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ちょい話

懲罰棟

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「神谷先生!!こっちこっち急いで!!」

「兎道君、急いでも怪我人は逃げないよ」

「怪我人は逃げねぇけど命は逃げてくんだよ!」

「おお、君上手いね!」

「なにが!?」


神谷の手を引きながら湊都は懲罰棟への道を走っていた。
約束を果たすために。


『あとで必ず戻ってくる』


牢の中で''助けて''と言った生徒に湊都は言った。いや、誓った。

既にシリアルキラーを逃がした戦犯の身ではあるが、約束は守らなければいけない。
だから来た。


「おい!お前っ、生きてるか!?」


目当ての牢の鉄格子越しから呼びかけるも反応はない。
慌てて牢を開けるカードキーを通し、中に入る。


「先生早く!!」

「はいはい、兎道君ちょっと外に出ててね。ああ見ちゃダメだよ?」

「わかった」


疑問に思ったが、瀕死の彼の状態からして時間を争うと察し素直に湊都は牢から出た。

びちょびちょ、タプ.....タプ.....

異様な音を聞きながらも待つこと5分。


「.....もういいよ」

「~ありがとう先生!!」

「ふぅ....私は美青年の容態を見れて満足だからお礼はいいよ。こちらこそいいもの見せてくれてありがとうと逆にお礼を言いたいくらいだ」

「??」

「あぁ、気にしないで。――それで、君はいいのかい?勝手にカードキーなんて持ち出して。つい先日シリアルキラーを逃してしまったばかりじゃないか。懲りてないの?」


神谷の言葉に湊都は快活に笑った。


「懲りたよ。だけど、こんな怪我人を放っておくことはできないし、何より約束したんだ。助けるって」

「....その結果逃げられても?」

「逃がさねぇ。もう学習したから」


湊都は手に持つ片手剣を見つめる。治療された生徒が突然襲いかかってもいいように予め始動して警戒していたのだ。


「なるほど。頼もしいね」


シェイカーを片手に湊都は横たわる生徒に近づく。神谷の異能によって切り傷など綺麗さっぱり消えていたが、なぜか左目を覆うように顔に包帯が巻かれていた。


「先生、なんで治さねぇの?」

「彼はこれでいいんだ。そこまで治しちゃうと兎道君がただじゃすまなくなるから。怒られるどころか牢送りされるかも」

「なんで!?」

「うーん。君は行動する前に情報を集めることをした方がいいよ。シリアルキラーを逃がしたことで知っただろう?情報の大切さに」

「.....う、わかった。後で調べる」

「それがいい。じゃあ私の役目は終わったから帰るね。ちゃんとカードキー返すんだよ?」

「先生、本当にありがとう」


最後ににこりと笑った神谷はその場から去って行った。残された湊都はじっと生徒を見下ろす。
改めて彼を見ると息を飲むほど綺麗な顔をしていることに気づいた。髪は血で汚れていたが、それを除いても彼の美は損なわれていない。

目を閉じている姿は精巧な人形のようだ。


「......ぅ、ん.....?」

「起きたか!?」


その時ちょうど生徒が目を覚ました。蜂蜜色の右目と視線が合う。


「君は.....っ、ぁ身体が痛くない!?」

「おう。神谷先生に治療してもらったからな!」

「あ、ありがとう!!ありがとうっ.....まさか本当に助けてもらえるなんて」

「当たり前だろ。見捨てるなんて....出来るわけねぇよ」

「うぅっ、よかった......我慢の限界だったから、ああよかったっ」

「我慢....?」

「いや!なんでもないよ!!」

「??」

「アハハ、えーっと、ボクは2年の眞中 薫まなか かおる!薫でいいよ」

「2年生だったんすか....俺は兎道 湊都。湊都でいいっすよ」

「湊都....本当にありがとう。あ、口調変えなくていいから、喋りやすいように喋って」

「わかった。....『ありがとう』つっても俺ができるのは怪我の治療だけだ。ここから出すことはできない」

「十分だよ……後はボク次第だから」


そう言って薫は思案するように包帯によって隠れた左目を撫でた。


「左目痛むのか?神谷先生に''そこ''だけは治療できないって言われたから....」

「まぁそうだろうね。君は1年生だし知らないのは無理もない.....ねぇねぇ、君以外にも懲罰棟を担当してる1年生は居るの?」


変な質問に湊都は警戒する。人の良さそうな言動をしているが薫は懲罰棟に入れられるだけのことをしたのだ。気を許すことはしない。もうシリアルキラーを逃がしたような失態は犯せないのだ。


「さぁ、それは知らねぇ......治療したからもう行くな。ちゃんと改心するんだぞ」

「......ありがとう。この恩は必ず返すから」


優しく細められた蜂蜜色の瞳に動揺する。人は見かけによらないというのは湊都がこの学園に来て学んだことの一つだ。
人を殺しているように見えない葉谷 真澄が首吊り死体を量産している吊るす男だったり、慕っていた紫蛇や黄犀が薫にした酷い行動だったり。

まともそうに見えて、いい人そうに見えて
その実普通じゃない。


でも、逆もあるんじゃないだろうかと湊都は思った。

怖そうに見えるのに、イカれて見えるのに
その実、誰よりも優しかったり。

本当は優しいのに独裁者と恐れられている永利みたいに、この目の前の美しい人も誤解されているんじゃないだろうか?と疑問を抱いてしまう。



(.....たとえ薫が悪いことをしてないなら、直ぐに出られるはずだ。早まるな俺)


自分の行動が正しいと信じて湊都は懲罰棟を後にした。












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