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過去話 『愛してる』は免罪符たりえるのか
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しおりを挟む雅臣と重臣は壊れた。
どうしようもないほど壊れてしまった。
雅臣は弱かった自分を否定するため、
強者を求めた。
強者になろうとした。
重臣は虐げられる側にならないため、
虐げる側を望んだ。
虐げる側になった。
彼らはこの生き様を変えることができない。
たとえ、自分達が間違っていると知っていたとしても。
たとえ、この先否定される人生しかないとしても。
彼らは狂ったように笑い、拳を振るうだろう。
『お願いします。俺達の最後を見届けてください』
『そして、どんなことがあろうと僕達を助けないでください』
『俺達は全てを受けいれます』
『僕達は全てを赦します』
宗矩は防弾ガラスの向こう側で起こっている光景に彼らの言葉を思い出し....扉を開けた。
「.....本当に大馬鹿者だ。貴様らは」
未だに風が吹き荒ぶ部屋に足を踏み入れると、事切れそうな彼らの前に立つ。
双子は意識があるのかないのか、虚ろな顔でこちらをじっと見ている。宗矩はソレを一瞥すると、取るに足らないとでも言うように視線を逸らし、優秀な部下達を見下ろした。
「.....む、ね....のり....様」
「力を創り出す実験を行っていい者は、死んでいい人間か、創り出した力に殺されない人間だけだ。だから言っただろう?.....必ず死ぬことになると」
「ごふっ....」
「.....理解できんな。愛しているなら尚更この結末を避けるべきだったはずだ。残された息子達がどうなるか分かるだろう?結局は壊れて廃人だ。それが貴様らが望んだ結末なのか?」
宗矩の言葉に繁秋と高政は力なく笑うと、ズリズリと身体を這わして双子のそばへ行く。
繁秋の切断された足からはドクドクと血の線路が伸び、高政の切り刻まれた身体からはジワジワと血の海が広がる。
それでも双子のそばに辿り着いた彼らは身体を起こし、小さな体を抱き寄せる。
「よく頑張った」
「すごいよ僕の天使達は.....うん、偉い」
「痛いことしてごめん。酷いことしてごめん。でも、もうお前達を傷つける人間はいない」
「たとえそんな人間が居ても、君らの力がそれを許さないだろう。これで君達は....自由だ」
「迫害されず、自身で選択ができる。この世界は力がないととことん生きずらいからな....特に鎖真那では」
繁秋と高政は顔を見合せ、昔を思い出すようにクスリ笑った。だがそれも一瞬。
瞳を真剣なものに変えると双子の目をそれぞれ覗き込む。
「.....生きて」
「.....生きろ」
「他人の命を踏みにじっても」
「他人に望まれなくても」
「好きに生きて」
「自由に生きろ」
――ふらりと。
力尽きたように2人は倒れ込む。
「.....おれは....どんなことを....して、でも2人には....ごふっ....生....きて....欲しい。だって、俺は、あの子...らを....」
「ああ....僕の可愛い天使達....」
────愛してる
緩やかな弧を描いた口元は血に塗れている。
夥しい量の血を流した身体は痛々しい。
....それでも彼らの表情はとても穏やかなものだった。
「全く....天晴れだ。自分達の死さえも息子達を生かすための材料にするとは。''愛してる''か。子供はそう言われれば許さざるを得なくなるだろう。なんせその愛のおかげで生かされたのだからな....自害などできない」
双子に視線を移す。
そこで宗矩は眉を寄せた。
双子が泣いていたのだ。虚ろな瞳からポロポロと大粒の涙を流している。
「.....これは」
唸る。
これではまるで――
「呪いのようではないか」
黒かった髪は老人のように真っ白に
身体に施された刺青は彼らを縛る鎖のように
零れる涙は苦しみの発露のように
「貴様らの愛とやらはこやつらにとって呪いかもしれんな.....」
愛が呪いとなるなら、
繁秋達の''愛してる''は果たして双子への免罪符になり得るのだろうか?
「.....さて、双子はどんな答えを見せるか楽しみだな」
宗矩は無表情で双子の目覚めを待つ。
【end】
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