....いい噂を聞かないもんでな。あまり関わりたくない」


ここでも別れたかぁ。


「.....そうですか。えっと、僕は委員長に呼ばれたので行きますね。瀧ちゃん、関わりたくないなら逃げるのをオススメします」


ということで僕は逃げる。委員長と合流するのは2年クラスということで西校舎へ。



――そして委員長と無事合流。


「おい!!あのクズ野郎と会ってないか!?」

「開口一番に聞くことがそれって、あんまりじゃないですか?父君が可哀想ですよ」

「その様子だと会ってないようだな」


その様子ってどの様子??そこが非常に気になったが、あまり蒸し返しても委員長の機嫌が悪くなるだけだと思うので、お口チャック。
僕は空気の読める男。


「さて、では楽しみますか」

「.....楽しむもないだろ。これは....ただの見回りだ」

「おや?僕は遊ぶ気満々だったのですが。委員長は酷いですね。遊ぶ気がないなら哀嶋君をペアに指名すればいいのに。彼、働く気満々でしたよ」


てっきり、一緒に楽しみたいから僕を指名したと思ったんだけど。


「.....仕方ねぇだろ」

「あぁもしかして、父君のことが気がかりなんですか?どこかで会ったらどうしようって?....委員長、腹を括りましょう。もう会ったらしょうがないですよ、それは。いつ出会うかも分からない相手にビクビク怯えるなんて時間の無駄。ナンセンスです」

「怯えてるわけじゃ.....ねぇし」

「なら楽しみましょう」


ぶっちゃけ委員長がなにを危惧しているのか分からない。何が怖いのか、何を恐れてるのか。言ってくれればいいのに、彼は絶対に言わない。

ははっ。
たいした理由の説明なしに、お楽しみを取り上げられるなんて僕は嫌だ。


「大丈夫ですよ。もし出会ったとしても、適当に理由をつけて離れればいいだけですから。僕の上手い口に任せてください」


委員長の手を引いて......じゃあ気を取り直して行きますか。
まずは1-C。ケーキ君にはよ来いと催促されているため、仕方なく向かう。



「はい風紀の見回りでーす」

「あっ、燈弥君!!やっと来てくれた。将翔君が待ちくたびれてるよ」

「まだ2日目始まってすぐじゃないですか。大袈裟な」


僕の言葉に死装束に身を包んだ文ちゃんは肩を竦めた。Cクラスは随分繁盛しているようで、長い行列ができている。一日目の疲労が抜けていないのか文ちゃんの顔色もどこか悪い。


「昨日と今日もお疲れ様です。ちなみに文ちゃんはどうやってお客さん達を驚かしているのですか?」

「私?私は異能を使ってお客さんが驚くように壁をこう.....ドカッ!!と倒して、埋める。お化け屋敷ならではのドキドキをお届けするよ」

「さては文ちゃん、お化け屋敷行ったことないでしょ」


埋めるって.....。命の危機を感じさせてドキドキさせるのは違うよ文ちゃん。クラスメイトはそれでよくGOサイン出したな。死人出るよ?


「おい、誰が主導でこの出し物を?」

「萩野君ですけど...」


委員長と揃って顔を顰めた。
ちょっと帰りたいなぁ。


「文ちゃん.....今のとこ何人死傷者出てます?」

「死者はどうだろう?何人か保健委員に担架で運ばれたけど.....わかんない。でも大丈夫だよ!!私含め腕の立つ異能者がやってるから。急所は外してる。まぁ、そのせいですっごい集中力使うし、できる人も限られてるから交代もろくにできないしで大変なんだけど」

「.....誰がそんな出し物に認可を――あのツギハギか。めちゃくちゃだな。.....一条、さっさと行くぞ。中で萩野を見つけたら教えろ。〆る」

「はぁ....了解です。では文ちゃん、楽しませてもらいますね」

「うん!私は今回仕掛け人で燈弥君達を驚かせること出来ないけど....きっと満足すると思うよ。楽しんで!!」


文ちゃんに見送られて教室に足を踏み入れる。




お化け屋敷というコンセプトなだけあって、中は暗い。教室という限られた空間でどれほどの仕掛けがしてあるのか.....楽しみになってきた。

ドアを閉められ退路は絶たれる。


「入ってすぐ両側に壁。初手で埋める気満々じゃねぇか」

「いやぁ、文ちゃんが居なくて良かったですね」


壁に手をやるとヒンヤリとした感触が。コンクリ??殺意ありすぎでしょ。それに崩した後どうやって新しいコンクリを用意するの?
なんか色々気になるなぁ。


「最初は何も無いな。次行くぞ」

「そうです――」


​─────ガシュ!!


「「ッ!!!」」


コンクリの壁を突き破り、眼前を何かが通過した。と、思ったら次いでズガンと大きな音が鳴り響く。


「委員長!?!?」

「しょうがねぇだろ!?身体が勝手に反応しちまうんだよ!!」


数秒かけて状況を理解する。左壁を突き破った槍が僕達の目の前を通過し右壁に刺さった。そして委員長は自身が攻撃されたと判断し、反射的に銃で反撃。


「殺しました?」

「いや、咄嗟にズラしたから大丈夫のはず。生きてるだろ。悲鳴や呻きが聞こえねぇし」


Cクラスの出し物、委員長と致命的に相性悪いんじゃない??死者を出すことなく無事に出口に辿り着けるか心配になってきた。


「委員長、僕と手繋ぎます?」

「やめておく。多分、お前にも銃口向けることになる」


暴力スイッチイィ....!!
残念ながら僕は自分の命をかけてまでCクラスの人を救いたいとは思わないので、仕掛け人は頑張ってね。

ということで、次のエリアへ。

次のエリアは椅子に座らされた一体のマネキンと、そこから少し離れた場所に机が置いてあるだけの空間だった。机の上には持ち手が赤・青・緑・白・黒、それぞれに染められたナイフが5本と、1枚の封筒が並べられている。

封筒の中身を確認。


「貴方の目の前に殺したいくらい憎い相手が居ます。貴方はどれを選びますか?」


赤:心臓を一刺し
青:一回嬲り、心臓を一刺し
緑:二回嬲り、心臓を一刺し
白:四回嬲り、心臓を一刺し
黒:相手を許す


「委員長どうします?僕は赤派なんですが」

「....俺様は白だな」

「じゃあ白にしましょうか。白を選びます」


白を選ぶと、5本のナイフがひとりでに宙に浮かんだ。あ、これケーキ君の異能.....

1本目がマネキンの横腹に突き刺さる。
2本目が太腿に突き刺さる。
3本目が腕に突き刺さる。
4本目が足の甲に突き刺さる。
そして、最後の5本目が心臓に突き刺さった。

何が起こるのか警戒する。

だけど数秒待っても何も起こらなかった。


「......終わり、ですかね」

「いい演出じゃねぇか」


まぁ確かに。ナイフが突き刺さるところは恨みが篭っているように見えて、少しゾッとした。それによく見ればマネキンは刺し傷だらけで、どれだけ多くの恨みを込めて刺されてきたのか如実に語っている。
.....このマネキン再利用しているのか。いや、わざとなんだろう。刺し傷だらけのマネキンというのもこの空間に見事にマッチしている。

だがそれだけだ。次に行こう。

未だにナイフが突き刺さったままのマネキンのそばを通り、次のエリアへ。


​────ガシャン.....


振り向くと
マネキンが倒れていた。
それだけならなんてことない。僕は気にせず先へ進んだだろう。でも、倒れたマネキンの背に文字が書かれていた。


『人を呪わば穴二つ』


ヒュンと。風切り音が聞こえた。


「委員長!!」

「あ''?」


​─────カキン!!


委員長は振り向きざまに銃身でナイフを弾き、さらに続く4本のナイフをなんてことないというように避け、弾いた。

化け物か??


「よく防げましたね。完全な奇襲だったでしょうに」

「萩野主導だぞ?あんなんで終わるわけないだろ」


ぐっ、言われてみればそうだ。あの愉快犯があれだけで満足するわけがない。僕はまだ萩野君のことをわかってなかったみたいだ。.....本当は分かりたくないけど。


「これで今度こそ終わりですよね?」

「ああ」


あのナイフが委員長を狙ってくれて良かった。
そう安堵していると....おかしいな。なぜ宙にナイフが数十本浮かんでいるのだろう??
どうやら委員長も気づいたようだ。両手に双銃を持っている。


「.....まだ終わってねぇってか。ハッ!!浪木はどうしても俺様を殺したいようだな」


ケーキ君....ここで五大家嫌いを発症するのか!!
ということは僕は関係ないってことでいいよね?
隅っこに避難してます。



そこから始まる銃弾とナイフの飛び交う演舞。
火花を散らし、地に落ちるナイフ、壁にめり込む銃弾。


​────チュン!!


「うわっ!?!?」


そしてケーキ君のナイフによって予測不可能の災害となった跳弾。ひぃ...!今掠らなかった!?
どこにも安全地帯がないなんて....


「もう.....勘弁してください」


泣き言を零したらピタリと音が止んだ。
異変に顔を上げると、委員長が不思議そうな顔で辺りを見渡していた。


「今度こそ本当に終わりらしい。殺気が消えた。急だな.....」

「もう僕疲れましたよ。途中退出ってないですかね?」


ため息をついていると、ピコンと電子音が鳴った。ケーキ君からのメールだ。

『やり過ぎた。......すまん』

謝ったから許す。


さて、お次は......




















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