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第七章 夏休み☆

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僕の軍服と違って、腿半ばまである上着に膝下まである軍靴。このデザインを考えた人は天才だと思う。
委員長の軍服といい、一般生徒との立場の差別化がはっきりと目に見える。そして何よりかっこいい。

眼福だ。眼福....うん。
まぁ、普段の僕ならそう思うだろう。


「おはよう燈弥君」

「......おはようございます会長」


こんな朝早くのチャイム連打がなければねぇ....。
ちょっと会長、今何時だと思ってるの??まだ4時ですよ??

僕が玄関を開けるまで何回チャイム押したの?


「あははっ、不機嫌そうだね」

「当たり前です。今何時だと思っているのですか?非常識ですよ」

「しょうがないじゃないか。僕がここを経つのは4時なんだから」

「.......だからってなんで僕なんですか。勘弁してください」

「見送られずに行くのは寂しいじゃないか」

「いや、だからなんで僕!?それこそ付き合いの長い骨喰君とかが適任でしょう!?」

「.......ほら、恭弥はこんな時間に起こすとネチネチと面倒臭いだろうし」

「僕はネチネチしないとでも??」

「​───見送ってくれないの?」

「見送りますけども!」

「あははは!実家に帰るのになんだか気分がいいよ。燈弥君のおかげだね。シリアルキラーの釈放という緋賀へのいい話もあるし.....ああ本当に気分がいい」

「.....本性でてますよ人格者さん」

「は、ははっ。しょうがない。本当の気持ちだからね」

「喧嘩も程々にしてください。.....もう時間でしょう?会長、行ってらっしゃい」


『行ってらっしゃい』
見送るためのごくありふれた言葉。なのに目の前の人は時が止まったかのようにピクリとも動かなかった。


「会長?」

「――い、行ってきます」

「?.....はい行ってらっしゃい。お気をつけて」


足取り覚束ない様子で会長はエレベーターへと消えていった。その姿はなんだか動揺していたように思える。でも、何に?


「考えても仕方ないことですね。それにしても、シリアルキラーの釈放ですか。嫌な言い方です」


釈放とは自由にしてやること。意図して野に放ったわけではない風紀にとっては皮肉にしか聞こえないだろう。
はぁ.....夏休みに入ってまだ数日しか経っていないのに、もう大事件。風紀は頭が痛いだろうなぁ。

委員長が帰ってきた時が怖い。怖い。


「風紀と言えばトサカ君、律儀に報告書送ってくれたね」


部屋に戻り、机の引き出しにある紙束を手に取る。


えーっと確か....
兎君とバカ2人が鎖真那君の牢の鍵をあけた。
しかしその牢の鍵は哀嶋君から人づてに託されたと紫蛇が証言していたが、哀嶋君本人は渡してもいないしずっと持っていたと証言した。


「めんどくさいなぁ。ここにきて裏切り者か」


カードキーの複製。情報操作。
実行した犯人のしっぽすら掴めていない現状。

本当に風紀は大変だなぁ。



​───ピンポーン.....


「ん(怒)?」


また来客??この時間に?
ブチ切れていいかな?


「誰ですか!?こんな時間に......」

「よぉ」


ドアを閉める。閉め――ガシッ!!


「なんで閉めんだよっ」

「お帰りください!!」


閉めようとしたが力強い手によって阻まれる。
....もういい。このままドアで指を切断してあげよう。


「力強っ!?おい重臣!!」

「も~しょうがねぇなぁ……よっ!」


​────バキンッ!


「い''だっ!?!?」

「「やべ....」」


急に加えられた引っ張る力になすすべもなく前に倒れる。だけど、大きな手に支えられ地面に倒れることは無かったが、硬いなにかに強かに鼻を打った。

というか凄く、すごーく嫌な音がしたんだけど!?

鼻を擦りながら硬い板.....鎖真那君(どっちか不明)の胸から脱出し、ドアを見れば――


「ない.....ど、ドアがない!?」


外から丸見えな自室。そして廊下に鎮座するやや分厚い板。


「どうしてくれるんですか!?僕の部屋入りたい放題じゃないですか!」

「そりゃ燈弥が馬鹿力でドアを閉めようとするから....」

「僕のせい!?~~だいたいっ!!ぐぅ.....」


落ち着け僕。このままじゃサマ臣君の思う壷だ。


「ふぅ、あのですね.....馬鹿力というのは君のような人に使う言葉です。僕は全体重を使って閉めようとしました。なのに君は?君は腕力だけで渡り合っていたじゃないですか。つまり僕は馬鹿力ではない。OK?」

「そんな話しどうでも良くねぇ~?てか、こんな時間に外で騒いでたら迷惑だぜ。とりま部屋入れろよ」

「.....(殺意)」


入れろと言いながらドアだった残骸を踏み勝手に僕の自室へと入っていく弟君。
それに続いて「悪いな」と言いながらも罪悪感を微塵も感じてない様子のサマ臣君。そして彼はすれ違いざま、ご機嫌を取るように僕にキスをしてきた。

あまりにも自然にキスをしてきたため呆気に取られるしかなかった。いや、もう僕は諦めているのかもしれない。


「.....この兄弟は本当に厄介ですね」


とりあえず倒れたドアを立てかけておく。鎖真那兄弟を帰した後に寮監の宮さんに相談しよう。







「で?こんな時間になんの用ですか」

「お茶ないの?おれっちはコーヒーでもいいけど」

「黙りなさい。君らに出すお茶はない」

「オレも入ってんのかよ」

「当たり前でしょう。それでなんの用ですか?」


するとサマ臣君は面倒くさそうに髪をくしゃりと乱し、ため息を吐くように言った。


「この『なんでなんでモンスター』を押し付け....ゴホン!相手してもらおうと思ってな」

「なるほど。押しつけに来たんですね」


『なんでなんでモンスター』こと弟君に目をやる。....なんかニンマリ笑われた。


「なんで根暗君は雅臣と仲良さそうなの?なんで雅臣にボコボコにされてねぇの?なんで雅臣は会う度にお前にキスすんの?なんで雅臣を怖がらない?なんでこのメンツに囲まれて冷静で居られんの?なんで自分は殺されないと確信してんの?」


うわぁ、本当になんでなんでモンスターだ。
物心ついたばかりの子供かな?


「あの、サマ臣君?君が答えるべき質問も混じっているのですが?」

「燈弥に任す」

「(怒)」


まるっと押し付けられた。


「弟君....僕は別に――」

「弟君っておれっちのことかよ!?いっひひひ!なぁ雅臣、お前おれっちの兄ちゃんってことになってるぞ」

「あったりまえだろ。お前どう考えても兄にはなれねぇよ」

「他の人たちもきっと同じことを思っていますよ」

「嘘だろ。おれっち初めて知ったんだが?え、おれっちってそんなに弟属性備えてる?」

「まず落ち着きがないように見える態度、その『おれっち』という一人称、そして自分勝手さ.....君は弟です」

「っはー、双子なのに弟とか納得いかねー。自分勝手さとか雅臣もだろうが」

「ぶっちゃけますとサマ臣君のほうがしっかりしているように見えますね」

「おれっちもしっかりしてるんだがー?」

「もういいだろ。この話。燈弥が弟君と呼んだならお前はもう弟君なんだよ。諦めろ」

「.....本当になんで雅臣はこいつにこんな甘いんだ?気持ち悪ぃ」

「気持ち悪いだァ??お前のそのふざけた口調の方が気持ち悪ぃだろ。オレの顔して『おれっち』なんて言うんじゃねぇよ。虫唾が走る」

「おれっちおれっちおれっちおれっちおれっちおれっちおれっちおれっち――」

「よし、その喧嘩買ってやる」


​────バンッ!!....バキッ


「喧嘩しに僕の部屋に来たのなら帰れ」


感情のまま魂写棒でテーブルを叩けば大きな音を立てテーブルが真っ二つになった。いつもなら備品を壊してしまったという申し訳なさで心がいっぱいになるのだが、今は面倒くささとイラつきが僕を支配している。

会長の見送り強請ねだりは可愛いから許す。
たとえこんな朝早くでも許す。いや、許した。

だが君らはダメだ。
訳の分からん理由で訪ねてきて、ドアを壊す。
挙句いきなり兄弟喧嘩ときた。そして何より可愛くない。


「帰れ。僕は眠い寝たい安眠したい」

「そ、そんなキレんなって」


キレるさ。会長が何故かここを発つ日付をずらして、さらに僕に仕事を教えこんできたせいで疲れているんだ。昨日だって寝たのは深夜2時を回ってから。
それがここ最近続いている。睡眠を邪魔されキレるなという方が難しい。


「.....?」


その時ふわりと身体が浮き、ギュッと全身を包まれる感覚に襲われた。


「マジか雅臣.....」

「なっ!?離してください!暑い....Zzzz」

「マジかこいつ....」



久しぶりに感じる人肌に一瞬で意識が闇に沈んだ。











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