197 / 344
第八章 体育祭
《side 登坂 章二》
しおりを挟む風紀1年唯一の裏参加者である俺は生徒会の奴らに出会わないよう慎重に宝玉を探していた。
燈弥から生徒会の持ち場を聞いていたため、出会うことは早々ないはずだが.....
────ガサッ
「.......」
「.......」
「.......あら?」
うーわ、まじかよ。
燈弥絶対に嘘の情報を教えただろ。書記の咲谷と鉢合わせたんだが??
それに、書記だけでなく元書記の間取 小織先輩とも鉢合わせるとかどうなってんだ。
会長信者と信者製造機を同時に相手取るとか俺には荷が重すぎる。
「ふっ.....狂犬と信者製造機と出会うなんて。おや?いつも周りに侍らせている信者共はどうしました?」
「.....クッキー食べたとかなんかで動けなくなったのよねぇ。本当に意味がわからないわ」
「そうですか、まぁどうでもいいです。....嗚呼、私はなんて運がいいんでしょう。お前らを消せばきっと神崎様はお喜びになります。さぁ死ね。今すぐ死ね。とっと死ね。死んでください」
ニコリともせず、冷ややかな目で咲谷は言う。
「そんな酷いこと言っちゃだめよ」
そんな咲谷に頬を膨らませ注意したのは間取先輩。高校生にもなって頬を膨らますとかドン引きものだが、顔が良いせいで不快感がない。
薄いプラチナブロンド色の髪を肩口で切り揃え、銀縁メガネをかけている間取先輩の真っ直ぐ咲谷を見つめる瞳は桃色で、見た目は清楚美人。
咲谷といい、間取先輩といい.....美人系の顔のヤツはどうしてこうも性格に難があるやつばかりなんだ?
「咲谷君。神崎 竜一のために戦うんじゃなくて、綱吉君のために戦わない?綱吉君ならあなたの心を必ず満たしてくれるわよ」
「黙りなさい」
「あんな非人間的なのに....神崎のどこに魅力があるのかしら?アタシにはさっぱり分からないわ」
「あの方は誰よりも人間らしく、とても美しい。それを理解できない奴らは死ねばいい。───始動『静治妖華』」
っ、始動しやがった。本当にこいつは話通じねぇな!!
咲谷の視線は間取に向いているが、こっちに向かないとは限らない。距離を置こう。
魂写棒『静治妖華』
咲谷の魂写棒は有名だ。漢剣....両刃の剣で剣首から長さ15cm程の剣穂が垂れている。が、剣穂と言うには穂の部分が球体のようになっていて、まるで紐にスーパーボールがついているみたいだ。
最初は球体部分を掴み、剣を投げたり、振り回したりするのかと思っていたが.....そんな可愛い使い方じゃなかった。思い出すだけで恐ろしい。
「もう、せっかちね。あなたもそう思わない?登坂君」
「!?」
話振るなよ馬鹿っ。このままこいつら相打ちさせて宝玉探しに行こうと思ってたのに!
「うふふふ。逃がさないわよォ~。それぞれご主人様を純粋に慕う忠臣が集まるなんて滅多にないじゃない。ここは野蛮なことなんてせず、語り合いましょう?愛しきご主人様について。アタシは聞きたいわぁ....あなた達がどうして彼らを主人と認めたのか。だって、どう見てもクズと愚か者にしか見えないもの」
「「あ''?」」
今こいつなんて言った?
聞き間違いじゃなければ、緋賀さんを侮辱する言葉を言ってなかったか?
「あら....聞こえなかったかしら。会長はクズで風紀委員長は愚か者って言ったのよ」
「「ぶっ殺す....!!」」
「うふふふ♡さぁみんなで語り合いましょう!そこで教えてあげる。綱吉君の素晴らしさを。あなた達が慕う人間が慕うに値しないということを。───始動『ヴォイス』」
間取の指輪から拡声器が顕現した。
俺も無手でいるわけにはいかないから始動する。
「始動『犬歯』」
両手に手甲鉤に似た武器が顕現する。だが手甲鉤より小さく、指にはめ拳を握ると指の隙間から爪が覗く。....確か正式名称はバグ・ナウ。
「珍しい形の異能ね。初めて見たわ」
「そりゃどーも。しっ....!!」
距離を詰め殴り掛かればヒラリと避けられる。間取は俺と咲谷から一定の距離をとると、拡声器を通し聞いてきた。
「あなた達はどうして彼らを妄信的に慕うの?」
「ふん、神崎様は完璧なお方です。あの方以上に完璧な方は居ない。だから私はついてゆくのです」
「ぶふっww」
おっといけねぇ。笑っちまった。でもしょうがないだろ。あの会長が完璧?緋賀さんへの態度を見たらとてもそうは思えない。
「お前、今笑いましたね?」
「俺の思う完璧とお前の思う完璧は違うようだな。緋賀さんにちょっかいかける姿は完璧から程遠いと思うんだが?」
「はっ、先にちょっかいをかけているのはそちらでしょう?神崎様は仕方なく、子供の癇癪の相手をしているだけです。とてもお優しいですね」
「子供の癇癪だと!?」
「うふふ。仲間割れかしら?ねぇ聞かせてちょうだい。咲谷君にとって完璧は何を示すの?」
斬りかかってきた咲谷の腹を蹴りつけ、後ろへ下がる。俺が会長を笑ったことで三つ巴になってしまったようだ。
でも笑わずにはいられなかった。怒らずにはいられなかった。
緋賀さんを苦しめている神崎 竜一が完璧など許せるわけがない。認められるわけが無い。
「私にとっての完璧とは誰よりも人間らしいことです。――答えたので、こちらからも一つ。佐竹と緋賀....慕う理由を教えてください」
「....緋賀さんが誰よりも強いからだ。背負っているものの重さに耐え、血塗られた道を真っ直ぐ歩くのは誰もができることじゃない。俺が緋賀さんの気持ちを推し量るなんて烏滸がましいが、きっと辛いはずだ。1人でそこを歩くのは」
緋賀さんは覚えていないだろうが、俺達は幼い頃出会っている。俺の友人とその家族を粛清する小さな背中は今も色濃く記憶に存在する。
彼は言った。
たとえ肉親だろうとこの手で殺すと。
俺と同い年なのに先を生きているような遠い目。緋賀がどういう家なのか聞かされていたが、間近に見て肌で感じた。その生き方の凄まじさを、孤独を、強さを。
「俺は緋賀さんを支えたい。少しでもあの人が笑えるように。余計なお世話と言われるかもしれないけど、手伝いたい......俺が緋賀さんを慕う理由は、そばに居る理由はソレだ。そっちはどうなんだよ?」
俺の話をムカつく顔で聞いていた間取に話をふると同時に蹴りを入れる。瞬間、横合いから鋭い突きが繰り出されたため、カスピドで上に弾く。
うざいな咲谷。
「素敵なお話ありがとう登坂君。最後はアタシね。綱吉君は.....神崎より頭が回って、緋賀より残酷なの。無邪気な子供のように蝶の羽を毟っては踏み潰す。うふふふっ。彼のその時の笑顔は身震いするほど純粋で、邪悪!」
拡声器越しから聞く声は興奮にしっとり濡れているようで、気色悪い。顔はお綺麗なのに本当に残念な男だ。
「彼の傍はとても刺激的。とても褒められるようなことはしていないけど、確かにアタシの欲しいものをくれた。救われたの。アタシが綱吉君のそばに居るのはその恩返し」
「.....この会話に意味は無いですね。結局は自身の信じる『あるじ』が1番なんですから」
「そーでもないわよ。あなた達の純粋で真摯な思い.....アタシが使わせてもらうわ」
「「!!」」
馴れ馴れしいとも思わせる柔らかな笑みは冷笑に、俺たちに向けられていた好意を宿した瞳は嫌悪へと、間取の雰囲気がガラリと変わる。
「咲谷君、あなたの言ったことは半分正解でもあるの。そう.....結局は自身が信じる人こそが至上。───だからあなた達目障りなの。自分と同等か、それ以上に献身を捧げるその姿は、アタシが綱吉君にかける思い以上の熱量を持っているように見えて....不快」
俺と咲谷は同時に駆け出し、間取に斬りかかろうとする。
だが――
「止まってちょうだい」
なんの抑止力も無いただの言葉のはずなのに、俺達の身体は時が止まったかのように固まった。
《side end》
応援ありがとうございます!
10
お気に入りに追加
346
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる