狂った世界に中指を立てて笑う

キセイ

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体育祭の後

《side 登坂 章二》

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俺は今、閉会式に居なかった緋賀さんを探すために森を捜索している。


「神崎様に手を出していたらコロス。傷つけていたらコロス。触れていたらコロス.....」

「隣で呪詛吐くのやめろよ。あとお前が緋賀さんに敵意向けたら容赦なくこっちも攻撃するからな」


隣にいるのは咲谷。どうやら会長も居ないらしい。....どうでもいいけど。
一緒にいるのは不本意ながら向かう先が同じという理由だ。本当は一緒に歩きたくない。

だってコイツ、俺が見つけた宝玉を横取りしようとしてきたんだぞ?心臓を狙った刺突を俺は忘れない。

まぁ返り討ちにしてやったが。
.....やっぱ異能の相性って大事なんだなと改めて思った。


「お前の異能のせいでが未だに治りません。そんな状態で風紀委員長に攻撃はできませんよ。....神崎様の足は引っ張れませんからね。嗚呼、忌々しい異能だ」

「褒め言葉と受け取っておくぜ」

「ちっ....」


咲谷の異能は傷は治せても''病''は治せないからな。ざまぁみろ。


「....と、ここら辺のはずだ。最後に銃声が聞こえたらしいのは」


目的地にたどり着く。軽い聞き込みの結果、この辺で多段の銃声を聞いたとのことだ。
他にも冷気を感じたやら、氷の礫が木に刺さっていたやら....会長らしき異能の確認も取れた。


「静かですね」

「会長と緋賀さんが殺し合っていると聞いたが確かに静かだな」


それにしても凄まじい戦闘痕だ。
半ばから折られた木、凍る草木、蜂の巣にされた地、横たわる大木、穴が空いた木々.....凄まじいとしか言いようがない。


「.....ん?」


戦闘痕を眺めていたら一際目につく更地があった。そこに誰か倒れている。それも2人。
警戒しながら恐る恐る近づく。


「緋賀さん....?」

「?.....神崎様!!!」


倒れていた2人の人物は緋賀さんと会長だった。
反応のない緋賀さんに一瞬嫌な想像がよぎるが、すぐに寝ているだけだと気づく。よく見ればいつも刻まれている眉間のシワはなく、穏やかな顔つきだ。


「どうして寝ているんだ?」

「そんなの今はどうでもいいです。さっさとそいつを神崎様の目の届かない場所に移動させなさい」


緋賀さんをそいつ呼ばわりしたことにイラッとするが、会長と鉢合わせにするのもヤバいとわかっているため仕方なく言う通りにする。

....重っ!!

これが緋賀さんの重み!!なんて重いんだ。
起き上がらせることも難しい。すみません緋賀さんっ、少し引き摺ります!!


「.....あ''?」

「ぅお!?――いでででっ!?!?」


緋賀さんを支えていたはずが、気づけば地面に顔を押し付けられていた。腕もちぎれるんじゃないかってくらい痛い。
俺、拘束された!?


「....なんで登坂がここにいやがる」

「そっ....ぁの.....で......」


ぐぅ....緋賀さんと顔を合わすと口が固まる!
俺があたふたしていると緋賀さんは周りを見渡し「そうか....」と1人納得したように呟いた。


「理事長に落とされたのか....俺は。登坂、体育祭はどうなった?....負けたか?」

「い....ぃえ」

「一体誰が....あぁ、1人しかいねぇよな。ふははっ、また俺はしくったのか」


緋賀さん?


「.....一条に会わなきゃ。もう......」



​────無理だ


風に乗って掠れた声が聞こえたような気がした。
でも、首を振って聞き間違いだと思い直す。だって緋賀さんが今までにこんな...こんな、弱々しい言葉を吐いたことなんてないから。

そうだ。

絶対に聞き間違いだ。

寮に向かって歩き出す彼の後を追いながら何度も心の中で反芻する。


「....っ」


目の前にある背中がいつもより小さく見えるのは気のせいだ。
寮へ向かう足取りが頼りなさげに見えるのは気のせいだ。
そう、全ては気のせいなんだ。


落ち着くために緋賀さんから目を逸らそうとして、今日の戦いを思い出した。


『....緋賀さんが誰よりも強いからだ。背負っているものの重さに耐え、血塗られた道を真っ直ぐ歩くのは誰もができることじゃない。俺が緋賀さんの気持ちを推し量るなんて烏滸がましいが、きっと辛いはずだ。1人でそこを歩くのは』


ギリリと食いしばった歯から軋む音が聞こえた。


『俺は緋賀さんを支えたい。少しでもあの人が笑えるように。余計なお世話と言われるかもしれないけど、手伝いたい......俺が緋賀さんを慕う理由は、そばに居る理由はソレだ――』


目を逸らすな俺。いつもの緋賀さんじゃないからって目を逸らすのは違うだろ。目を逸らしたら、それは俺の理想を緋賀さんに押付けているだけになる。理想じゃないから目を逸らしたことになる。


目を逸らすな。
これが緋賀さんだ。緋賀さんの一部なんだ。

しっかりしろ登坂章二!緋賀さんを支えるんだろ!?

震えそうになる足を叱咤して緋賀さんの横に並ぶ。


「か、肩を貸しましょうか....?」

「いらねぇよ」

「そぅ、ですか。辛かったらいつでも言ってくだ、さい」

「.......テメェまともに喋れるじゃねぇか」

「ぁ」


ほんとだ。
いつも緋賀さんを前にすると固まる口が動く。それに、横に並んだというのになんともない。
....なんだ、案外なんてことないんだな。畏れと緊張で訳わかんなくなるかと思ってたけど、普通だ。いや、いつもより視界が開けているような気さえする。
ああ、もっと早く踏み出す勇気を持っていれば....。


「委員長....1人で溜め込まずなんでも言ってください。俺は少しでも貴方の力になりたい....です」

「――急に何言ってんだ。テメェは充分俺様の力になってるだろ」



なら一層貴方の力になれるよう頑張ります。
だから、どうか....1人で苦しまないでください。








《side   end》


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