上 下
177 / 378
第七章 夏休み☆

11

しおりを挟む




「燈弥君!荷物の移動手伝うで!」

「ありがとう。じゃあこの荷物を410に持っていって」

「わかった!410.....410?燈弥君何言うとん?僕の部屋は804やで?」

「誰が変態の部屋に泊まると言った?」

「えぇ!!なんで!?僕の部屋の方が広いで?4人部屋なんか窮屈やろ。まぁ僕んとこ今犬飼っとるから、少し狭なっとるけど。で、でも犬預けるから部屋の狭さは解消できる!!それに大事なんは僕が燈弥君の素を知っとるいうことや。のびのび過ごせるで?」


ここって犬飼えるんだね。まぁたとえ犬が居ても居なくても泊まらないけど。
まず.....


「――君がいる時点でのびのび出来ないから。.....ん?君は成績上位者なの?」


そう聞けば残念そうな顔から一転、彼は口元をニヤつかせた。


「そやで!」

「へぇ....でも、決めたことだから。君の部屋には泊まらない」

「なんでやぁぁぁぁぁ.....!」


ちなみにケーキ君は了承済み。話がわかる友人がいて僕は嬉しい。メールでは結構やりとりしてるけど会うのは久しぶりな感じがするし、いい機会だ。

嘆く糸目キャベツの変態を一瞥し、僕は荷物を持って古巣に戻った。



「1週間よろしくねケーキ君」

「おぅ、近況報告よろしく」

「.....ははっ(乾いた笑い)」


懐かしい4人部屋。
あーあ、入学式の頃に戻りたい。


「文貴も湊都もお前が来んの楽しみにしてたぜ」

「伝えるの早いですねケーキ君。つい30分ほど前のことですが?」

「30分もありゃ伝わるだろ」

「それもそうですか。.....3人とも寮に残ってるんですね?帰省しないんです?」

「本当は帰りたくねぇらしいけど文貴は後半に帰るってよ。......湊都は『子離れさせる!』って言ってたから帰らねぇんじゃね?」

「あははは。兎君の親、なんだか想像つきましたよ」

「はっ、だろ?俺も笑っちまった」

「それでケーキ君は?」


黒に近い茶色の瞳をじっと見つめる。
その瞳は感情の揺らぎがなく、驚くほど凪いでいた。


「俺?俺は――帰れねぇなぁ。帰りたい場所でもねぇし、帰って歓迎される家でもねぇ」

「おや、君も訳アリの家出身ですか。僕も気まづくて帰れないんですよねぇ」

「まぁ、あんなご尊顔してたら問題の一つや二つあるだろ。逆になにも問題を抱えてない方がおかしい。当ててやろう……昼ドラも真っ青になるドロ沼家庭。そんで燈弥のせいで家庭崩壊」

「僕のせいですか、言いますね!あっはっはっは」

「ふは、ははははっ」


2人して笑う。
やっぱり僕、ケーキ君とは仲良くしたいなぁ。
人懐っこく笑う彼の姿にそう思った。


「おっと、言うのが遅くなったな。おかえり燈弥」

「――ただいまです。ケーキ君」




その後荷物を寝室に置き、懐かしき座布団に座る。気を利かしてお茶を出してくれるケーキ君は本当に出来た人だ。彼に友達が多いのも納得。


「あ、先程兎君も楽しみにしていると言ってましたが....彼、部屋に帰ってきてるんですか?」


兎君はシリアルキラーを逃がした罰で当分風紀に箱詰めだとトサカ君に聞いた気がする。だから部屋には帰っていないと思っていた。


「.....帰ってきてない。誤解する言い方しちまったな。『自分がこんな状況じゃなきゃ歓迎会すんのに』って湊都は言ってた」

「あらら。そういうことでしたか」


会えないということね.....残念。
校内で兎君を見かけたことがあるが、可愛らしい顔をやつれさせてフラフラと歩いていた。とても心配。


「兎君のこと気にかけてあげてくださいね」

「俺がやらんでも芙幸がやるだろ」

「確かに。でも、気にかけてくれる人が多くて困ることはないでしょう?」

「.....そうだな」


面倒くさそうに言っているが、僕は知っている。ケーキ君が面倒見がいいことを。
じゃなきゃ洗濯したり、料理を作ってくれたりしないよね?こうやって久しぶりに帰った僕をもてなしたりしないよね?


「君ってば、不器用だよねぇ」

「急になんだ?何の話だ?」

「ケーキ君なにか軽いもの作ってよ。実は昼食食べ損ねちゃってさ」

「話変えたな......はぁ、しょうがねぇ。燈弥は何が好き?好きなもん作ってやる」

「じゃあフルーツサンドで」

「すぐに夕飯だからひとつで我慢しろよ~」


キッチンへ向かう背中に「はーい、お母さん」と茶化すように笑いながら、変装を解く。兎君は来ない、文ちゃんは用事で帰るのが19:00頃になると今メールが来た。ならこの部屋にいるのは僕とケーキ君だけ。変装を解いても問題ない。

....やっぱり素が1番楽だ。

髪をかきあげ、風を通せば強くそう思ってしまう。
はぁ、こういう気持ちが隙を作るんだろうな。現に『ケーキ君ならいいか』とこうして変装解いてるし。


「誰がお母さんだ。そこはせめて.....」

「せめて....なに?」


パチリと目が合う。分厚いレンズを介さず見るケーキ君はなんだか新鮮な気持ちにさせされる。
彼って本当に顔が整っているなぁ。

そう思っていると、ふいにケーキ君の顔が真っ赤に染まる。


「――なんでもねぇ!つうか急に素に戻んなよ!!心臓止まったらどうしてくれるっ!?」


捲し立てるように言い捨て、ケーキ君は足早にキッチンへ向かった。


「あは!あっははははは!!」


その姿に吹き出すように笑う。


「ケーキ君ってばなに照れてんの?」



顔の良さに照れるって、意味が分からない。
どうして照れるんだろう?

意味がわからなさすぎて思わず笑っちゃったよ……









しおりを挟む
感想 28

あなたにおすすめの小説

変態高校生♂〜俺、親友やめます!〜

ゆきみまんじゅう
BL
学校中の男子たちから、俺、狙われちゃいます!? ※この小説は『変態村♂〜俺、やられます!〜』の続編です。 いろいろあって、何とか村から脱出できた翔馬。 しかしまだ問題が残っていた。 その問題を解決しようとした結果、学校中の男子たちに身体を狙われてしまう事に。 果たして翔馬は、無事、平穏を取り戻せるのか? また、恋の行方は如何に。

ブレイブエイト〜異世界八犬伝伝説〜

蒼月丸
ファンタジー
異世界ハルヴァス。そこは平和なファンタジー世界だったが、新たな魔王であるタマズサが出現した事で大混乱に陥ってしまう。 魔王討伐に赴いた勇者一行も、タマズサによって壊滅してしまい、行方不明一名、死者二名、捕虜二名という結果に。このままだとハルヴァスが滅びるのも時間の問題だ。 それから数日後、地球にある後楽園ホールではプロレス大会が開かれていたが、ここにも魔王軍が攻め込んできて多くの客が殺されてしまう事態が起きた。 当然大会は中止。客の生き残りである東零夜は魔王軍に怒りを顕にし、憧れのレスラーである藍原倫子、彼女のパートナーの有原日和と共に、魔王軍がいるハルヴァスへと向かう事を決断したのだった。 八犬士達の意志を継ぐ選ばれし八人が、魔王タマズサとの戦いに挑む! 地球とハルヴァス、二つの世界を行き来するファンタジー作品、開幕! Nolaノベル、PageMeku、ネオページ、なろうにも連載しています!

俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない

亮亮
ファンタジー
朝起きたら『チュートリアル 起床』という謎の画面が出現。怪訝に思いながらもチュートリアルをクリアしていき、報酬を貰う。そして近い未来、世界が一新する出来事が起こり、主人公・花房 萌(はなぶさ はじめ)の人生の歯車が狂いだす。 不意に開かれるダンジョンへのゲート。その奥には常人では決して踏破できない存在が待ち受け、萌の体は凶刃によって裂かれた。 そしてチュートリアルが発動し、復活。殺される。復活。殺される。気が狂いそうになる輪廻の果て、萌は光明を見出し、存在を継承する事になった。 帰還した後、急速に馴染んでいく新世界。新しい学園への編入。試験。新たなダンジョン。 そして邂逅する謎の組織。 萌の物語が始まる。

塾の先生を舐めてはいけません(性的な意味で)

ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
個別指導塾で講師のアルバイトを始めたが、妙にスキンシップ多めで懐いてくる生徒がいた。 そしてやがてその生徒の行為はエスカレートし、ついに一線を超えてくる――。

ヤンデレBL作品集

みるきぃ
BL
主にヤンデレ攻めを中心としたBL作品集となっています。

全寮制男子校でモテモテ。親衛隊がいる俺の話

みき
BL
全寮制男子校でモテモテな男の子の話。 BL 総受け 高校生 親衛隊 王道 学園 ヤンデレ 溺愛 完全自己満小説です。 数年前に書いた作品で、めちゃくちゃ中途半端なところ(第4話)で終わります。実験的公開作品

身体検査

RIKUTO
BL
次世代優生保護法。この世界の日本は、最適な遺伝子を残し、日本民族の優秀さを維持するとの目的で、 選ばれた青少年たちの体を徹底的に検査する。厳正な検査だというが、異常なほどに性器と排泄器の検査をするのである。それに選ばれたとある少年の全記録。

カテーテルの使い方

真城詩
BL
短編読みきりです。

処理中です...