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第十章 汝、近づき過ぎることなかれ
《side 骨喰 恭弥》
しおりを挟む焦る。
やってしまった。俺は、竜一から目を離してしまった。
歩けば耳に入る1-Eの揚げ小籠包の評判。気になり竜一をEクラスまで誘導したはいいが、運悪く今の竜一を否定している竜一信者に出会い阿鼻叫喚空間へと変貌。揚げ小籠包どころではなくなった。
竜一を引っつかみ、どこかへ行かないよう注意しながら事を収めること数十分。竜一信者を追い返し、竜一がそばに居ることを確認しながらやっとのこと揚げ小籠包を買い....
で、揚げ小籠包片手に振り向くと竜一が消えていたという。
「どうしてあの一瞬で消えるんだ!!」
気を緩めた俺も悪いかもしれんが、隙を狙ったように消える竜一も悪いっ。悪意のある消え方だろう!?
不味い。今の竜一を1人にするのはとてつもなく不味い。さっきのように絡まれでもしたら、今の奴なら必ず手を出す。
「クソっ!GPSでもつけとくんだった!!」
後悔しながらも身体は自然と走り出す。
竜一がどこへ向かったのか聞き周り、それをまとめた結果....アイツは東校舎に向かったらしい。
なんでまたあんな古びた校舎に?
.....考えても仕方ないか。アイツの考えることは今も昔もよく分からん。
そして俺は揚げ小籠包のお預けをくらいながら東校舎に向かったのだが――
アイツ一条さんを壁に押付け首にかぶりついてやがった
「なっ、にをしてるんだ!!!!」
引き離そうと肩を引っ張る。しかし『ミシッ』と生理的不快な音が聞こえ咄嗟に手を離した。
「あ''.....んだよ、お前か」
ねちゃり。
血と唾液の交じった糸が竜一の口と一条さんの首を繋ぐ。
顔が引き攣った。あの嫌な音....もしあのまま肩を強引に引っ張っていたら一条さんの首の肉はちぎれていたかもしれない。そう思うと背筋が凍った。
「何をやって――一条さっ、一条は無事か!?」
「.....どうだろうな」
機嫌良さそうに血に濡れた口元を拭う竜一から一条さんを奪い取る。勢いでカクンと人形のように首が垂れ、眼鏡が落ちないよう慌てて向きを変え、ベンチに凭れさせる。
息は....してる。気絶してるのか?
「そいつさぁ」
持っていた飲料水でハンカチを濡らし、傷口に押し当てていると竜一が気だるげに口を開いた。
「どっかで会った気がするんだよ。でもよぉ、人違いだって断言するんだよなぁ、こいつ」
悠然と近づいてきた。またなにかするつもりかと警戒していると、竜一は一条さんの首筋にそっと手を伸ばし傷口をなぞった。その表情はまるで能面のようで感情は読み取れない。
「おかしいよな、おかしいよなぁ?人違いごときにこの俺がこんな乱されるなんて」
「乱される.....?」
「初めて見た時から近づきたかった。触れたかった。首筋が気になった。目に映りたいと思った。ムカついた。親しげに話しかけられたいと思った。傷つけたいと思った」
「おい、何を言って――」
「この俺が!!」
平坦だった声が激情を宿したように大きくなる。能面のような表情から一変、竜一は不愉快そうに眉を寄せた。
「俺がそこまで思ったのに、感じたのに....人違いで片付けられるわけねぇだろ。――だから確かめてやった」
「で、確かめる方法が首に噛み付くことか?馬鹿だ。馬鹿だろ!どうしてそういう方法になるんだ!?1歩間違えれば死んでたかもしれないんだぞ!?」
「死んだらそこまでだろ。何言ってんだお前」
「~~っ!!!」
バカにしたような物言いに手が出そうになった。声を荒らげて言いたい。それは相手が弥斗さんでも同じことを言えるのかと。
それをして後悔するのはお前だというのに.....いや、どうせこいつのことだ。弥斗さん相手だとコロッと言葉を変えるのだろう。
「ふぅ.....で、確かめた結果は?殺しかけてまで得た結果どうなんだ。昔、会ったことがあったのか?」
自分を落ち着かせるよう息を吐いて、結果はどうだったのかと投げかける。一条さんの傷口は深い。誰がどう見ても殺意のある攻撃、もとい咬撃だ。そこまでしたのに、''確かめられなかった''では済まされない。いや、俺が許さない。異能を始動するのも辞さないぞ。
.....というかまず、首筋に噛みついて何がわかるというのだ?色々おかしいだろ。
目が覚めたように気づいた時には、竜一に一条さんを奪われていた。自身がベンチに座ると同時に、一条さんを後ろから抱き抱えるように股の間に座らせるという、鮮やかな手口。流れるような動きに、阻止することも、ましてや制止の言葉さえも出なかった。
「会ったことがあるかは思い出せない。....俺としてもコイツを殺したいのか、仲良くなりたいのか、それはわかんねぇんだ。でも....なんかこう....胸がスっとしてる。今なら気持ちよく寝れそうなくらい気分がいい」
そう言って竜一は傷口に唇を落とす。竜一にしては珍しく、穏やかな表情だった。
滅多に見ないその表情に気を取られていると、耳が小さな呻き声を拾う。
「ぅ''....くび、いたい.....」
「一条!!」
「骨喰君....って、え??今どういう状況ですコレ」
「どういう状況....って、それは――」
加害者が被害者を抱きしめたまま寝ている状況だなぁ.....。竜一のやつ秒で寝やがった。
「っ?なんでこんな締め付けられるように抱きしめられてるんです??う、ぅうごけない!?」
「一条、諦めるしかない....。この身勝手坊ちゃんはテコでも動かないぞ」
「そんなぁ....せっかくの学祭が.....」
ぐっ、変装はしていても素の姿の一条さんがしょんぼりしている姿が想像できた。
それが不覚にもキュンとくる。一条さんは人を落ち込ませることはあっても彼自身が落ち込むことはないだろうと思っていたから、ギャップでさらにダメージがっ....!
「一条さっ....ゴホン。一条!揚げ小籠包あるけどどうだ?」
「揚げ小籠包は午前中にもう頂いたんですよね。あ~あ....まだ回ってないクラスあったのに」
「う''....こ、このパンフレット見て、気になったやつあるなら言ってくれ!俺が買ってくる」
「ふふふ....実はある射的屋の景品で、可愛らしいぬいぐるみが出されていたんですよね。ですが午後は人と会う約束があって挑戦することが出来ず、それでこの後行こうとしたんですが....」
「俺が行く。どんなぬいぐるみだ?」
少し考える素振りをした一条さんは、
・ふわふわしてた
・丸かった
・半目
・眉、鼻、耳はない
・口からヨダレを垂らしていた
・手足がついていた
・赤....赤....
と、自信なさげに言った。どうやら見た目はうろ覚えで、とにかく可愛かったというのだけ印象に残っているそうだ。
丸いふわふわに....半目???
俺からすればそんなぬいぐるみのどこが可愛いのか理解できないが.....実物を見れば分かるのだろうか?
「じゃあ回ってくる。竜一のことは頼んだ」
「.....えぇ、頑張ってください」
歯切れの悪い一条さんの様子を不思議に思いながらも、俺はぬいぐるみを獲得すべく本校舎を目指した。
《side end》
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