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第七章 夏休み☆

《no side》

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雅臣に抱えられ秒で寝た燈弥に重臣は開いた口が塞がらなかった。


「危機感ないのか?この根暗君は」

「そんだけ疲れてるってことだろ」

「いーや。おれっち達は舐められてんだ。お前がそんな態度とってるからつけ上がる。自分は絶対におれっち達に殺されないってな」


不敵な笑みを浮かべ手の平を燈弥に向ける重臣。その手の平には可視化できるほどの風が渦巻いていた。


「やめろ。弟を地に沈めるっつうのはお前が思うより心が痛むんだぜ?」

「はっ!兄貴ヅラやめろよ。おれっち達に上下はない。というかおれっちが負ける前提かよ。ふざけんな」

「そういやお前と喧嘩した事なかったなァ?」

「確かに。ここで一発やるか?」


険悪な空気が流れ、同じ顔した2人は睨み合う。
しかしその空気を最初に破ったのは雅臣だった。


「ふん――馬鹿が。オレ達で喧嘩するほどつまんねぇもんはないだろ」

「いっひひひ.....言えてる」


そう言って重臣はダルそうに燈弥に向けていた手を下ろした。


「なぁ....マジでさ、どうしてそいつにそんな態度とるんだよ。そういう対象作って苦しむのはおれっち達なんだぞ?」

「.....他人に『あなたの生き様は好ましい』と言われたら重臣はどうする?」

「はぁ?そりゃぶっ殺すだろ!テメェがおれっちの何を知ってんだって話だ。それにそんな言葉一つで救われるほど軽々しい過去じゃねぇだろ」

「そうだよなァ....でも何故かオレは嬉しかったんだ」

「馬鹿が。上っ面の言葉にホイホイ騙されやがって。失望したぜ雅臣」

「いやいやいや、お前だってこう....エロい雰囲気纏う燈弥から全肯定されたらキスのひとつもしたくなるだろ?」

「何言ってんだお前??」

「本当に何言ってんだろうなオレ」


腑抜けた雅臣の姿に重臣は立ち上がり『付き合ってらんねぇ』と内心ぼやき、この部屋を出て行こうとした。しかし、雅臣の腕の中で気持ちよさそうに寝息を立てる燈弥が視界に入り足を止める。


「.....そんな気にいってんなら実家に持ち帰れば?」

「こいつはβだ。使い潰される」

「β?――βなのかこいつ。使えねぇなぁ」

「...実家か。そういやお前、この夏帰りたいか?あの家に」

「冗談言うなって。種馬になるために帰るなんて御免だ」

「そんな家にオレを帰そうとすんなよ」


雅臣の言葉に重臣は鼻で笑い、その場に屈む。
手を伸ばせばいかにも不自然な黒髪。ゴワゴワとして、パサパサ。その面白い感触に摘んでは離し、パラパラと髪束で遊ぶ。


「雅臣が燈弥燈弥言うから気になってきたじゃん。どうしてくれんの?」

「オレ達は双子だ。遅かれ早かれお前はこいつに興味を持ってたさ」

「それもそうか。んじゃ、暴いていきますかねぇ」

「....」

「どうせ雅臣はそういうところ手が出せねぇんだろ?おれっちがやってやるよ」


髪を弄っていた手で探るように頭部に這わせば、不自然な出っ張りがいくつかあるのが確認できた。


「やっぱカツラか。おれっちを騙すには100年早いぜ」


​────パチン、パチン、パチン.....

どんどんピンを外す重臣に対し、雅臣は止めること無く静観する。


「さて、根暗君の本当の髪色は何色かな~?」


パサリと''それ''は落ちた。


「ん?黒??」


重臣が疑問の声を上げたように、現れたのは先程被っていたウィッグと同じ黒だった。ただ、人工物のソレとは比べ物にならないほどの艶やかな黒。

ウィッグに仕舞われていた絹のごとき髪は、雅臣の見下ろす燈弥の健康的な首筋に数本落ちた。


「っ、」


その光景に雅臣は目を逸らす。
なんだか見てはいけないようなものを見た気分にさせられた。


「う....わぁ.....え?何こいつ。めちゃくちゃ美形じゃん。このドデカい眼鏡外さなくても丸わかりじゃん。髪ひとつでここまで隠せるもんなのかよ。っていうか黒から黒って!いや、まぁカツラ被ってた理由は察したけど、別に隠さなくてもよくね?綺麗な顔を晒した方がパトロンつくだろうし、なにより見初められる確率が高く――」

「おい重臣.....随分と饒舌だなァ?」


燈弥を視界に入れないように重臣を見つめれば、珍しく慌てている様子。


「だって初めて見る顔じゃねぇか!実家でもこんな、こんなっ」


カチャリと燈弥の瓶底メガネが外される。


「こんな天っ......あ」


なにかに気づいたように口を手で覆う重臣。
未だに燈弥の素顔を直視できない雅臣はその姿を怪訝に思った。


「どうした?」

「最近お前あれ言わないよな?いっつもなら耳にタコができるほど言ってるアレ」

「あれ?.....どれだよ」

「はっ、マジかよww漫画みてぇw......おれっちが先に気づくとか!コレ見ても思い出せねぇ?」

「おいっ」


コレと言って重臣は燈弥を乱暴に引きずり出し、雅臣の眼前に顔を持っていく。

まず目に入ったのは、影を落とすほどの長い睫毛だった。
次に薄い唇。
その次は、重臣に頭を掴まれているせいかやや苦しそうに歪められる柳眉。

だが、何よりも超越した美に目が釘付けになる。


(もし....もし燈弥が熱で寝込んでいた時、オレがコレを見ていたらどうしていた?)


自身に問いかける。だがその問いの答えは考える間もなく行動に移していた。


顔を近づけ、その唇にキスを落とす。
触れるだけの軽いもの。


「おい!?」


雅臣のまさかの行動に重臣は慌てて燈弥を自身の腕の中にしまい込む。まさかいきなりキスをするとは思わなかった。


「ったく.....で、なにか思い出したか?」

「とりあえずお前、燈弥を寝室に置いてこい」

「はぁ?」

「喧嘩しに行くぞ」

「はぁ!?いや、おれっちは大歓迎だけどよ....マジで急にどうした?」

「熱を冷まさねぇと」

「逆に熱くなるだろソレ」


そう文句は言いつつも言われた通り燈弥を寝室に転がす。そして足早に部屋を出る雅臣の後を追いかけた。


「根暗君どうすんだよ」

「寝かせとけ」

「そういうことじゃ.....」


『そういうことじゃねぇ』といいかけ、重臣は苛立ったように頭を掻いた。


​────今の雅臣に何を言っても無駄か。チッ、おれっちの方がやっぱしっかりしてんだろ。あの節穴目の根暗め。


内心燈弥に毒づきながらスマホを操作する。
重臣が懸念しているのは燈弥の身柄だ。結局変装を暴いたまま放置して部屋を出てしまった。

今、燈弥の部屋はドアがドアの役割を果たしていない。つまりあの超越美した姿の燈弥は攫われ放題、最悪犯され放題というわけである。



「おれっちってば.....やっさし~」



スマホをくるくる指の上で回し、重臣は笑った。






《side  end》


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