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第七章 夏休み☆
《side 登坂 章二》①
しおりを挟む夏休みでも風紀は稼働し続ける。
なぜなら、休みだからといって違反者達が居なくなるわけではないからだ。
....緋賀さんがイラつくわけだ。
違反を起こさないでくれれば風紀だって休めるのに。
もう生徒を片っ端から懲罰棟にぶち込んだらいいんじゃ?そしたら違反者が出ることもなくなる。
朝のせいかまだ働かない頭でそうぼんやり考え、少し憂鬱な気持ちになる。疲れが取れていないことが発覚だ。こんなことを考えるなんて....俺らしくない。
はぁ....さっさと朝食をとって仕事に取り掛かろう。そんで早く終わらして寝る。
「ん?」
適当な席に座ろうと足を進め、しかしそこで珍しい人物を見かける。
学校の食堂では度々見かけたが、寮の食堂では初めて見かける。
しかも一人。
本当に珍しい。
長い足を組み、椅子に凭れるように微かに曲がった背、膝の上に重ねられた手は俺の手と比べると些か頼りなさそうに見える。.....だが顔の美醜を考慮しなければなんとも絵になる姿だ。
――ああ、そうか。絵になるというのは、つまりそれだけスタイルがいいということ。こいつが緋賀さんの横に立っていて違和感ないのはそういう理由もあるのかもしれないな。
ウンウンと一人納得し、目をつぶっているのか判断できない眼鏡がこちらを向かないよう、慎重にそばを通り過ぎる。
「トサカ君!」
あー......これは無視するわけにはいかねぇよなぁ
「はよ....」
「おはようございます。トサカ君も今から朝食ですか?良かったら一緒に食べません?風紀の様子も伺いたいですし」
また断りづらい言い方を
「燈弥が良ければ一緒に取らせてもらう」
「どうぞどうぞ」
向かい側に腰掛け、タッチパネルで素早く注文する。こうなったらすぐ食べれるものを頼んで、早く席を離れよう。そんで足りなかったら購買でどうにかするか。
しかし、注文したすぐ後にウェイターが皿を手に俺たちが座る席の前まで来た。そしてテーブルに置かれたのは美味しそうな匂い漂わせるカルボナーラ。
「お先にいただきますね」
先に居た燈弥の注文が早いのは当たり前だ!....これなら早く食べれるものじゃなくても良かったな。
しくった....!
「.....なんでさっきからそんなソワソワしてるんです?お腹がすいてるってわけでもなさそうですし」
ギクリ
見透かされ肩が揺れた。
瞳が見えないのに眼鏡越しから視線を感じる。
「っ、だってお前は生徒会だし、俺は風紀....一緒にいたらマズイだろ!」
咄嗟に口から出たのは自分でも情けないと思うほどの言い訳だった。
(まるで拗ねている子供みたいじゃねぇかっ)
自分の言った言葉に直ぐに頬がカッと赤くなるのが分かった。
「君は僕が生徒会だからと態度を変える人なんですか?」
返されたのはキョトン顔。
でも背筋が凍った。怒っている訳でもない、悲しんでいる訳でもない。酷く、酷く平坦な声だった。
「そ、ういう.....わけ、じゃ....」
口がまわらない。舌が渇いて、何かが喉に張り付いているような苦しさ。なぜか、緋賀さんを彷彿とさせる威圧感が今の燈弥にはあった。
だがそれも一瞬。
「なーんてね。トサカ君~、僕に会えなくて寂しいからってそんな意地悪なこと言わないでくださいよ」
がらりと変わった雰囲気。
意地悪そうに口を歪める燈弥を前に内心胸を撫で下ろす。
俺は時々、こいつのこういう得体の知れなさが怖い。
αだから''そう''なのかと思い、バース性を聞くも燈弥は自身をβだと以前言った。....αだとどんなに良かったか。燈弥がαならまだその優秀さや時折見せる威圧感に納得がいくのに。
風紀の先輩方が素直に高校入学組である燈弥の言う事を聞くのはこの得体の知れなさにあるんじゃないかと俺は思う。
「それで――」
「燈弥」
「?」
でも、たとえ緋賀さんに信頼される姿を羨ましいと思っても、その得体の知れなさに恐怖を抱こうと、俺はお前の友達だ。だから誠実に向き合いたい。
「さっきは悪かった。なんか燈弥を生徒会にとられたように感じてあんな態度とっちまった。わ、忘れてくれると助かる」
「.....初めて話しかけた時もそうでしたけど、トサカ君って自分の非をすぐに認めて謝りますよね。なかなかできることじゃないですよソレ。凄いです」
また顔が熱くなる。こいつは平気でこういう事を言うから心臓に悪い。それに面と向かって褒められることなんて滅多にねぇからこういう時どういう反応をすればいいのかわかんねぇ。
だが丁度いいことに、俺の注文していたテリヤキバーガーが届けられた。
これで褒められて気まづい空気は無くなる。といっても俺だけ勝手に気まづいと思っているだけで燈弥はなんとも思ってないだろう。
「テリヤキバーガーですか。いいですね。あ、そうそう風紀について聞きたいのですが。どうですか?ちゃんと仕事回ってます?」
「....仕事は多少増えたがやれないことは無い」
「それはよかった。なら心配いらな――」
俺は燈弥の言葉に被せるように続けてこう言った。
「雰囲気は最悪の一言だけどな」
燈弥が抜けてからの風紀は本当に空気が悪い。
思い出すだけでげっそりしてしまう。俺でもあの空気の中いるのは辛く、いつも逃げるように見回りへと行く。デスクワーク組は地獄だろうなとは思うが、自身ではどうすることも出来ないため見て見ぬふりをするしかなかった。
救いがあるとすれば……
「夏休み中はそれがなくなることか」
ポツリ呟く。中学もそうだったが、夏休み中は五大家の人間はみんな呼び戻される。だから委員長は昨日からもう学園にいない。
「空気が悪いのは、もしかして委員長のせいですか?」
「べ、別に緋賀さんのせいってわけじゃ!」
「はいはい。そうですねぇ。委員長のせいじゃないですよね」
子供を宥めるような言い方をされ、釈然としないが口を噤む。これ以上何か言ったら墓穴を掘りそうだ。
「トサカ君の疲れた顔から大凡は察していましたが、君が委員長を非難するような言葉を口にするほどとは.....」
「だから非難してねぇって!」
「はいはい。んー.....そうだ」
何かを思いついたような笑み。嫌な予感がする。
「そういう時は黄犀と紫蛇をぶち込めばいいんじゃないですか?あの二人がきっと委員長のお堅い空気を壊してくれますよ」
「先輩方の命と引替えにな」
「尊い犠牲です」
「俺は燈弥ほどあの先輩らを軽く扱えないんだよ!逆にどうしてあんな緋賀さんみたいに顎で使えるんだ?」
「それは立場上しょうがないことです。副委員長になればトサカ君だってこうなります。あ、僕の後任で副委員長やればいいじゃないですか?」
「なっ、馬鹿なこと言うなよ!?緋賀さんの横に立つなんて恐れ多い!!」
「尊敬する人物の横に立つというのは誇らしいことだと思ったのですが、そういうものなんですかね?」
その言葉のピシリと固まる。燈弥はそう考えるのか。誇らしいと。
どうしてそんな簡単に緋賀さんの横に立てるんだ?どうして誇らしいと思えるんだ?
ぐるぐると考える俺の視界に、最後の一口を食べた燈弥がフォークを皿に置くのが見えた。
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