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体育祭の後
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しおりを挟むこの学園に来て、1番辛い行事だったかもしれない。
体育祭中は全然そんなこと無かったけど、終わった後が最高に心にきた。
兎君.....彼のせいかな。
「思い返すのやめよう.....」
しんどい。ただでさえ身体が重く感じるのに心まで重くなるとかしんどすぎる。
お風呂入ったのに気分が晴れないままとか....相当ダメージが残っている。ソファに凭れれば一気に疲れが押し寄せてきた。
もう立てないこれ。ここで寝よ。
くてん、と横になったら眠気に瞼が落ちかかる。
────ガチャ.....
「っ!?!?」
微かに聞こえた扉の開く音に飛び起きて、急いで机に置いてあったウィッグと眼鏡を装着した。眠気は吹き飛び、ドクドクと心臓が激しく鼓動する。
会長だろうか?
.....いや、会長はインターホンを鳴らす。
じゃあ誰?
警戒しながら足を忍ばせ玄関へ。
そこには1人の男が壁を背に座り込んでいた。
乱れた髪をそのままに虚ろな瞳は床をじっと見ている。覇気がない。生気も.....
生きているのかさえ僕は疑った。
「お疲れですね。委員長」
「.....そうだな。俺は疲れてる」
「温かいお風呂を用意します。ソファで待っててください」
「.....立てねぇ」
「貴方はいつから子供になったんですか」
と言いつつも、本当に弱ってそうなので手を貸す。いつもなら甘えないでくださいとか言って無視するけど、さすがに今の委員長にそれをするのはダメな気がした。
「寝ずに待っててくださいよ?」
子供に言う言葉だなコレ....と、なんとも言えない気持ちになりながら再度お風呂を用意する。
1人分なため、そこそこな量でお湯はりを止め委員長をお風呂に。
マジで1人じゃ何もする気がないらしく、服を脱がすのも手伝った。だけどボクサーパンツに手をかけた時、僕は我に返り「しっかりしてください!」と叫ぶように委員長の頭をはたき扉を閉めた。
「危ない.....流れで下着まで脱がそうとしてしまった」
.....でも今の委員長は本当に子供みたい。ちゃんとお風呂入れてるかな?心配だ。
ちょっと覗いてみよう。
開けてみると委員長はちゃんとお風呂に入っているようで、ザァザァとシャワーの音が聞こえる。
少し安心しながらも床に散らばった脱ぎ捨てられた服を洗濯機に放り込んで、新しい下着と委員長の寝巻きという名のジャージを用意しとく。
なんで棚に委員長の寝巻きと下着が当たり前のように置いてあるかはもう考えないようにした。
────ガラッ
「.....」
「.....」
「.....ちゃんとお風呂に浸かりましたか?」
「浸かった」
烏の行水並に速かったなぁ。
委員長の身体を見ないようにタオルを渡し、髪を乾かす準備をする。
「ちゃちゃっと着替えてください。髪乾かしますから」
「ん」
ドライヤーのコンセントを挿してっと....
もう着替えたらしい委員長を洗面台前にある椅子に座らせドライヤーのスイッチをON。
「────」
「.....委員長、今なにか言いませんでした?」
ドライヤーのスイッチを切って聞く。風音のせいで聞き取れなかった。
「なにも言ってねぇ」
「そうですか」
何もないならいいんだ。
ーーーーーーーーーーーーーー
ーーーーーーーーーーーー
ーーーーーーーーー
ーーーーーーー
ーーーーー
ーーーー
ーーー
ーー
「ご飯は?」
「食欲ねぇ」
「.....わかりました。ではお話しましょうか」
委員長が3人がけソファに座っているため、僕は1人がけソファに腰掛ける。
だけど無言の圧力というか、不満げなオーラというか....とにかく不服そうに見つめてきたためしょうがなく1人分空けて委員長と同じソファに座り直した。
「俺たちはなんでこんな風になっちまったんだろうな?」
「僕は変わってませんよ。変わったとすれば委員長でしょう?」
「....そうか」
「そうです」
「......体育祭、俺のこと信じてなかったのか?なんでクソ野郎にまでメール送ったんだ」
「どちらかだけど角が立つでしょう?それに2年のケースの在処は委員長だけに教えました」
「なんでもっと早く警告しなかった。哀嶋が怪しいと」
「''疑わしきは罰せよ''の貴方がどう動くか心配だったのです。もし哀嶋君を拘束していたら....無機物を爆弾に変える佐竹先輩の異能が最大限使われていたかもしれません。でもそれは被害が大きくなるのでどうしても避けたかった」
「哀嶋を泳がせたいならそう言えばよかったじゃねぇか。あの吊るす男の時のように....」
「あの時とは状況が違うのです。僕は貴方の副委員長ではなく、そして貴方は精神が不安定な状態だった。哀嶋君の裏切りを伝えて委員長がどう動くか予想がつかなかったんです」
そばに居ればフォローもできたけど、副委員長でない僕にはできなかった。
予め裏切りを言ったら委員長は1人で体育祭を仕切っただろう。でも何度も言うが、今の委員長は不安定だ。彼を1人にするのは心配だったため僕には哀嶋君が必要だった。
だから裏切るならこのタイミングだろうという時に連絡した。
裏切る時までは副委員長として委員長を支える哀嶋君を最大限利用した最善の案。
「...俺は役立たず、か」
「それは違います」
お風呂に入った後だというのに、冷たい手を握る。
「表に参加した1年生はどれだけ心強かったか。誰にも負けたことがないあの委員長が自分たちのチームにいるのです。安心しかないでしょう。その強い安心のおかげで表は勝利したといっても過言ではありません」
その安心感を佐竹先輩に突かれたが、それは置いておく。
「貴方がいたから勝てたんです」
「嘘だ。俺は失態を犯した。ケースをほったらかしにして殺し合いに夢中になった。本当は負けていたはずだ」
「でも結果は1年生の勝利。つまり全ての行動は正しかったのです。勝利とはそういうものでしょう?勝てば全てが肯定される。たとえ卑劣な手を使おうと、無為に人を殺したとしても、友を見捨てたとしても.....勝てば許される。僕はそう思っています」
「....は、はは。そうか」
さっきよりも熱を持った手に握り返され、泣き笑いのような震えた声に伏せていた顔を上げる。
....なんだか久しぶりに委員長の顔を真正面から見た気がする。
ああ、よく見れば酷いクマだ。
いつから寝てないんだろう?
「....疲れた。眠い」
「なら寝たらどうです?」
「お前と寝たい.....」
「どストレートですね」
まぁいいか。
立ち上がり、残りの手を掴み委員長を引っ張り起こす。
そのまま寝室に行けば倒れ込むように2人で寝転ぶ。
「ゆっくり休みましょう」
「ん.....」
「おやすみなさい」
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