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第七章 夏休み☆

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風紀室から出て、懲罰棟への道を歩く。
その道中、懲罰棟での業務は何があるのかトサカ君に聞くと.....


「基本的には違反者達の更生と見張りだ」


と、返ってきた。
更生か....そんなことやってたんだ。全然知らなかった。


「でも、違反者を更生させるのって結構難しいんじゃないですか?人の心はそう簡単に変わりませんし」

「まぁ、普通の委員が担当ならそうだろうな」

「....委員長ですか」

「ああ。委員長が担当だから違反者達は驚く程更生される。以前委員長の指導姿を見たことあったけど、あれはもはや拷問だったな……マジ憧れる」


憧れるの??
拷問姿見て、憧れるって言葉出るの??
嘘でしょ?って思いながらトサカ君の表情を見たんだけど、まぁこれがキラキラとした目をして本気で言ってるんですよ……。


「そ、そうですか」


ちょっと心の距離ができた気がする。


「あ~.....それでトサカ君の業務は?見張りですか?」

「俺の今日の業務は快楽殺人鬼シリアルキラーの牢移動だ。本当は見張りだけで終わるはずだったんだが、風紀室で燈弥と話していたおかっぱヘアーの先輩に言われてな。なんでも哀嶋副委員長の指示だそうだ」

「快楽殺人鬼って....懲罰棟に入ってたんですか」

「燈弥が入学するちょっと前くらいに捕縛された。そんで委員長でも更生できないらしいから、卒業までぶち込む方針になってる」

「それは可哀想に。青春の3年間を牢で過ごすなんて」


僕としては安心できるから嬉しい。どうかそのままぶち込まれてて欲しい。


「自業自得だ。あのイカレ野郎め」

「おや、嫌いなんです?」

「この学園でアイツを好きなやつはいねぇよ。戦闘狂といい、シリアルキラーといい、なんで委員長にちょっかいかけるんだ」

「委員長はモテモテですね。羨ましくないですけど。それで....トサカ君ひとりでできるんですか?その危険人物の移動」

「やるしかないだろ。はぁ、今日当番の紫蛇先輩が居てくれたら楽だったのに」

「紫蛇と交代した委員では役不足というわけですか」

「居ねぇ方がまだやり易い実力だ」

「うーん――僕、手伝いましょうか?」

「!?!?」


ちょっと?
どうしてそんな後ずさるんですかね?
しかも警戒するような眼差しまで向けて。


「な、なにが目的だ」

「失礼ですね。ただの親切心ですよ」

「燈弥に親切心?どんなに悲痛な顔で助けを求めても、笑顔で帰っていくあの燈弥が?」


そう言われると弱いなぁ。


「....どうせ懲罰棟内が見たいだけだろ」

「バレましたか」


噂に聞く異能使用不可空間というのを体験してみたい。本当に異能は使えないのか、使う抜け道はないのか。調べてみたい。
昇級試験で装着したあの腕輪は抜け道もクソもなく異能の使用はできなかった。まぁ、負荷をかけたらどうなるのか色々と試せなかったから完全に使用できないかは断定できてないんだけど....。

実験したかったが貴重品だからってすぐに回収されちゃったらしい。僕は熱で意識がなくて気づいたら外されていた。1年生全員に配るくらいなら1個くらいくれてもいいだろうに....。本当に貴重品なのか疑わしい。

ま、その話は置いといて。


懲罰棟はあの腕輪と同じ材料で建てられていると聞いた。中に入るチャンスがあるなら色々と試したい。シリアルキラーに会うなんて御免だからそれはトサカ君に任せて、僕は隅っこで研究を....と考えているんだけど。


「トサカ君の邪魔はしませんから。中を見学させてください」

「邪魔はしないって....手伝う気ゼロだろお前。それに懲罰棟に入るには緋賀さん――委員長の許可がねぇと....」

「風紀の副委員長が懲罰棟内部を知らないって結構問題じゃないですか?何かあったとき『勝手が判らなかったので対応出来ませんでした』じゃ、委員長の顔に泥を塗りますよ?」

「それはダメだ。案内する」


チョロいなぁ。
今の僕は生徒会だっていうのに....このチョロさ心配になる。


内心そう思っていると、前方から見覚えのある顔が歩いてくるのが見えた。


「文ちゃん!」

「ん、ああ。燈弥君か」


歩いてきたのは花束を手に持った文ちゃんだった。ピンク色の小さな花が集まった、見たことの無い花が10本ほど紙にくるまっている。死んだ瞳をしていなかったら文ちゃんの見た目と相まって、とても儚く見えただろう。
しかし綺麗なものを見たと気を良くしていた気持ちは、近づくにつれ鼻孔をつく臭いによって萎む。

なんだろう、この生乾き臭は.....

隣を見れば、トサカ君の顔も僕と同じように歪んでいた。眉間も寄っていて、なんだか威嚇してる鶏みたい.....そんな鶏見たことないけど。


「文ちゃん....その花は?」

「これ?.....ああごめんね、臭いよね」

「はぁ、確かにいい匂いとは言えませんが……誰かに差し上げるのですか?」


聞けば、ポッと赤く染まる頬。
なるほど、野暮な質問だったようだ。


「ああ、答えなくていいです。しかし、あげるにしては些か臭いがキツイのでは?」

「大丈夫大丈夫。どうせ外に置く花だから....っと、私は行くね。急いでるわけじゃないけど、早く行ってあげたいから」

「ラブラブじゃないですか。.....こちらこそ引き止めてすみません。いつか文ちゃんの大切な人のことを教えてくださいね」

「大切な人.....ふ、ふふ。くすぐったいなぁ。うん、いつか絶対に紹介するよ」


はぁ....恋する文ちゃんが可愛い。
こういうマトモな恋愛を見られるのは嬉しいなぁ。尊い。

僕は文ちゃんの背中が見えなくなるまで見送ると、トサカ君に待たせたことを謝りながら向き直る。
しかし、彼は依然と眉を寄せた――苦虫を噛み潰したような顔をしていた。歪められた茶色い瞳は文ちゃんが消えていった廊下先をじっと見ている。


「トサカ君?.....あの花の臭い、そんなにキツかったですか?」

「あ、いや.....なんでもねぇ。さっさと懲罰棟に行こうぜ」

「.....はい、そうですね」



なんだか気まづい雰囲気が漂う。流石にあんな顔を見て『なんでもない』と言われ納得出来るほど、僕は鈍感じゃない。

だからといってここでさらに突っ込んだ質問をしても面倒くさそうだから.....よし、話を変えよう。


「.....牢の移動をすると言ってましたが、鍵とかは持ってるんですか?平の風紀委員が管理しているとは思えないのですが」

「あ.....」

「え?」

「牢の鍵がねぇと開けることできねぇ....つまり牢移動もできねぇ」

「トサカ君、鍵は受け取ってないんですね?その態度からして」

「っ、ここで待っててくれ!風紀に行ってあのおかっぱ先輩に聞いてくる!!」

「行ってらっしゃい」



猛スピードで駆けていくトサカ君を眺めて、やっぱ風紀は大変だなぁと他人事のように思う僕はきっと薄情な人間なのかもしれない。








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