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第八章 体育祭
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しおりを挟むF-6地点へ向かう委員長の背中を静かに見送る。
完全に委員長が見えなくなると張り詰めいた緊張感が緩み、はぁ...とため息がこぼれた。
「むがむが...!」
「おっと、口を押えてすみません」
僕より高い背を引き寄せていた手と、喋らないよう口を塞いでいた手を離し、弟君を解放する。
「....何すんだよ根暗君。せっかくおれっちが色々とお膳立てしたのに無駄になったじゃねぇか」
「この目を潰された死体の事ですかね?それはすみません。ですが、1年生優勝のために彼には頑張って貰わなければならないので....」
「雅臣との勝負か。おれっちには関係ねぇな」
「まぁまぁそう言わずに。マドレーヌ片手にオセロ勝負でもしましょう。オセロはやったことありますか?」
ちなみにサマ臣君はオセロを知らないと言っていた。だけど最初の1回ボロ負けした後は熟練者ですか?と聞きたくなるような手腕を見せド肝を抜かれた。
もうサマ臣君とはやりたくない。何故か神経がすり減るし、楽しさより気疲れが勝る。
今はサマ臣君の相手をケーキ君に押し付けてここに来ている。奇しくも自由にひとりで動ける時間が出来た訳だが.....まさか弟君に出会うとは。周辺に彷徨うカタラが居ないか見回りに来ただけなのに。
「おせろ??なにそれ」
「教えますよ。さぁ行きましょう」
よしよし。これで1年の優勝は絶対だ。
僕にとってこの体育祭、表とか裏の勝敗はどうでもよかった。重要なのは『開催時間は13:00~』『勝敗は閉会式にて決まり、多くの宝玉を得た方が勝利』というルール。
終了時間が詳しく書かれていないことと、勝敗を閉会式で決めるという点から、真面目に表と裏を攻略するのが馬鹿らしく思えた。
結局、閉会式で勝敗を決める。
なら閉会式直前に奪えばいいのだ。
そのための裏だけに設置された宝玉置き場。
.....あぁ、表の溶ける宝玉というのはケースに置かなければいけないという強制装置か。ケースが冷えていたのはそのため。
このルールの本質を理解している鎖真那双子が抜けた今、1年の宝玉が入ったケースを狙う人間はそう居ない。それにこちらは会長と委員長が1年のケースに気を配っているため奪われることはまず無い....はず。
うん、様子のおかしかった哀嶋君に気をつけていれば問題なく勝てる。会長と委員長に哀嶋君への警戒と2年のケースの場所を念の為教えたし、僕は鎖真那双子を足止めして、大人しく閉会式に向かおう。
....いや、さっきの委員長の様子からして問題が起きたっぽいな。ここは少し保険をかけておこう。
えーっと、メールメール.....よし!
「なぁなぁ根暗君」
「なんですか?」
「''ヤト''って誰か知ってる?」
「知らないですね」
「脈絡もなく''ヤト''とか言うからビビったわ。その時の緋賀ちゃんすっげぇイッちゃってたし.....目がヤバかった」
「ヤバそうでしたね」
「おれっちは緋賀ちゃんが湊都を気に入ってると思ってたけど全然違った。じゃあ湊都じゃなくて根暗君を標的にすれば良かったのかとも思ったけど、それも違う」
聞き捨てならないこと言わなかった?
僕を標的って.....やめてよ。
「緋賀ちゃんの根っこは''ヤト''にあるんだ」
「なら探したらどうです?そうすれば僕のこと標的にするとか言わなくなるでしょうし」
「いひひひw自分のためなら他人がどうなってもいいとか....いい性格してんなァ?」
「当たり前でしょう。誰だって自分が1番ですから」
「.....んあ?今の言葉昔誰か言ってたなような――誰だっけ」
「そんなの知るわけないじゃないですか。さ、行きましょう。オセロやるんでしょ?」
「やる」
これで弟君の意識は逸らせたかな?
弥斗を探しても弥斗はもう居ないし、弥斗を探している間は僕は安全。
うん、弟君の興味が弥斗に向いてくれて良かった。
それにしても.....
チビちゃんといい、ヒナちゃんといい
性格変わりすぎじゃない??別人格と言われても納得できるほどだよ。
クロウちゃんだけだったなぁ。
出会ってホッとしたのは。
だって彼だけは昔のまんまなんだもん。
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