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第八章 体育祭
《side 表》
しおりを挟む1年生待機所は最悪の空気に包まれていた。その空気のせいで、人が寄り付かず待機所には二人しかいない。
最悪の空気を作っているのは表のトップである永利であり、その視線は隣に座る湊都に向けられている。
「おい。何があった」
騎馬戦には負けた。だが、負けて宝玉を逃したことに対してキレているわけではない。
問題は負け方だった。
全力を尽くして負けたのなら文句は言わない。相手が己の部下なら話は違ってくるが、今は違うため置いておく。
負け方。
永利が出場した騎馬戦はまともに戦うことなく負けたのだ。それは許されることでは無い。
そのためまともに戦わなかった、戦犯とも言える湊都を問い詰めるのは自然と言えよう。永利だけでなく、他の1年も納得がいかないのだから。
「テメェは自分で騎馬戦の大将を希望した。のくせして、無抵抗でハチマキ取られるのは....違ぇんじゃねぇのか?」
怒りを抑えるように一拍置き、ため息を吐けば目の前の小さな肩が跳ねる。
「理由があるならちゃんと言え。脅されたか?取引をもちかけられたか?」
「....」
「どんなくだらない理由でもいい。とにかく話せ。じゃねぇとフォローもできねぇ」
「.....」
湊都は固く口を閉ざしている。彼と親しい友人でもその口を開かせることはできなかった。
宝玉を裏に届けに行ってから湊都はどこか虚ろだ。
「んだよ全く....あ?」
そこで永利はふと気づく。湊都の右手が微かに震えていることに。それを見て何かあったんだと確信した永利は落ち着かせようと、震える右手を握る。
「っ、触るな!!」
しかし握ると同時に振り払われた。いい加減キレそうな永利はすぐにまた右手を握り込む。やっと目が合ったヴァイオレット色の瞳は涙が今にも溢れそうだった。
「お、俺に触っちゃダメだ!俺は汚れてるっ。人を、人を....うっ、あぁ''、おれ''は!!」
手を離せと、いやいや頭を振る湊都に永利は舌打ちをした。ここまで真っ白だと感動を通り越して腹立たしさを抱いてしまうと内心吐き捨てる。
自分にはなかった。人を殺して罪に苛まれるということが。
「馬鹿野郎!そんなことを言ったら俺様の手は汚れきってることになるだろうが!とりあえず落ち着け....!」
「感触が手に残ってるんだ!目に焼き付いて離れないんだ!匂いが、表情が....う''ぅっ、ひっ、ひっ、.....かはっ、けほっ....」
「ゆっくり息を吐け。窒息死するぞ」
背を撫でて落ち着かせる。その間も握った右手は離さない。もう永利の手を振り払う力がないのか、湊都の抵抗はなかった。
湊都が落ち着きを見せると、永利は言葉を濁すことなく聞いた。
「誰にやられた?」
「ふっ、ぁ......い、いやだ。もう名前も言いたくない。思い出したくない」
「.....なら言わなくていい。だが、これだけは答えろ。魂写棒はどこに置いてきた?」
「っ、」
顔色を青くした湊都に馬鹿野郎と怒鳴りつけたくなった。仮にもザントならば自身の写し身である魂写棒を手放してはいけない。そんなのサナートである永利も知っていることだ。
「俺様が取ってきてやる。言え、どこにある?それとも''誰が持ってる?''と聞いた方がいいか?」
「.....A-3地点らへん」
「テメェはここに居ろ。取ってきてやる」
「あ、ごめん.........ありがとう」
「俺様の部下ならシャキッとしろ。一般生徒を引っ張っていけ。今はそれどころじゃねぇかもしれないが、虚勢を張れ。敵に弱みを見せるな。周りを不安にさせるな。全てが終わって、1人になったら泣け、喚け、吐き出せ。........テメェならできるだろ?」
「....っ、――おう!!な、永利の留守は俺が守る!!」
下手くそな笑顔で、震えた声で、湊都は永利に向き合う。
そんな湊都の姿に永利は「よく言った」と笑い、元気の無いアホ毛が目立つ頭をわしゃわしゃとひと撫ですると待機所から出て行った。
「哀嶋....」
「はい」
「あとは頼んだ」
「任せてください」
永利は裏の舞台である森にへと足を向ける。
《side end》
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