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過去話 『愛してる』は免罪符たりえるのか

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椅子に縛り付けられ血反吐を吐く生活が数ヶ月続いた。そんなある日、雅臣と重臣はかつて通っていた観式学園幼等部に送られた。

あの地獄のような部屋から外に出たのは数ヶ月ぶり。初期の双子なら泣いて喜んでいただろうが、もう数ヶ月経っているのだ。


「「......」」


双子は疲弊していた。心が摩耗していた。
眩しい太陽も、同い年の子供の楽しげな声も、血の匂いがしない新鮮な空気も....

双子には喜ぶ気力がなかった。


「あっ!!まさおみくんだ!!」
「しげくんもいる!?」
「なんでこなかったの~?」
「かけっこしよ!!」


駆け寄ってくる子供達。
雅臣と重臣は――


「ひぃ、あ、ぁ....!くるな!!」

「こわぃ、こわい...マ、マサオミ!」


拒絶した。震えながら吠え、重臣を背にかばい雅臣は気丈に振る舞う。そんな雅臣もさらに近づいて来ようとした子供に恐怖の色を濃くした瞳を揺らめかせ一歩後退る。


「まさおみくん?」
「どうしたんだ?」


『僕の愛しい天使達。ちゃんと食べなさい』
『大好きだぞお前ら。だから頑張ろうな?』


双子の脳裏に過ぎったのは最愛の顔。

気づいた時には脇目も振らずその場から逃げていた。
もう誰とも話したくない。目も合わせたくない。怖い思いをしたくない。

2人の中にある感情は最早それだけとなっていた。
信じていた親には望まぬことを強要され、痛めつけられた。愛した親には助けを求める声を無視され、力によって押さえつけられた。


....彼らが幼いながらも人間不信に陥ったのは仕方の無いことである。


「シゲオミ....おなかいたくないか?」

「すこしいたい。あさたべたトーストがダメだったかも」

「おいしいのはさいしょのひとくちだけだよな」

「あとはじぶんのだした『ち』のあじしかしないもんなぁ」


寄り添うように肩を並べ一緒に空を見上げる。


「いつまでつづくんだろう....いたいの」

「しらねぇ」

「おれっちもういたいのいやだ」

「オレもだ」

「このままにげる?」

「どこに?」

「.....じゃあ、どうすればいいんだよ!」

「しらねぇ」

「うぅ~っ、マサオミのばかばかばーか!!もうしらねぇ!!」


それでも重臣はその場から去らず、雅臣の隣に居続ける。1人になる勇気も、雅臣がいない場所に行く勇気もない。


彼らの居場所はもう互いの隣しかないのだ。













「かゆ、いっ!ぜんぶかゆい''っ!!いだっ....!」

「高政、神谷様をお呼びしろ。全身重度のやけどだ」






「う''ーーーー!!うぅ''あ''あぁぁあああああああああああああっ!!!むしがっ、むしむしむしむし!むしがっ....たべてる!!オレをっっ、おえぇぇぇっ」

「繁秋っ精神安定剤投与!!」

「重臣とは違う症状だな....」






「sd-205の投薬結果、重臣のUM値は一時的に大きく増加したが数秒後には拒絶反応のせいか、全身から多量の出血。雅臣も同様にUM値が上昇したがこれも一時的.....」

「やっぱりまだ薬の耐性が足りないんだ。効きが強すぎてUM値を維持できてない」

「投薬を続けるしかないか....くそっ」





「繁秋!!なに勝手なことしてるの!?」

「安全装置を埋め込めばUM値が安定する!」

「だからって....!雅臣達の身体を弄っていい理由にはならない!!それにわかってるでしょ!?たとえ安全装置を埋め込んだとしてもその場しのぎだって!機械頼りの結果どうなったか繁秋自身よく知ってるはず!!」

「お前はこのままこの子達が壊れてもいいと思っているのか!?」

「思ってない!!だけど全てを覚悟してここに来た!繁秋は違うの!?」

「ぐっ....!だが――」

「やるしかないんだ!!....だから安全装置を取りだして」

「....」

「ねぇ繁秋.....あの子達が頑張ってるのに僕達が諦めてどうするんだ。雅臣と重臣に僕達のような道を歩かせるの?」

「...................安全装置を取り出す」






「ぐ、.....頑張れ、頑張れ」

「い''だい''~~っ、う''ぁぁあ''、とお''さまっ、い''い''だ、ぃぃ....!!」

「痛みに慣れるんだっ、これからのために!!!」






「ねぇ繁秋....雅臣と重臣の手足が腐ってる。ひふが、肉片が....sd-205は適合しなかったんだ」

「またやり直しだ!!神谷様を呼べ!!くそっ、くそっ!!やはりザントとヴァイスでは回路の作りが別物なのか!?予想より定着が​────」










2年の月日がたった。
雅臣・重臣――6歳。

数年の月日が経っても尚、実験は続いていた。


「がふっ....ぎぃ、がぁああっ、いぃ''い''!」

「UM値が今までにない記録だっ、すごいよ雅臣!これで最終フェーズにいける!!」


高政の喜ぶ声が絶叫木霊する部屋に落ちる。
ここに至るまで様々な実験が行われた。それがようやく実を結ぶ。高政は逸る気持ちを抑えるのに苦労した。


「繁秋と話し合わなくちゃ....!今日はここまで!いつも通り着替えて昼食をとってね」

「がひゅ....ごほ、ごほっ!」


雅臣を置いて急いで自室に向かうと、そこには既にパソコンに向かって何かを打ち込んでいる繁秋の姿があった。カタカタと夢中で画面に向き合う繁秋に呆れたように高政は言う。


「重臣の実験は放ったらかし?」

「馬鹿、ちゃんとやったよ。ただUM値が理想の数値に届いたもんだから早々に切り上げて次の手配をしてたんだ」

「あ、重臣も!?実は雅臣も最高値を出したんだ」

「なら明日2人を本邸に連れてって検査だ。宗矩様にも見てもらい最終フェーズの許可を貰いに行こう」

「わかった」

「.....長かったな」

「.....うん。雅臣と重臣には随分と酷いことをしちゃった、ね」

「だがこれであの子らは鎖真那に受け入れられる。俺達出来損ないの子供って時点で未来はないようなもんだったから....な」

「ははっ、強さ至上主義の鎖真那家に不出来なヴァイスは要らないからしょうがないさ」

「....本当に上手くいってよかった」

「うん....ああ''よかった!....ぐすっ」

「おい、泣くなよっ....こ、こっちまでもらい泣きするだろ!?」

「そこは僕を慰めるとこでしょ~!?なんで一緒に泣いてんの!」

「うるせー!ずびっ....俺だって泣く時は泣くんだよ!」

「全く....涙引っ込んだわ」


2人は幸せそうに笑いあった。
明るい未来を信じて。















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