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第十章 汝、近づき過ぎることなかれ
《ある青年の過去①》
しおりを挟む少年は賞賛と羨望に囲まれ育った。
「ああっ、なんてお美しい」
「プラチナブロンドの髪は櫛いらずのサラサラ髪」
「垂れ気味の眉と優しげな金の瞳は慈悲深い神のよう」
「ご両親に負けないくらいの美しさ」
「貴方様は自身の価値を知らなければなりません」
「自身の価値を高め続けなければなりません」
「貴方様にはみなに愛される力があります」
「ご両親のように全てを魅了するのですよ」
使用人に囲まれ育った。
ことある事に両親がいかに素晴らしいかを囁かれ、大事に大事に囲われる。そんな外界と切り離された生活にいつしか少年は、使用人と同じように両親を至上の存在と称えるようになった。
「いつになったら父上と母上に会えるの?」
当然の疑問と不満。しかし使用人は貼り付けたような笑みで少年を諌める。
「嘉人様と道歌様はお仕事で忙しいのです。あまりわがままを言ってはいけません」
国を駆け回り、時には世界を翔ける。少年は益々両親への尊敬と憧憬を強くした。でも、それでも寂しさは拭えなかったが....。
しかし、寂しい日々は突如終了を告げた。
「初めまして愛しい子。ごめんねそばに居てあげられなくて....これからはできる限り家に居るようにするから」
父親は人気引っ張りだこの役者。クールな顔立ちに眼差し。だが笑うとふにゃりと親しみやすい表情に変わり、そのギャップが多くの人を魅了した。もちろん演技も、人を捉えて離さない引力のようなものがあった。
「写真で見るよりさらに綺麗じゃん、華もある....流石は僕達の子。モデルに興味なぁい?」
母親は人気絶頂中のモデル。アーモンド型の瞳に勝ち気そうな眉。挑発的な表情がよく似合い、艶やかな笑みを向けられれば、数多の男は抵抗できず堕ちるだろうと言われている。
彼らが少年の産みの親。尊敬してやまない人。焦がれ続けた人。
「はっ、初めまして!!僕は××。父上と母上の息子です!」
「ふふふ。あぁよろしく。....そんなにかしこまらなくていいよ。家族だろう?父さんって呼んでくれ」
「なら僕は母さんだね」
「~~っ、っはい!!」
向かい入れるように両腕を広げる父親の姿に、少年は瞳を涙で濡らしながら飛び込んだ。
少年は学ぶ。
自身のことを。
一族のことを。
「いいかい?私達に目に見える瑕疵は許されない。一つの傷で価値が大きく下がってしまうんだ。価値が下がれば一族が積み上げたものが一瞬で瓦解する。価値が下がるというのは、私達が最も恐れることなのだと心に刻みなさい」
「僕の価値はなに?父さん」
「それは''美しさ''だよ。美しさを損なうことは死を意味するんだ」
一族に目に見える瑕疵は許されない。
一族は美しさを重んじる。
「自分の理想の''美''を追求し続けるためなら努力を惜しむな。外見も内面も。全てに妥協を許すな」
「それが出来ないとどうなるの?母さん」
「死だ。''美''なき僕達に存在意味は無い」
一族は努力を怠ってはならない。
''美''なき一族に存在価値はない。
少年は教えを心に強く刻んだ。
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