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第九章 心乱れる10月
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「わっ....!」
静かな自室で鳴り響く着信音にうつらうつらしていた意識が覚醒する。
せっかくいい気持ちで寝付けそうだったのに、誰だろうか?
不機嫌になりながらもスマホ画面を見てみれば、『骨喰 恭弥』の文字が暗い部屋に青白く浮かぶ。
「.....もしもし一条です」
『っすまない!こんな時間に電話なんてさぞ迷惑だろう....だが、助けて欲しい』
開口一番に謝られたら許すしかないじゃないか。まぁ骨喰君からの着信なら何時でも受け付けるけど。
それにしても''助けて欲しい''か.....嫌な予感。
「どうしたんです?トラブルですか?もし良かったら委員長呼びましょうか?」
風紀が必要なら委員長に押し付けよう。
ああ、赤鼠含む4人組でもいい。
『.....誰にも知られたくない内容なんだ。特に緋賀には』
「会長関係ですか?」
『....すまん』
肯定が謝罪ってどうなのそれ。
「それで、会長がどうしたんです?」
『――手が付けられないんだ。もう俺じゃ止められない。だから竜一に懐かれてる一条の力を貸してほしい。竜一の部屋の前で待っている』
ブチッと音を立て通話は切られた。
僕はまだ助けるかどうかの返答をしていないのに....もう行くという選択肢しかなくなった。
無視すればいいって?
骨喰君を無視するという選択肢はまず存在しない。
「....骨喰君の頼みなら喜んで」
生徒会唯一の良心だからね、彼。
いたわりたくもなるさ。
「さて、行きますか」
会長の部屋前に行くと、骨喰君が落ち着かなさそうにドア前をウロウロしていた。
「お待たせしました。それで僕がなんの役に立つんですか?」
「一条!来てくれてありがとう。とにかく竜一を宥めてくれ。俺が体を張る」
体張ることがこの先待ってるんですね.....嫌だなぁ。会長なにしてんの??
僕の不安をよそに骨喰君はドアにカードキーを通し(なぜ持っている?)足を踏み入れる。慌てて後を追い、部屋に踏み込むと甘ったるい匂いが鼻を掠めた。
瞬間、背筋にゾクゾクとしたなにかが走る。
脚から力が抜け膝を着きそうになったが、何とか持ち堪え、身体を起こす。
「....フェロモン?」
会長だけでなく、Ωもいるのだろうか?
いや、玄関には会長の靴しかなかった。
ならこのフェロモンは誰のだ?Ωが居ないのにαが発情期に陥ることはないはずだ。
「骨喰君、これはどういうことです?」
「....すまない。俺の口からは言えない」
「謝ってばかりですね」
「....本来なら俺一人で解決すべきことなんだ。それなのに一条を巻き込んでしまった」
申し訳なさそうに翡翠色の瞳が揺らぐ。
「信じられないかもしれないが、竜一は人格者なんてものじゃない。称えられる言葉が霞む程とても面倒臭い人間なんだ。今からそんな竜一に一条を引き合せるなんて.....謝るだけじゃ足りないくらいだ」
骨喰君はいつも口をキュッと閉じ、眉を寄せて、気難しそうな顔をしている。委員長といい勝負をしそうなくらい。そして潔癖そうな雰囲気が更に彼をお堅いイメージだと印象付ける。
そんな彼がこんな悔恨をあらわに表情を歪めるなんて滅多にないことだ。
「常々思ってたのですが....なぜ会長のそばに居るんです?貴方みたいな人が」
あの会長と骨喰君の気が合うとは思っていない。きっと趣味も合っていない。性格も多分、相性がいいとは言えないだろう。
なぜ?
「.....俺が竜一と一緒に居るのは所謂''打算''だ。あまりいい理由じゃない。だから一条には言わない。.....嫌われたくないからな」
「そんな嫌うだなんて───」
「ドア開けるぞ。....竜一を頼む」
僕の言葉を最後まで聞くことなく、彼はリビングへと続くドアを開けた。
最初に目に入ったのは散らかった床だった。
ティッシュ箱や衣服、ガラスの破片、木片....とにかく酷い有様だ。
視線を床から上にあげると、部屋中央に置いてあるソファに足を抱え背を丸める会長の姿があった。
「竜一....」
「っ、誰だ!?勝手に入ってくんな!」
骨喰君が声をかけると、激情宿した声と共に何かが飛んでくる。
─────ガシャーンッ!
飛んできた物体は骨喰君のすぐ横を通り、音を立て壁に激突し破片を散らした。
「骨喰君!!」
飛んだ破片が当たったのか、骨喰君の頬に一筋の赤い線が作られていた。
「......一条すまない。俺では今の竜一を止められない。頼む」
真摯な眼差しを向けられ、僕は返事をする代わりに彼より前に出た。
「会長」
「......や、と....?」
「─────誰ですかそれ。.....はぁ、場所を変えましょう。こちらへ」
散らばる破片に気をつけながら会長を寝室へと連れていく。抵抗するかと思ったが、素直に僕の手を取り覚束ない足取りで後を着いてきた。
───パタン......
寝室のドアを閉じる間際、感情の窺えない目でこちらをじっと見つめる骨喰君が居た。
なぜそんな目で僕を見つめるのか?
疑問が過ぎったが、手を引っ張られる感覚に意識を会長に戻す。
「座りましょうか」
「.....」
促すとこれまた素直にベッドに座った。
まぁ....繋いだ手は離そうとしてもがっちり掴まれたままで、顔はずっと僕の方を向いているが。
サングラスのような丸眼鏡越しとはいえ、穴が空きそうなほどの強烈な眼差しに、どこか愕然とした表情。彼は何度か口を開いては閉じてを繰り返し、
やっと口にした言葉は.....
「やと、弥斗....俺の弥斗」
掴まれていた手は離され背中に回り、抱き寄せられた。掻き抱くような、締め付けるような、強い抱擁に骨が軋む。
さて、どうしようか.....。
やけに冷めた頭で状況を観察すると、ベッド横のサイドテーブルにあるものを見つけ、会長の''異変''に納得がいった。
テーブルの上に白い錠剤がいくつも散らばっていたのだ。
薬.....会長は薬に手を出していた。
苦い気持ちが込み上げてくる。「なんで」「どうして」と彼を問い詰めたくなる。
でも、それは後だ。
薬をやめてもらうのが先。
そのためにも――
「チビちゃん」
「弥斗弥斗っ、会いたかった.....!」
大きな身体を丸め子供のように僕に縋り付くチビちゃんの頭を撫でながら、ピンを外しウィッグを脱ぐ。もちろん眼鏡も。
そして変装道具をそこら辺に投げ捨てたら準備完了。
ここからはお説教と説得の時間。
まったく.....本当に困ったちゃんだな、僕の片割れは。
薬に溺れて友達を困らせるなんて。
でも、安心して。
間違った道に行く弟を正すのは兄の役目だから....
「顔を上げてチビちゃん」
なんとしてでもやめさせてあげるよ。
そう、たとえ君を────苦しめてでも
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