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第十章 汝、近づき過ぎることなかれ
《side 兎道 湊都》
しおりを挟むくぁ.....あ、やべ。
「はっ、緊張感ないな」
欠伸をしたら永利に笑われた。だって、仕方ねぇじゃん。昨日ははしゃぎ過ぎたし、当番頑張ったしで疲れてんだもん。戦闘狂に追っかけ回された時よりも疲労感がエグい。なんでだろ?
「気を抜くのはそこまでだ。シャキッとしろ。来るぞ....」
「永利の父さんなんだろ?そこまで気を入れなくてもいいんじゃ?」
「親である以前に緋賀の当主だ」
逆じゃねぇの??緋賀の当主である以前に親じゃね?普通。それじゃまるで親の情より緋賀現当主としての面が強いみたいな.....そりゃ私的な用事で会うわけじゃないから、ある程度親と言えど礼儀は必要だけど。
でも、なんというか永利は過剰な気がする。
「授業参観で緊張する子供みたいな....」
「聞こえてんぞオラ」
「うへっ、うへへへへ....あだっ!?」
うぅ、笑って誤魔化したら拳骨落とされた。ひでぇよ永利。ただの冗談だったのに。というか俺って結構永利と打ち解けてきたんじゃ!?
「おーおー.....これまた良い友達ができたな永利」
すぐ側から聞こえた鼓膜を震わす低音。
次いでポン、と肩に重みが乗っかる。
「俺様に触んな!!」
だけど肩の重みは直ぐに消え去る。
声を荒らげた永利に視線を向ければ、汚いものを見る目で己の肩をはたいていた。
「.....その反応は普通に傷つく。いいか永利、俺くらいの歳になると心がガラスになっちまうんだ。だからもう少し優しくしてくれ....」
「黙れカス」
「ぴぃ」
「っ、何気色悪い声出してんだ!?ふざけるのも大概にしろよ!!」
あっ、はい。これ前世で見たことある光景だわ。友達の家に遊びに行った時、本来仕事で居ないはずの友達の父さんが家に居た。そんときの友達の顔は今でも覚えてる。こう....形容し難い顔をしていた。んで、そっから始まる友達の口撃。早く家から追い出そうとまくし立てるように酷いことを言っていた。
最初は仲悪いのか....と気まづく思ったが、後からその友達の友達に『アイツ今、反抗期だから』って教えられた。なるほど。あれが反抗期。俺はなったことないから分からんかった。
でも確かに思い返せば、友達の父さんは息子に生暖かい目を向けていたなぁと。仲が悪いのなら親は息子にそんな目を向けないだろう。
で、話を戻すが
永利の対応がその友達とそっくりなのだ。永利の父さんが永利に向ける生暖かい視線が友達の父さんが息子に向けるそれと同じなのだ。
――キュゥッ
ん''ぐ
かつてないほどの胸のトキメキに内心唸る。これがギャップ萌え!!永利が反抗期とか想像出来んかったし、実際に見るとめっちゃ可愛い!!
しゃ、写真撮りたい....そんで皆に見せびらかしたい。永利はこんなかっこよくて可愛いんだぞって。
「落ち着けよ永利。遊ぶのはまた家に帰ってからでいいだろ?いい加減そっちの子を俺に紹介してくれよ」
そっちの子....俺か!
視線が俺に向いたため、背筋がピンと伸びる。
改めて永利の父さんを見ると....うん、永利の親って感じ。雰囲気似てるわぁ.....。
例えるならそう、どっかの国のマフィアの首領。
藍色のスーツに、あれはベストっていうのか?わかんねぇけど漫画やドラマで見るマフィアのボスそのまんまの服装だった。肩から黒いロングコートなんか掛けて威圧感がパないし、しかも中折れハットを深く被っていて、ハットの影からこちらを覗く赤い瞳がちょっと怖い。
「最初に遊び始めたのはテメェだろ....はぁ。こいつは俺様の補佐をしている奴だ。....もう紹介したからいいだろ?さっさと帰って趣味の種蒔きでもしたらどうだ」
「お前、それは紹介って言わねぇだろ。ったく、悪いなちっこいの。俺は緋賀現当主を務めている永将だ。愚息が世話になってる」
そう言って永将さんはハットを脱ぎ、頭を下げた。中折れハットによる影がなくなり顔が良く見え、思わず凝視してしまう。いや、だって十数年後の永利はきっとこうなっているんだろうなと思うほど、似ていた。永利の大人バージョン....。
そこでハッとする。今この人俺に頭下げたよな?と。この国の、異能者のトップと言ってもいい人が俺に頭を下げるだなんてやばくね?前世で言うと総理大臣が息子の友達に頭下げてるようなもんだろ?
「っい、いえ!永利にはこっちがお世話になってる!...ます!!」
ぐぅお~緊張して口回らねぇ!!
「う、兎道 湊都です!!今日はよろしくお願いします!!」
よし言えた。もう無理だよ俺。永利助けて....お前の父さんなんか緊張する。
「ハッハッハ!初々しいな!!そう気を張らんでもいい。別にとって食うわけでもないしな。....ところで兎道君、うちの愚息は学園ではどんな感じだ?見た目の通り頭の固い奴でな.....融通の効かないマニュアル人間なんだ。迷惑かけてないか?」
見た目の通り??いや、全然頭固くねぇし、融通も効くぞ?迷惑かけたとか1度もないし....逆に俺が迷惑かけてる。
「永利はすっごい尊敬できる人です。めっちゃくちゃ頼りになる。迷惑だなんて1度もかけられたことねぇし、むしろ風紀委員の俺達の方が永利に迷惑かけてるって言うか....ごにょごにょ」
「ほぉ.....そうかそうか。テメェ慕われてんじゃねぇか!!良かったなぁ!おい」
「.....」
声を上げてバシバシ永利の背を叩く永将さん。永利がめっちゃ苦い顔してるけど、そこはやっぱり長年の付き合いというのか、永将さんは全然気にしてない。すげぇ。
「おい湊都、余計なこと話すんじゃねぇ。こいつとは必要最低限の会話しかしなくていい。いや会話も必要ないな。無視しろ」
「そんな無茶な....聞いてくださいよ永将さん!永利ってばさっきまですっごいきんちょ――ひょ!?」
「それ以上話せば.....わかるな?」
調子こいたら永利にガッチリ頬を掴まれた。痛い痛い痛い....頬がミシミシいってる!!
顔は固定されていたため、必死に瞬きして許しを乞う。そしたら直ぐに手を離してくれた。
おー....いてぇ。
頬をさすっていると笑い声が上から降ってきた。
「ハッハッハッハ!見せつけてくるねぇ2人とも!おっさんには眩しい光景だ。.....ふむ、そうだな。兎道君、俺と少し話をしないか。良ければお茶をしながらでも愚息のことを聞かせてくれ。あ、永利は来るなよ?」
「誰が行くか死ね」
「あっ、俺でよければ付き合います!!場所は...俺のクラスでどうですか?喫茶店なんすけど」
「兎道君に任せる」
「了解っす。.....じゃあ永利、見回り頑張ってな!!」
手を振ってバイバーイ......おぐぇ
急に首が締まった。って、永利!襟引っ張んのやめて!!
「ゲホッ!なんだよ!?」
「少しでも違和感や疑念を抱いたら逃げろ」
それだけ言うと永利は手を離した。その顔はどこかイラついていて、焦燥感が滲んでいる。
「永利――」
「ん?2人で内緒話か?ハッハッハ!俺も混ぜてくれよ。放置は寂しい」
「ちっ....」
永利は足早に去っていく。
.....俺ってもしかして余計なことした?永利の焦ったような顔、頭から離れない。
「フハッ.....本当にわかりやすい奴だなアイツ。あんな顔に出してこの先やってけるのかねぇ?心配だよ俺は.....」
「あのっ、俺....!」
「ん?ああ、気にしなくていいと思うぞ。ただの反抗期だ。....見苦しいもん見せて悪いな」
「見苦しいなんて...逆に微笑ましいというか、いいもん見せてくれてありがとうというか.....」
「微笑ましい.....??」
「ア''っ、行きましょう!!俺が案内します!!」
やっべ、余計なこと口走るところだった!
1-Aを目指す道中話すのはやっぱり永利のこと。
永将さんが愉しそうに聞くもんだから俺ばかり話してしまった。聞き上手だなぁ!
「すんません。俺ばっかり話しちゃって....」
「謝ることじゃねぇさ。むしろ俺としちゃ嬉しいくらいだ。永利が学園でどう過ごしてんのか知ることができたし。.....あと兎道君が永利のことを好いているってこともな。ハッハッハッハ!」
顔が燃えるように熱くなる。
否定の言葉を言おうにも、永将さんの口端を上げ笑う顔が永利と重なり言葉に詰まった。
「ん~.....兎道君。永利の番にならないか?」
「つびょ....!?!?」
つ、つつ番!?!?
「えっ、だ、つ、ッ、ッ??」
「ハッハッハ!すげぇ混乱してんじゃねぇか!面白いなぁ兎道君!」
「だって!!五大家の番って....!!」
「美城、星菜、在鷹は政略だな。だが緋賀は違う。恋愛結婚推奨だ。俺も恋愛婚だしな」
懐かしむような顔で永将さんは言った。い、意外すぎる。なんか恋愛とは無縁の人生を歩んでいそうな見た目なのに....。
というか緋賀って恋愛婚なんだ....権力持ってる家は人脈を作ったり、維持したりするために絶対政略結婚するんだと思ってた。
「アイツが1人じゃなく同伴で俺に挨拶しに来たってことは紹介したかったんだろう。''そういう相手だ''ってな。良かったなぁ兎道君。脈アリだぞ」
「ア゚」
もうやめてくれ....心臓が、心臓がもたない.....
「.....あの時は本当に驚いた。永利が副委員長ではない誰かを連れているなんて。しかも....ハハッ!まさか好みが俺と同じとはな。無意識か?それともワザとか?まぁ、どちらにしろ喜ばしいことにかわりないが」
「??」
「あぁ、すまん。昔のアイツは他人に興味のない先が不安な子供でな。感動してるんだ。そんな愚息が俺に人を紹介したということに」
「永利の子供の頃の話!?聞きたいです!!」
他人に興味ないって....うぁ~永利っぽい。でもそんな永利に少し心を開いてもらってるって....めっちゃ嬉しい。
まぁ、永利の子供の頃の話を聞いたって言ったら開いた心の扉閉まりそうだけどな....でも気になる!バレなきゃ大丈夫だろ!
「おお、食いつくなー。じゃあ少しだけ話すか。ちっせぇ頃のアイツはそれはまぁ純粋な奴でな?俺の言うことなーんでも信じちまって、よく痛い目見てたわ」
「永利が純粋.....」
「笑えるほど可愛かったぜ?『俺は永将みたいな立派な正義のヒーローになる!!』とか息巻いて。....あの頃は本当に可愛かった」
「しゃ、写真とか....」
「ハッハッハ!欲がダダ漏れてるぞ兎道君」
だってちっちゃい頃の永利見たいじゃん!!
─────Prrrrrrrr
「ん?あぁ、俺か。失礼.........緋賀だ。......そうか。わかったすぐ行く」
ポケ~と待ってたら、永将さんが眉を寄せ苦い顔を向けてきた。トラブルか...?
「悪いな。用事が出来た。お茶はまた今度ということにしといてくれ」
「謝ることじゃないっすよ。めっちゃ楽しかったですし。お仕事頑張ってください」
「ありがとう。....そうそう番の件考えといてくれ。兎道君のような子がアイツを支えてくれると嬉しい」
「ひゃい.....」
最後に爆弾を落として永将さんは去っていった。
ちょっと....俺、どっか休めるとこ探そ.....。あ、芙幸と清継に迎えに来てもらお。そんで、休憩したら一緒に学祭を.....永利に会わないよう楽しもう。
もう今日は永利の顔見れねぇよ.....。
《side end》
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