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第八章 体育祭
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しおりを挟む「本当に考えること邪悪だよな。自分を慕ってくれる田噛を容赦なく敵陣に突き飛ばすなんて」
「やだなぁ。突き飛ばしてなんかいないですよ。彼は自分から敵の懐に入って行ったんです。緊張もなく、純粋な気持ちで、散歩でも行くように敵陣を歩くなんて.....Mr.ウマシカらしいじゃないですか。彼のああいう所が警戒されず懐に入れるんでしょうね」
「それを利用して薬入りのクッキーをばら撒かせた悪人は誰なんだろうなぁ~?」
「僕だって2年生にクッキーが渡るなんて思いもしませんでしたよ。Mr.ウマシカの自慢癖を利用してサマ臣君とその弟君だけをターゲットにしたのに。Mr.ウマシカは何したんですかね?」
怒りの声の主達に気づかれないようそっと近づき話を盗み聞けば、『チョコチップクッキー』『一年』『坊主頭』と思い当たる言葉ばかり出てきた。
それでも、どうしてクッキーが2年生に渡ったのか分からなかったため退散。またこうやってピクニックに興じている。
「俺はどうやってそんなヤバい薬を手に入れたか気になるな。そうそう手に入るもんじゃないだろ。実家から取り寄せたって言ってたが.....」
「黙秘権を行使します」
「はっはー、じゃあこのサンドイッチは俺が食う」
「あーっ、待ってください!僕の家はあっち系なんですよ…!察してください!」
「わかるか!あっち系ってなんだよ!?」
「頬に傷があるような家です」
「は、お前が?」
「正確に言うと、野垂れ死にかけてた僕を拾ってくれたのが親父さんだったんです。本当はついて行く気はなかったんですが、運命というか.....神のイタズラというか....成り行きで、ね」
あの日のことを思い出すと、この世界に神は居るのかもしれないと思ってしまうからあまり思い出したくない。
「さ、話しましたよ。サンドイッチください。僕はピクニックを楽しみして昼抜いてきたんですからね。あまり意地悪しないでください」
「.....お前が本当に家の事話すとは思わなかった。いつもみたいにはぐらかすか、適当なことを言うかと思ってた」
渡されたサンドイッチにかぶりつけば、そんなことを言われた。
「この数ヶ月で''君のことを理解した''とまでは言いませんが、信頼に足りる人だとは思っています。僕の素顔、性格、異能、家族関係.....これだけ詳しく知ってるのはケーキ君だけですよ」
「なら信頼の証に教えてくれたってことかよ....」
急にそっぽを向いたケーキ君を盗み見る。
左サイドの髪を耳にかけているため真っ赤になった耳が丸見えだった。照れるなんて可愛いとこあるじゃんケーキ君。
でも――
「ケーキ君、照れてるとこ悪いんですが.....僕の信頼は重いですよ」
この信頼だって、君が訳ありだから寄せることができるものだ。僕は性格が悪いから、ひねくれてるから、人間不信だから....同じような人間にしか心を開けない。
「君の過去も企みも何も聞かず助けましょう、喜んで利用されましょう。ですがその代わり――信頼の返しとして僕の友達になってください」
「.....お前にとっての友達って?」
「命です。僕のために命をかけてくれる方が僕の友達です」
「ならもう友達だろ。俺はお前の作戦を信じて既に1回命を懸けてる」
ああ、交流会のことだね。君が命を懸けて戦闘狂に向かっていった。
それにしても、悪い顔をするねぇケーキ君。普通、命懸けろとか言われたらドン引くくらいするのに。
....不敵に笑う君はとても頼もしい。
「今更友達になってくださいだぁ?燈弥の中では俺はとっくに友達の括りに入ってるだろ。それをわざわざ言質とるために信頼なんて言葉まで持ち出してよ.....ひねくれてんな」
「知ってますそんなこと。それで....答えは?」
ケーキ君に右手を差し出す。
この手を取るかどうか。さて?
「俺達は一蓮托生だな....」
彼は僕の手を取った。ハニカミながら、照れくさそうに。それを....手のひらに置かれた温かな体温を握るように、僕は手を掴む。
「ケーキ君、僕の手を取ったからには……もう逃がしません。堕ちるときは一緒です」
「っ、おう」
また顔を真っ赤にして....今のに照れる要素あった?
「じゃあ気を取り直してピクニックといきましょう。このバーガーは照り焼きですか?」
「......辺りうろつくカタラ狩ってくる」
「ん?わかりました」
あ、照り焼きだコレ。どうやって作るの照り焼き。ケーキ君凄すぎでしょ。
「めちゃ美味そうだな。オレにもくれよ」
「モグモグ.....んぶっ!?!?ごほッ、ごほッ、けほ!ちょ、急に現れるのやめてくれません!?ゴホッ.....口から出そうだったんですが!!」
気を抜いてた僕も悪いけど、幽霊のように現れるサマ臣君も悪い!バーガーが変なところに入った。
「なんで君がここに?ケーキ君はどうしたんですか」
「あいつなら1人で悶えてたぞ」
何やってるんだケーキ君。
というか1番気になるのは....
「なんでピンピンしてるんです?Mr.ウマシカに差し上げたチョコチップクッキー食べてないんですか?」
「食べたぞ。美味かった」
「ちっ....昇級試験でのあの情報は嘘でしたか。なにが''食事は気をつけてる''ですか。耐性あるならクッキーなんて作らなかったのに」
「!!」
隣で胡座をかくサマ臣君がニカッと男臭く笑った。それはもう嬉しそうに。
うん、ちょっとイラッとした。
「つまりオレのために作ったもんか!なんだよっ、茂に渡すなんて回りくどい方法取らず直接渡せよ!オレは喜んで受け取ったぞ」
「え、僕を煽ってます??君に効かないと知った後にそれを聞くと煽ってるようにしか聞こえないんですが?」
まともに相手するとこっちがダメージ食らうなぁと思いながら、最後の一口である照り焼きバーガーを口に放る。
.....はぁ、サマ臣君の登場に驚いて右手がタレでベタベタだ。
手を拭こうと、ウエットティッシュを探す。
しかし、ぬっと伸ばされた手に右手を掴まれた。
「ん、ウマ」
「????」
熱い粘膜に包まれる感触に、思考が止まった。
見せつけるように指先を舐るサマ臣君がとても....とても卑猥に見えて、全身の産毛が逆立ったように全身に震えが走る。
「ひ、サマ臣君!!」
「んで?どうやってオレなしでこの体育祭勝つんだ?」
彼は綺麗にタレを舐めとると、手を離してくれた。秒でウエットティッシュを召喚し、念入りに拭う。
....ケーキ君帰ってきてくれないかな?
最近――というか、昇級試験後のサマ臣君の行動全てが恐ろしい。振り回されている気がしてならない。
「.....ゴホン。それは秘密です」
「自信はあんのか?宝玉探さず、こんなとこで飯食ってよ」
「表の競技とか、裏の争奪戦とか....どうでもいいんですよ。僕は今回誰とも戦う気はありません」
「へぇ?」
「ほら、さっさと行ってください。僕の勝利を拒むんでしょう?頑張って宝玉を探してください」
「ここに居る。燈弥を見とくのが1番いい方法だろ」
.......ケーキ君ーーーーー!!!!
助けてぇぇぇぇぇぇぇっ!!!!
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