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第十章 汝、近づき過ぎることなかれ

《ある青年の過去①》

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11歳を迎える誕生日。
少年の元には大小様々なプレゼントが届けられていた。


「毎年毎年....一体誰が僕にプレゼント贈ってくれるんだろう?」


去年も、一昨年も、少年の元には両親以外のプレゼントが届いていた。誰からのか両親に聞いても彼らは『いつか会うよ』とその一点張り。だから今年はこっそり早く起きて、使用人が届いたものを仕分けする前にプレゼントを確認しようと考えた。

屋敷の裏口。一族御用達の配達員は裏口にある荷物搬入部屋に宅配物を置く。

少年は久しぶりに感じる『未知』にワクワクしながらプレゼント達に手をかける。数は去年と同じ。つまり去年と同じ人が贈ってくれている可能性が高い。


「ん、これ....宛名は僕だけど父さんへの手紙がついてる。これだけじゃない。他のプレゼントも全部父さんか母さん宛ての手紙がついてる」


プレゼントは間違いなく少年のもの。だけど一緒に入っている手紙は全て両親宛て。
.....見てみたい。だが、怒られるかもしれない。
そんなもどかしい気持ちに侵されながらも、少年は手に持っていた手紙をしっかりと開いていた。


「.....ショートメッセージだ。えーっと『未来を担う優秀なお前の子供に祝福を』永将??誰だろう」


最後に''永将''と書き殴られている。テレビで見る有名人の中に永将だなんて名前は見た事がない。
芸能関係の友人では無いのだろうか?
いや、そもそも会ったこともない友人の息子に毎年毎年プレゼントを贈るだなんておかしいのではないだろうか?これが当たり前?

しかし、いくら考えても外に出たことの無い少年には皆目見当もつかなかった。これが当たり前なのか、おかしいことなのか。









「誕生日おめでとう愛しい子。はい、プレゼントだよ」

「あらまぁ、すっごい期待されてるねぇお前は。プレゼントの数が減ってないじゃないか」

「いや~それは私が悪い。友人に親バカ丸出しで話しちゃってるからね」

「なんだ嘉人のせいか。あんまし期待をかけられるようなことするなよ。この子が可哀想だろぉ」


両親の些細なやり取りをよそに、プレゼントを前に少年は首を傾げる。プレゼントの数が朝数えた個数より1個増えていたのだ。
見覚えのないプレゼント。白い包みに赤のリボン。それは絵に描いたようなプレゼント箱だった。


「....なにこれ。仮面?」


プレゼントから出てきたのは白い笑い顔の仮面。裏面には何やら模様が描かれている。


「それはっ」


嘉人が驚いたような声を上げ、少年が持っていた仮面を取り上げる。突然の行動に目を白黒させていると嘉人が目線を合わせるようにしゃがみ苦い顔を向けた。


「これは....異能だ。授業で習っただろう?嗚呼まさか君が異能者になるとは....」

「家庭教師が教えてくれたあの?えっと、えっと....模様があるってことはヴァイス?僕はヴァイスなの!?」

「あのね、このことは誰にも話しちゃいけない。使用人にも」

「え、なんで?」

「異能はとても危険なものなんだ。将来君は芸能界に入るんだろう?民衆の目に晒される芸能界に異能者は入れない....だから隠さなきゃいけないんだ」

「嘉人の言う通り。民衆は危険な力を持った人間を愛さないからな。芸能界に異能者は立ち入り禁止」


少年は両親の言う通り、このことを誰にも話さないと約束した。両親と同じ芸能界に行くため、両親の期待を裏切らないため。


「誰にも言わない。でも始動しちゃダメとは言われてないからいいよね?もしかしたら父さんと母さんの助けになる異能かもしれないし。何より....友達を作れるかもしれない」


1人になると途端、仮面をいそいそと取りだした少年は習ったことを思い出すようにブツブツと口を開く。


「始動には影子を流し込まなければならない。込め方は丹田から送り出すように...だっけ?全身を巡る血液を意識するとも言ってたような....。まぁとりあえず仮面を持ってみよう。ん?なにかふわっとしたような気がする。これが影子かな?込めるってこう....ん、ちがう?じゃあどうやるの『ナイド』。あれ?ナイドって誰だろう?....あぁ君がナイドか。なるほど​───」


途中から誰かと話しているかのように少年ははしゃいだ。そして....


始動アンファングナイド」


始動。瞬間、仮面はひとりでに宙に浮き笑いだした。


『ギャハハッ!お前が俺のマスターか!!俺はナイド!よろしくな』

「わぁ!!!やった!!よろしくナイド!ねぇねぇ君の異能はなに!?そうだ僕と友達になってよ!僕ずっとこの屋敷から出てなくて、テレビで言う友達っていうのがいなかったんだ。父さんと母さんもずっと家にいるわけじゃないから話し相手もいないし....」

『....友達ねぇ?ギャハッ!いいぜ。俺はマスターの友達ダ。異能についちゃ....まだ話せねぇ。今のマスターにゃまだ早い異能だ』

「わかった。異能は別にいいや。そこまで欲しいわけじゃないし!ね、ね!ナイドはどこまで知識があるの!?ドールって性格がそれぞれ違うんでしょ!?ナイドはなんでそんな性格なの!?」

『ギャハハっ。質問が多いぜマスタァ。落ち着けよ!』













少年は知らない。
なぜプレゼントが増えていたのか。
なぜ会ったこともない人間からプレゼントが贈られてくるのか。
なぜ危険な力と言いながら制限されないのか。
なぜ使うことの無い異能の教育を施されたのか。
なぜ外に出してもらえないのか
なぜ
なぜ....



なぜ、自身が両親と全く似ていないのか。



少年はまだ何も知らない。










《side   end》




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