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第九章 心乱れる10月
《side 巣ごもり部屋》
しおりを挟むメールを送信し終わり、「委員長は大丈夫だろうか?」とボーっとする頭で心配していると、ひょいと手の中からスマホを奪われた。
「もう要らねぇだろ」
「あ~....今からゲームしませんか?」
「いっひひひ....その手には乗らねぇ」
ふかふかのベッドに下ろされた燈弥はどうにかして''そういう雰囲気''をなくそうと提案するが、雅臣は乗ってこず。逆に雅臣の手によってするすると変装道具を外され回避不可の空気が漂った。
「.....そそるな」
素の美しい姿に再度狼の耳を装着すれば、雅臣は唸るしかなかった。劇毒によって火照った顔、潤んだ瞳、蝕む身体を抑えるように自身を抱きしめ丸まる姿。それは雅臣に食ってくれと言っているような有様だった。
「捕食者である狼が捕食される側である兎に食われるだなんて.....滑稽だなァ。これを考えた奴は絶対に性格悪いぜ」
「ん、そう...です、ね。''こう''なることを、見越して...ぼくにこの耳を贈ったというなら....はぁ、悪趣味以外の、なにものでもないですね」
「悪趣味...ちげぇねぇなぁ。いひひ、我慢すんのもつれェだろ。オレが触ってやるよ」
「え、遠慮します!!このままっ、このまま喋っていましょう!」
「んー、嫌だ。オレ知ってんだよなぁ。その薬のヤバさ。我慢しすぎるとマジで頭おかしくなるぜ」
「ぼくならだいじょうぶ」
「嘘つけ」
燈弥は腕を掴まれ頭上で一纏めに縫いつけられた。拘束を抜け出そうと藻掻くが、身体は微かに身動ぎするだけ。
その有様を見て雅臣は口端を吊り上げるが、目は笑っていなかった。彼のらしくない笑い方に燈弥は焦燥を顔に滲ませる。
「君は弱っている人間に手を出すことはしないでしょう?」
「勘違いしてねぇか。弱い強いは今関係ない。これは所謂''人助け''っつうもんだ」
「......」
「選べ。そのまま生殺しを味わうか、イき地獄を味わうか」
「その、その二択しかないのですか?中間は、選べないの.....?」
「んじゃ、突っ込まれるか、キスするか」
「中間どこいった....」
だが燈弥自身もう時間の問題だと感じていた。下着の下、緩く勃ち上がったものに何度手を伸ばしかけたか。射精したい、気持ちよくなりたい、燻りを解放したい.....思考を埋め尽くす程の獣欲に溺れたかった。
でも、それをすれば''自分は終わる''と、淫靡な願いの片隅で理性が警鐘を鳴らす。
だから身体を抱きしめる様に強く腕を回し、全身を強ばらせ足掻いた。
しかし何事にも限界はある。時が過ぎ、今ではもう燈弥の身も心も決壊寸前だ。そんな彼の前に突きつけられた救いの手。
迷う。されど思考は正解にたどりつかない。
燈弥はなけなしの理性で並べられた選択肢の内、どちらがマシかを選ぶしかなかった。
どちらがまだ自分が壊れないかを。
「......ぐぅ..............じゃあ.....キス──ふっ!?」
最後まで言い切る間を与えられず、胸ぐらを引っ張られ口を塞がれる。上体が上がったことにより、頭上で一纏めにされていた両手は自由になった。だが両手は重しをつけられたかのようにシーツから上がらず、無抵抗のまま唇を割って侵入してきた熱い舌に翻弄される。
「んぁっ、はっ.....はっ.....」
「いひひっ、物欲しそーな目.......」
音を立て唇が離れると、燈弥の視界で白い兎耳が揺れるのが見えた。思わず、触り心地の良さそうな耳に手をのばしもふもふと握る。まるで幼子のようなたどたどしい手つき。
雅臣は燈弥に襲いかかりたい気持ちをねじ伏せ、深く息を吸い、吐き出した。そして胸ぐらを掴んでいた手を離すと、胡座をかいた自身の膝の上に燈弥を引っ張り横抱きに座らせる。
「こっちに集中しろよ」
燈弥が倒れないように背中から肩へ腕を回し、密着させるように強く引き寄せるとまたキスをする。くちゅくちゅとわざと音を立て口腔内を掻き混ぜ、まだ逃げようとする舌を咎めるように甘噛みした。
気持ちいいほどのキスに酔っていると、雅臣の目は欲を発散するべく下腹部へノロノロと這う長く節ばった手を捉える。
「ダメだ。キスだけだろぉ」
「うっぁ、もうむり、むりっ.....!手、離して!」
絡め取られるように手を繋がれる。さっきの無抵抗が嘘のように暴れ始めた燈弥に対し、雅臣は身動き出来ないよう無理矢理押さえ込み、中断したキスをまた再開した。
「ふーっ、ん''.....!やめっ、ぁ''.....はぅ」
本当に限界が近いのだろう。腕の中の燈弥は辛そうに涙を流し、身をくねらせている。
「んじゃあ.....触っていいか?」
「自分でっ」
「触るか、キスか」
「~~っ、さわって――ぅ''あぁっ」
下着から糸を引いて空気に触れるペニスを握りこまれる。やっと望んだ刺激に燈弥は泣きながら喜悦の声を上げ、身体を強ばらせた。
我慢の末に鈴口からは壊れた蛇口のように先走りが垂れ流れている。昂りを握る手はクチュクチュとその感触を楽しむように粘液を指で広げた。優しささえ感じる手つきに、もどかしさで腰が揺れる。
雅臣の触り方は射精させるためのソレではなかった。焦らすような、燈弥の思考をとことん堕とすような悪辣さを孕んでいる。実際に燈弥の思考はもうイくこと以外なにも考えられない状態だ。
だから普段絶対に言わない言葉を口走ってしまう
「ぅ、あ、ッ、ッはやくイかせろばかッッ」
「!....Yes,sir」
雅臣は興奮に目尻を赤く染めながら、恭しく形のいい汗ばんだ額に口付けを落とす。と、同時に包み込むように握っていた手を上下に激しく動かし始めた。
「ふぅ''っ、ぁ、っ、っ、っぁ、あッ....!」
にちゃにちゃと扱かれ、グリグリと親指で亀頭を擦られる。
「ぅ、っ、ぁ、イっ...イくっ、う''ぁ....っあ''ぁあ!」
背筋を駆け抜けるような快楽に、目の前で星が弾けた。熱い迸りは燈弥の上半身を汚し、反動で身体がカクカクと震える。荒い呼吸をしながらボーっとする頭で虚空に視線を注いでいると、急な刺激に身体が跳ねた。
「ひぐっ!?ぁ、まって....!ま''ぁっ、ぁあああッ!!」
余韻に浸る間もなく、雅臣の手によって更なる快楽を叩き込まれる。達したばかりで敏感だというのに、お構いなしに激しく扱かれる。
元々、燈弥は淡白な質だ。そのため1回射精すれば満足してしまうし、達したとしても虚ろになるほど快楽を感じることはなかった。それなのに今は身体がもっともっとと求めるほど燻り、開いた口を閉じることも出来ないほど感じ入ってしまう。
「やっ、やめ''!....うぁっ、イく、い''ぃ、ぐ....!ま、た...っイ....!――っあぁ''あああっ!!」
「やめろだなんて嘘言うなよ」
「まってっ、きゅ、ぅけ...いっ....!ぐぁ....ひぃ、ひっ、あっ、う''ぅぅぅッ」
足先がピンと伸びた。下腹部が引き攣るように痙攣している気がした。最初は勢いよく放たれていた白濁が、今はもう少量しか出ていなかった。
呻きながら荒い息を整えようと大きく息を吸う。
しかし、入り込んできたのは熱い感触と息をも奪う激しさだった。
「っ!?うう''ーーっ、ふ....!」
燈弥の頭の中で『なんで!』という言葉で埋め尽くされる。燈弥は選んだ。触るかキスかの2択で前者を。なのになんで今キスをされているのか?
キスだけではない。雅臣の手は相変わらず燈弥のものを刺激し続けている。
「─────ん''ぅぅっ!!」
「はっ....」
さっきよりまた少なくなった精液が飛び散る。
雅臣は唇を離すと、燈弥の疑問と憤りを見透かしたように笑い、こう言った。
「一番最初にキスするって選んだじゃねぇか」
つまり、最初の突っ込まれるかキスかの2択の選択が今も効果を持って続いていると言うのだ。
''ずるい''
ならさっきの2択は実質選択肢がないようなものではないか。燈弥は潤む瞳に抗議の色を乗せ、あらん限りの文句を吐き出そうとした。
しかし文句言うこと叶わず。
燈弥は白濁によって汚れた服を剥ぎ取られ、全裸で再びシーツに沈められた。驚きに固まっていると、上半身だけ脱ぎ捨て精巧な獅子の刺青をさらけだした雅臣が視界に映る。昇級試験以降目にすることがなかった美しい刺青に目が奪われた。
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