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第九章 心乱れる10月

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「では今から12月上旬に行う学園祭の出し物について話し合いたいと思います」


10月中旬。
僕がアンケートもどきを提出して次の日のことだ。授業終わりにこのクラスの級長である三上 爽爾みかみ そうじ君が壇上に立ってそう言った。


「今決めるのか!?まだ10月だぞ!!っていうか文化s───学園祭冬にやるのかよ。普通秋じゃねぇの?」


兎君が手を上げて聞く。確かにまだ決めるには早い気がする。最後の、学祭は秋にやるものではないかという疑問に思う気持ちも分かる。僕も学祭は秋にやるものだと思っていたから。

だけど周りは前半のこの時期に学祭のことを決めることに疑問は示しても、冬に行うということについての疑問および違和感はないようだった。



「後半の疑問は意味がわからないので答えようがないですが、前半の疑問には答えることができます。それはこのクラスの不出来な教師のせいです」

「「「「「あぁ~.....」」」」」


クラス中から納得の声が上がる。


「学祭は教師との連携が不可欠です。ですが、皆さんご存知の通り我がクラスの教師はクソでグズ野郎であります。つまり他クラスのように11月から取り組むと間に合わない可能性がでてくるのです」


弁護の言葉すら出てこない。納得しかない。
三上君の言うことはもっともだった。


「学祭は昇級試験も兼ねているので、皆さん万全の準備で当日を迎えたいはずです」


え?昇級試験も兼ねてるの??初耳なんですけど。
詳しい話を聞こうと前に座る瀧ちゃんの背中をつつく。すると、振り向いてくれた瀧ちゃんは律儀に説明してくれた。


「学祭は余程変なものをやらない限り必ずランクが上がる行事だ。だからこの学園の生徒は最低''参''で卒業することが出来る」

「この学園に救済措置なんてあったんですね....」


えーっと、確か僕の今のランクは​───肆。なら文化祭で伍になるなぁ。
.....ちょっと上がりすぎか?



「というわけで、何かやりたいことはありますか?」


三上君の言葉で様々な意見が教室内で飛び交う。
漫画喫茶、コスプレ喫茶、お化け屋敷、屋台....
僕としては漫画喫茶希望。理由は客の回転率が低そうで楽そうだと思ったから。

聞けば学祭といっても普通の学校と違って外部からの客はチケット制で限られた人数しか入場させないらしい。...だから回転率のいい出し物をしなくてもいい気がする。なんなら僕が客として漫画読みたいくらいだ。


「では用紙を配るので各々やりたいものを書いてください。5分後回収します」


5分!?
短いなぁ......。


「なぁなぁ、なにも教室にこだわらなくてもよくね?体育館借りて劇とかやれば面白いと思うんだけど....燈弥はどう思う?」


用紙に漫画喫茶とシャーペンを走らせようとしたが、横の席からかけられる兎君の声にピタリと手を止める。


「体育館じゃなくてもグラウンド借りて何かやってもいいんじゃね!?」


まるで「ナイス案!」と自分で自分を褒めるように兎君は笑みを浮かべていた。


「それはどうなんでしょう....瀧ちゃーん。体育館とかグラウンドって借りれるんですか?」


困った時の瀧ちゃん。だけど瀧ちゃんが振り向き、口を開くのと被せるように宮野君が割り込んできた。


「そういうのは僕に聞いてよぉ~!この学祭委員の僕に!!」


ここで驚きの事実を紹介しよう。なんとこのクラスの学祭委員は宮野君なのだ。


「.....それを言うなら俺も学祭委員だけどな」


それと瀧ちゃん。
学祭委員を決める時、誰も立候補せず最終的にモッチー先生が指名したのだ。宮野君の名前を呼んだ瞬間のクラスメイトの顔といったら酷く、中には泣きそうな顔になる生徒も居たほど。
だけど瀧ちゃんの『....学祭委員は2人だったはずだ。もう1人は俺が立候補する』との言葉で、クラスのあちこちからホッとした安堵の声が聞こえたという....ね。

1回、クラスメイトが抱く宮野君へのイメージを聞いてみたくなった。


「体育館は申請すれば使えるかもしれないけど、そういうのは上の学年が優先されるから今年はちょっと無理かも。グラウンドは美形コンクール....美コンがあるから使えないね!」


ふむふむと聞いていると衝撃の言葉が耳に入る。
なんて??
え、美形コンクール??
疑問符を浮かべていると兎君が聞いてくれた。


「美形コンクール?.....なんだそれ」

「文字通りこの学園一の美形を決めるコンクールだ。クラスで選んだ1人を代表者として、学年関係なしに投票し合い優勝を決める」

「クラスから1人!?立候補制じゃなくて強制なのかよ!!」

「大丈夫だよー。ちゃーんと湊都をこのクラスの代表として登録するから」

「全然大丈夫じゃねぇーよ!?やだよ俺そんなんなのに出たくねぇ」

「湊都なら優勝狙えると思うのだが....」

「清継もそう思う?」


あー....確かに兎君顔はいいからね。くりっとした大きな瞳で可愛らしさを醸し出しつつ、勝気さを隠さない眉。太陽のような朗らかな笑みから一転、今みたいに眉をへにょりと寄せ口をキュッと噤む姿は庇護欲が湧き上がる。


「と、燈弥は俺が優勝するとか言わないよな?」


まさに兎のような可愛らしさで上目遣いされ、「優勝は君だよ」と言いかけそうになる。危ない危ない。


「ゴホン....美形といってもカッコイイ系・可愛い系・綺麗系とジャンルがあるじゃないですか。兎君は可愛い系....審査する人の好み次第では?」


遠回しに兎君の''絶対''の優勝はないと言う。


「俺....やっぱ可愛い系なのか......わかっていたけど、改めて言われると.....うぅ、なんかショックだ.....」

「まぁ燈弥君の言いたいことはわかるよ。でもどうしようもないからねぇ、人の好みは。.....この美コンが真っ黒になるのもしょうがない」

「真っ黒とは?」


落ち込む兎君の背中をさすりながら聞き返す。


「.....根回しだ。この美コンには特定の審査員がいない。全生徒の投票数で優勝を決めるんだ。そのため賄賂や誘惑、取引といった策が物を言う」


うっっわ....最悪のコンクールじゃん。
そんな根回しで勝って嬉しいものなの?この学園一の美形って称号は。


「安心して。僕がなんとしても湊都を優勝させるから!」

「だから望んでねぇって!!」

「はいはい、美コンの話はここで終わりにしましょう。今は学祭の出し物が優先です」


息を荒らげる兎君を落ち着かせ、話を終わらせる。

さてさて、さっさと書いちゃおう。


「5分経ちました。回収します。......集計が終わり次第学祭委員のふたりに伝えますね」

「三上1人にそこまで頼めない。後は俺とコイツがやろう。......助かった。ありがとう」

「ぐえっ....!」


瀧ちゃんが宮野君の襟を引っ張り強制的に立たせ、教壇まで引きづった。級長である三上君が壇上に立ち、学祭について皆に話したのは宮野君のことがあるからだろうか?
どうやら瀧ちゃんが三上君に頼んでたっぽいし.....。

本当に宮野君は何をやったらこうまで皆に忌避されるんだ。







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