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第七章 夏休み☆
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しおりを挟む目つきを鋭くして、森を歩くトサカ君に同情する。
牢を開けるための鍵を受け取ってないと知った彼は風紀に戻ったが、帰ってきた彼の手には鍵を持っていなかった。
なぜなのか聞けば....
『紫蛇.....先輩が持っているそうだ』
こめかみに青筋を立てて簡潔にそう言った。
なんでも急なシフト変更に紫蛇自身鍵を引き継ぐのを忘れているのではないか?と。風紀室に居た先輩方と鍵の行方を考えてその結論に至ったらしい。
トサカ君が紫蛇に先輩を付けるのを渋るほどイラついていたので驚いた。どうやら紫蛇はトサカ君の地雷を踏んだようだ。
しかし悲劇はここで終わらない。
鍵を持っている紫蛇探しに移行したわけだが、紫蛇が部屋に居ないのだ。
ゲームをしていると聞いていたため、一緒に居たと目撃情報があった兎君・黄犀の部屋まで訪ねたが誰も居なかった。
これいかに???
『いませんね。赤鼠や茶牛に連絡しても一緒ではないと来ましたし.....ゲームに飽きて外で遊んでるんですかね?あの3人なら有り得そうですが』
『(怒)』
外を探すと言ってもこの学園は広い。当てもなく探すのは自殺行為なため僕達は地道に聞き込みをする羽目になったのだが....天はトサカ君を見捨てなかった。
3人が懲罰棟に向かうのを見たと情報を貰った。
ということで、今懲罰棟に向かうため森を突き進んでいる。まぁ結局あちこち探さず、最初から懲罰棟に行けば会えたよね....っていう話。
「.....くそっ、紫蛇め。引き継ぐのを忘れただと?''仕事をできない無能''と委員長に烙印を押されたらどうしてくれる!?今日の業務はまだあるっていうのに、とんだ時間ロスだ。シフトを代わってもらっただろうが関係ねぇ。絶対に手伝わせてやる。紫蛇の休日と委員長の評価、どっちをとるかは明白だ....まったく――」
うわぁ.....ついに紫蛇に先輩すらつけなくなったね。
でも、おめでとうトサカ君。これで君もあの馬鹿2人をこき使う側の人間だ。
「あ''?」
不機嫌そうな横顔をなんとなしに眺めていると、突然トサカ君が瞳を細めた。
その視線の先を辿ると....
「なーんで、彼がここにいるんですかね?」
僕の機嫌が一気に低下する。
朝のあの屈辱的な行為や言葉が脳に浮かんでは消えていく。
遠くからでも目立つ短い白髪にガタイ。
サマ臣君....なんで君がここに?
「おい!戦闘狂!!なんでここに居る。お前は懲罰棟周辺に近づくのは禁止されているはずだ」
グルルルっと今にも飛びかかりそうなトサカ君の姿に犬じゃんと思ってしまった。ちょっとショック。だって彼は僕の中では鶏なんだ。犬と思うのは失礼だろう。
「聞いてんのかおい!!」
ん?なんだかサマ臣君の様子がおかしい。
トサカ君の後を着いていくように進めば、木を背にして息を荒らげている姿が見えた。
「ゴホッ....!う''っ、ゲホ、ゲホっ」
「戦闘狂....?」
「あ''ぁ~うるせぇなぁ……ゴホッ!聞こえてるよ。って、お前異名持ちじゃねぇか。かっかっか!ここで会うとはラッキーだな」
「今お前に割く時間はない」
「つれねぇこと言うなよ。せっかくだし戦おうぜ」
ふむ....おかしいな。誰かな彼は?
自分で言うのもアレだけど、サマ臣君は僕に懐いている。だからこんな僕を無視をするような態度はとらないし、あんな冷めた目で僕を見るはずがない....と思う。
物事が上手くいかない苛立ちのせいかトサカ君が不用心にサマ臣君もどきに近づこうとしたため、首根っこを掴む。
「何すんだ燈弥っ――」
「朝ぶりですね、サマ臣君」
ずいっとトサカ君の前に出る。すると目の前の男はピクリと男らしい眉を歪めた。
「――あぁ、そうだな」
「なんて軽い態度なんでしょう。僕にあんなことをしておいて『そうだな』で終わらせるなんて」
「かっかっか!そりゃすまねぇ。おれは過去を振り返らない男なんでな」
彼は視線をトサカ君に向けたため、咄嗟にトサカ君の足を踏む。背後から呻き声が聞こえたが、もう僕は風紀室での失敗を繰り返したくない。
ん?なんの失敗かって?
.....Mr.ウマシカの表情豊かさによって委員長に交流会での仕業が僕だとバレたことだよ。
「過去を振り返らない!それはいいことです。ですが僕はそうはいかない。貴方の顔を二度と見たくないほどの恥辱を与えられました。僕は初めてだったのに....」
よよよ....と悲しそうに顔を手で覆う。
さて?相手はどう動くか。指の隙間から彼の様子を見れば....いやはや、本当にサマ臣君にそっくりだ。本人と言われても頷いてしまう。
獣のような獰猛な笑みに、楽しそうに開かれた瞳孔。興奮したときのサマ臣君そのものだ。
「いひっ....悪ぃな。おれはどうやら3歩歩いたら忘れる鳥頭らしい。朝お前にしたことをその口から話してくれねぇか?」
まぁ、姿形が同じでも中身は違うらしいけど。好奇心がダダ漏れ。彼、もう戦闘狂の演技をするつもりないよね?
背後にいるトサカ君を指でつつき、捕縛の合図を送る。
「それはもう情熱的なキスを送ってくれたじゃないですか。僕が動けないよう腕まで抑えて、逃げないよう後頭部まで掴んで....」
「いひっ、情熱的にwいひひwwいひひひひっwwぶほぉっ....!?ゲホ、ゲホ!おぇっ....!」
「はい、捕縛です」
「了解!!」
笑いながら血を吐き出すサマ臣君もどきを見下ろす。この症状見たことあるなぁ。
まさか、まさかね?いや、でも過度使用とか普通にやりそうだし、当たって欲しくないけど.....うん。
最悪の想像に腕をさすりながら、彼を押さえつけているトサカ君に聞く。
「このサマ臣君もどきは誰です?」
「――快楽殺人鬼だっ!なんで外にいるんだよ!?」
「名前は?」
「....鎖真那重臣、戦闘狂とは双子。クソっ、マジで見分けつかねぇな。燈弥がいなきゃ見逃すところだった」
はぁーーーーーーーーっ、なるほど。
だから『紛らわしい』んだ。昇級試験前に、萩野君・サマ臣君で昼食を取ったときのことを思い出す。
萩野君は言った。
『イッチー、雅っちをサマ臣って呼ぶのやめた方がいいよ~。.........紛らわしいから』
あの時は意味不明だったが、今なら理解できる。
さまな 雅臣
さまな 重臣
うーん、どっちもサマ臣君だ。確かに紛らわしい。なんでサマ臣君もその時言ってくれなかったんですかね?自分は双子だと。
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