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過去話 『愛してる』は免罪符たりえるのか

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新しい家に引っ越した次の日のこと。
雅臣と重臣は高政に手を引かれ見知らぬ廊下を歩いていた。
朝早く起こされ未だにぼんやりした頭はどうやってここまで来たか思い返そうとしても眠気によってただ虚ろになる。


「ごめんね。本当にごめん」
「謝って許されることじゃないのはわかってるんだ」
「雅臣と重臣ならきっと大丈夫....」
「あぁぁあぁああぁぁっ、変わってあげられたらどんなにいいか!」
「愛してる。何があっても僕達はお前達を愛してるから」
「大丈夫大丈夫大丈夫大丈夫大丈夫大丈夫大丈夫大丈夫だいじょーぶ......」


だから高政がどんな顔で、どんな気持ちを込めてそんな言葉を吐いたのか....うつらうつらな雅臣達は覚えていなかった。
まぁ幼い雅臣達に例え高政の声が届いたとしても言葉の意味を理解できていたかは定かではないが。


そんな雅臣達が目を本当の意味で覚ましたのは高政に繋がれた手を離された時だった。


「「.....かあさま?」」


離れた温もりにぱちくりと目を瞬かせる。
そこでやっと自分達が知らない場所にいることに気づき、興味深そうに辺りをキョロキョロ見渡すと、また高政に視線を戻す。

高政は我が子の様子に悲しそうに笑った。


「さぁ行こう。中には雅臣と重臣が知らない人がいっぱいいるけど怖がらなくていいからね」

「....なにするの?」

「おれっちここいやだよ.....いえにかえりたい。あそぼうよ!かあさま」

「....遊びたいよね。そりゃそうだ。だって君達はまだ4歳なんだもん。いひひひ.....うん、家に帰ったら必ず遊ぼう。父様と母様が毎日付きっきりで遊んじゃうぞ~!疲れても寝かせてあげない!だから、だから――」


ぎゅーっと抱きしめられる。雅臣達はいつもと違う高政に戸惑いながら抱きしめ返す。

数十秒、数分とも感じられる長い抱擁が終わると高政はへにょりと笑い、雅臣達の手を強く握ると目の前の扉を開けた。


「ようこそ、お待ちしておりました」

「.....この子達をよろしくお願いします」

「お任せ下さい」


知らない大人がたくさんいた。全員が白衣を纏い、冷たい目で雅臣と重臣を見つめてくる。
あまりにも怖い目に雅臣達は高政にしがみついた。

だが​───


「....じゃあね。家で待ってるから」


高政に振りほどかれ地べたに転がる。
それでも尚、高政に追いすがろうとした双子達。


​───ガチャン....カチッ


しかし無情にも扉は閉じられた。


「いやだっ、いやだ!!ここはいやだ!!かあさまっっ!!」

「.....どうして?なんでおいてくの?おれっちなにもわるいことしてないよ?かあさま!!」


扉は開かない。声も届かない。


「被検体が揃ったため今から実験を行う。まずは回路を広げるため影子送流装置の用意を。お前はUM値の計測を。お前は経過の観察を。お前は医療班の準備を。....では各自動け」


声は返ってきた。しかしそれは雅臣達の望む声ではない。


「さぁ、被検体1と被検体2....移動を」

「ひけんたいいちってなんだよ!!」

「おれっちのなまえはシゲオミだよ?ひけんたいじゃない」

「.....時間は有限です。素早い移動をお願いします」

「かあさまにあわせろ!!じゃなきゃ....ぜったいにここからうごかない!」

「かあさまにあいたい....」

「.....誰か。被検体を部屋に運べ」

「はなせぇぇ!!」

「っ、いたい!!マサオミ!!」

「シゲオミっ」


雅臣達は別々の部屋に連れてかれた。自身の名を叫ぶ重臣に必死に手を伸ばす雅臣だったが、呆気なく扉が閉められ椅子に括り付けられる。

腕は肘掛に、足は脚に縛られ冷たい感触が肌を伝った。

それだけでなく頭には機械の帽子を、鼻にはカニューレを、肌蹴られた上半身には貼り付けるように管を、手脚にも同様に管を繋がれる。

雅臣は思った。
まるでおもちゃ屋で見たマリオネットのようだと。


「な、なんだよ....なにするんだ!」

「装置、拘束具、全て装着しました」

「いやだ!たすけて!!かあさまたすけて!!」

「映像チェック....問題なし。UM値....安定。脈拍数....安定。血圧数....安定。体温....36.8。酸素飽和度....問題なし」

「了解。ではこれより被検体1の影子回路拡張を行う。スイッチを入れろ」

「はい。スイッチを入れます」

「??​────ぁ、ぁぁああ''あ''あ''あ''あ''ああああぁああ''っ!!!!」


ブチブチ
プチプチ
ビリビリ

雅臣の身体は激しく痙攣した。
引きちぎられるような痛み。潰されるような痛み。痺れるような痛み。燃え盛るような痛み。息が出来なくなるような痛み。

音が聞こえた。
重臣と取り合いになった時聞いた、人形の腕がちぎれるような音を。
音が聞こえた。
痛みに悲鳴をあげる音を。
音を聞いた。
身体中から聞こえた。


限界まで眼球は開かれ涙は滂沱の如く溢れる。
痛みに跳ねる身体は拘束によって更なる痛みを与えられ。
喉が張り裂けるほど叫んでも痛みは和らぐことなく。


​─────ドロリ....


涙は血涙に
鼻水は鼻血に変わる。
耳と口からは流れるはずがない血が流れ、
身体中がたまらなく熱く、暑くなる。


「UM値上昇。脈拍数上昇。血圧数上昇。酸素飽和度は80切ってます。酸素注入....出血により効果が出ません!停止を」

「停止だ」

「はい、停止します」

「げひゅ....ひゅー、ひゅー、ひゅー」

「脈拍数低下しています。AEDの準備を」

「準備完了」

「げふっ、げふっ.....ごはっ」

「.....脈拍数回復の兆し」

「UM値はどうだ?」

「低下しています」

「バイタルが回復次第すぐにでも再開する。ここからは断続的にスイッチの切り替えを行い身体に慣れさす。随時報告を」

「了解」



雅臣はわけがわからない痛みにガタガタと身体を震わした。服に落ちた赤い体液がとにかく怖い。
自身から流れたであろう赤いソレは酷く不味く、とてもいいものであるとは思えなかった。


「けふっ....しげ、お....み、げふっげふっ....たすけ、て」


片割れに助けを乞う。いつも自分を助けてくれる繁秋と高政はここには居ない。雅臣が助けを求めれるのはもう片割れである重臣しか居なかった。


「スイッチON」

「ぎっ、がぁっ、あぁっっっっっぁああ''あ''ああ''ああああああ''!!」



助けを求める声は絶叫へ。
頭の中は痛みで埋め尽くされる。



どれくらいの時間が経ったのか雅臣には分からないが、拷問とも言える時間は突然終わりを告げた。
やっと家に帰れると安心した雅臣だが、家に帰されることなく、質素な部屋に入れられる。

その事にグズグズと涙が流れたが、部屋に自分以外の人間がいることに気づきハッとした。


「し...げおみ?」


人形が捨てられているみたいに、手足を投げ出した見慣れた小さな身体。それは今にも消え入りそうだった。
未だに痛む身体を引きずりながらなんとか重臣に寄り添う。


「しげおみ、シゲオミ....」

「う、うぅぅっ....かえりたいよぉ、ヒック....ごめんなさい....ごめんなさい.....もぅ...い''だいの....ごめ、ん..な、さ....」

「ぐすっ....」

「い''だい....いだいよぉ。かあざまぁ....うぅぅ」

「う~っ....ひっく、うぇええぇっん」




2人は抱きしめ合いながら涙を流した。















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