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第八章 体育祭
《side 1年表》
しおりを挟む「なぁなぁ!今の見たか!?俺の華麗なる1等賞っ」
「ああ」
「最初はドベで、最後にごぼう抜き!自分でもびっくりした~!」
「ああ」
「これは宝玉間違いなしだなっ。このあと走る芙幸と清継も1位だろうし」
「ああ」
「あっ、俺次に出る競技まで時間あるから裏で宝玉探ししようと思って――」
湊都の止まる事のない話に永利は聞いているのか聞いていないのか判断できない相槌を打つ。
その真っ赤な瞳は競技が行われているグラウンド中央には向いておらず、その向こう側....つまり2年生待機場所に向けられていた。
(どういうことだ。なんで佐竹綱吉と真田光秀の2人が表に居る?)
視線先に居るのは元生徒会トップ2。真田は分かるが、表に居るはずのない男が腹を抱え笑っているのは舌打ちしたくなるくらい予想外のことだった。
「.....つまり裏は会計と書記か」
「ん?どうしたんだ?」
「なんでもない。......楽しいか?湊都」
「めっちゃ楽しい!この学園で健全な体育祭できるなんて思ってもみなかったから倍楽しい」
「そりゃよかった。もっと楽しめ」
「おうっ」
純粋な笑顔。真っ直ぐな視線で永利を見つめ嬉しそうに破顔する。そんな湊都の笑顔に永利は眩しそうに瞳を細め、自身より低い位置にある頭を撫でる。
フワフワと触り心地のいい黒髪を堪能していると、こぼれ落ちそうなほど見開かれたヴァイオレット色の瞳と視線が交わった。
「~っ、俺芙幸達に会ってくる!!」
飛び出すように駆けて行く小さな背中は呼び止める間もなく人混みに消えて行く。
永利は感情の抜け落ちた表情でそれを暫く見つめた後、また視線を佐竹と真田に戻す。
「緋賀」
「なんでテメェがここに居る」
そんな永利に声をかけたのは裏に出場中であるはずの骨喰恭弥。突然現れたかのような声のかけ方だったが、特に驚くこともなく永利は悪態をつく。
恭弥は永利の態度に苦笑うと、宝玉置き場の台座について情報を共有した。
「めんどくせぇな。....まぁいい。そういうルールなら従うまでだ。信用できる人間に運ばせる」
「頼む。───爆弾魔と真田は表か。予想と違ったな」
「ほぉ?テメェが呼び捨てとは随分と嫌ってるな」
「一条を傷つけた奴らだ。俺が敬称をつけるわけないだろう?」
「.....」
嫌なことを思い出したという顔をした永利は話を変えるように不機嫌そうに言う。
「予想が違うと軽く言ってるが作戦はどうなんだよ。そっちは佐竹が居る前提で考えてんだろ」
「最終的にはどういう状況になっても対応出来るようになっている。抜かりはない」
「はっ、期待はしねぇよ。こっちで宝玉を6つ獲っちまえばいいんだからな。.....宝玉は哀嶋と兎道に運ばせる。間違えて攻撃すんなよ?」
「兎道.....?平の風紀委員か」
「ああ。アホ毛立たせたちっこいのだ」
「ちっこいの.....了解。竜一に伝えておく」
「俺様の前でそいつの名前を出すな。いくらお前でも手を出すぞ」
殺気纏う赤い瞳が恭弥を貫く。
それでも恭弥は臆することなく、なんなら呆れたようにため息をつき永利に背を向けた。
「健闘を祈る」
「ふん....」
「永利ーーー!!」
恭弥と入れ替わるように永利の元へ湊都が駆け寄ってきた。どこか焦っているような面持ちで、手には神秘を思わせる透明の宝玉が抱かれている。
友人に会いに行ったというのに、徒競走総合1位の証である宝玉をわざわざ持ち帰ってきたようだ。
「よくやった」
「うへへへ!俺達1年の初勝利の証だ...じゃなくてっ!大変だ永利っ」
笑顔から一変、また焦った表情に戻る。よく見ろとでも言うように目の前に差し出された透明の宝玉。しかし永利の目からして特に異変はないように思えた。
「なんだ?」
「渡されたとき『早くケースに入れることをオススメする』って言われた。んで、勘違いじゃなければちょっと溶けてるような気がする....」
「溶ける?そういや骨喰がケースは冷えていたとか言ってたな.....」
溶ける宝石なんてあるのだろうか?と疑問に思うも、そんなことはどうでもいいかとすぐに切り捨てる。問題は獲得した宝玉をケースにいち早く仕舞わなければいけないということだ。
「今すぐに宝玉を届けに行け。多分まだ近くに骨喰――副会長が居るはずだ」
「わかった!」
永利に地図を渡された湊都は宝玉を大事そうに抱え、また走り去っていった。
「ケースに入れなきゃ溶ける宝玉、1箇所に集める、裏の会場、奪い合い.....そういう事か」
めんどくせぇと思っていた''宝玉を1箇所に保管するルール''が思ったよりも数段上を行く面倒臭いルールだということに永利は気づいた。
なんでわざわざ位置指定してまで宝玉を1箇所に集めるのか?表は表で管理すればいい。体育祭終了間際に裏の会場に持って行けばいいじゃないか。
確かにそう思っていた。
だが、蓋を開けてみればどうだろう?
「....宝玉を得たからといって勝ち誇るのは早いってか。表に裏のルール持ち込んでんじゃねぇよクソが」
表で得た宝玉を奪ってはいけないといルールはない。さらに宝玉はケースに入れなければ溶けるという仕様。こんなの裏へ運ぶ途中どうぞ奪ってくださいと、宝玉を表でキープするなと言っているようなものだ。
湊都1人に運ぶのを任せてよかったものかと席を立ち上がりかけたが、あいつなら大丈夫かと思い直す。
1番安全なのは永利自身が届けに行くことだが....
(ありえねぇな)
永利が竜一に宝玉を届けるなんて有り得ない。届けに来させるならまだしも、こちらから竜一に届けに行くというのは考えられない行動だ。
それに佐竹という不安要素もある。目を離すことは出来ない。
つまり今現状、永利はこの場から迂闊に動けない状態にいるわけになる。
「委員長、顔が怖いですよ」
「哀嶋か.....こんなにも行動が制限されりゃ俺様の機嫌だって悪くなるさ。話は変わるが、お前には宝玉を獲得次第裏に運んでもらう。ちなみに拒否権はねぇ」
「ルール追加ですか、めんどくさいですね。わかりました。では委員長がなんの競技に出るかお聞きしてもいいですか?委員長が居ない時間は私が彼らを見張ってなければならないので。.....タイミング次第では違う方に運ぶのを任せることになりますね」
「.....騎馬戦だ」
「騎馬戦!?......まさか上ですか?」
「俺様の体格からして上は無理だろ。湊都に誘われたんだよ....人数足りねぇから下頼むって」
「なんてこと頼むんですかあの子は.....ゴホン!騎馬戦でしたら始まるまで時間があるので運搬に間に合いますね」
これ以上この会話は嫌ですとでも言うように会話を切り上げた紗里斗は永利と同じように2年待機場所に視線を向けた。
《side end》
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