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過去話 『愛してる』は免罪符たりえるのか
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しおりを挟む双子達は死んだような顔で椅子に座り込んでいた。いつもの部屋ではない。
和室。
訪れたせいで2人の運命が変わった、あの平屋敷の一室である。
「「.......」」
正気を保つように話していた口は貝のように閉じられ、視線は虚空に注がれている。
これが今の彼ら。
数年の月日は彼らをここまで壊した。
────スッ....パァン!!
「黒髪赤眼の双子.....おー、ここに居たか。俺の後輩」
障子を無遠慮に引いて1人の青年が部屋に入ってくる。適当に切られた黒髪に双子と同じ赤い瞳。
黒の学ランを纏った彼はドスドスと雅臣達に近づき鋭い瞳で見下ろす。
「「っ....!」」
宗矩のソレと同じ視線に双子は身を寄せ合い肩を震わした。
「お~お~....弱者みてぇな目ェしやがって。なっさけねぇ」
「「......」」
「俺が怖いか?」
「「......」」
「テメェらの口は飾りかよ。喋れ」
「「.....」」
「....こりゃ重症だな。おい聞けガキ共」
青年は目線を合わせるように双子の目の前に座り込む。
「俺はテメェらと一緒だ。このクソみたいな家の犠牲者、親に裏切られた可哀想な子供.....同じだ」
「は、一緒....?」
「おれっちと同じ....?」
「やっと喋ったか。....そう、一緒だ。それもテメェらよりもっとずっとヒデェ実験をやらされた。....先駆者だからな」
「じゃあなんで、なんでそんな....」
「''普通''でいられるか?ってか」
雅臣の言葉に青年はクツクツと笑った。さも可笑しそうに。さもくだらなさそうに。
「俺が普通なわけないだろ。自分で言うのもなんだが....こっちは当然おかしくなった」
''こっち''と言いながら頭を指さす。
「....なにか言いたそうな顔だな?言えよ聞いてやる」
「なんで笑ってられる?憎くないのか?この家が。....親が」
「おれっちは憎い。顔も見たくないほど」
「クク....考えるだけ無駄だろ。憎いとか嫌いとか。感情だけで現状は変わるのか?憎いと思うなら行動しろ。顔も見たくないならもう見ないよう行動しろよ」
「行動....?でもおれっち何もできない」
「近いうちテメェらは身に過ぎた力を得るだろう。ソレを使え」
「どう使うんだよ。オレ達は未だに自分達が何をされてんのか知らねぇんだぞ。力ってなんだ」
「あ''?そんなもん一つしかねぇ。命を奪う力だ」
「命を奪う....?」
「おれっちそれ知ってる。それって殺すってことだろ。死ぬってことだろ。ん?....死ぬってなんだ」
『死』について首を傾げる双子。
実験と並行して勉学を教わっているが、死ということについて詳しく教えてもらったことがない。実験で痛い思いをしても死がどういうものか知らないため自身が死に体であるという考えに至らず今日まで来た。
双子は死について何も知らない。
「あー.....つまりもうテメェらを痛い目にあわせなくなるってことだ。怖い思いをさせられなくなるってことだ。....つまり誰もテメェらを傷つけねぇ」
「もう痛くされない....傷つけられない....」
重臣は頬を染め呟いた。瞳は異様な光を宿し、うっとりと息を吐く。雅臣はというと「ふーん」とたいして興味無さそうな様子。
雅臣には別の関心があった。
それはこの目の前の青年だ。自身と同等かそれ以上の実験を経験したという。なのに、
なのに――
笑っていた。
死んでいた心が跳ねた。どうでもいいと諦めていた自身の命が悲鳴をあげた。
(オレも笑いたい。''こう''なりたい)
初めての憧れ。決して目指してはいけない人間に憧れを抱いたとは知らず、雅臣は聞く。
「どうやったらお前みたいに笑えるんだ」
「は?....笑いたい時に笑えばいいだろ。何言ってんだお前」
「....こんな環境で笑えるわけないだろ!」
「それはテメェが弱いからだ。弱けりゃ蹂躙される未来しかねぇ。笑いたいなら強者になれ」
「強者...?強くなれってことか」
「そうそう。蹲るな、目を逸らすな、舐められるな。恐怖を与えろ、常に相手を見下せ」
雅臣は何度も「強者」と呟く。
自分の世界に入ったらしい双子を冷たい目で観察した青年は静かに立ち上がった。
「最後に2つ。アドバイスと忠告だ。誰だって結局自分が1番。他人を慮るだけ無駄。だから好き勝手生きろ。んで、忠告は──肉親に希望を抱くな。裏切られた時の反動は希望のデカさに比例する。じゃーな....憐れな後輩達」
嘲るように笑うと興味を無くしたように外に目を向け、部屋から出ていく。
「....おれっち早く力が欲しいかも」
「なにをもって強いと定義するんだ?やっぱ意味わかんねぇ」
1人の青年が双子を変えた。
その変化は吉と出るか凶と出るか....結果はそう遠くない日に出るだろう。
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