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第六章 貴方が狩りゲーで重視するのはなんですか?
《side 鎖真那 雅臣》
しおりを挟むさっきまで腕の中にいた燈弥は軍服の中身溶けてんじゃねぇ?と思えるほど熱かった。
神谷っつう優顔の保健医に見せたところ、やっぱり手の傷から菌が入って発熱したと診断された。それと肋骨も数本ヒビが入っていたらしい。多分あの蹴りだ。ダチョウキック。
ありゃまともに受けてたら死んでたなきっと。
保健医の異能で手の傷もヒビ入った肋骨も癒えたが、熱はどうすることも出来ないらしく、今は燈弥の自室に寝かせている。
「帰れ」
「浪木ぃ....オレがこいつを連れてきた。そんなオレに帰れはねぇだろ」
オレは今燈弥の部屋にいる。連れてきたはいいが、看病なんざ今までされたこともしたこともねぇオレには何をどうすればいいのかさっぱりだった。そんな時にこいつは来た。
浪木 将翔――不遇の男。
浪木はいきなり来たと思ったら、部屋に押し入りテキパキと燈弥の看病をし始めた。それを感心しながら眺めていたらさっきのセリフ。
帰れと言うのだこいつは。このオレに。
「看病も出来ねぇくせに、ここにいても仕方ねぇだろ」
「......確かに。だが帰るかはオレが決める。――ってかなんで眼鏡かけさせたまんま寝かすんだよ?オレでもわかる。これは取るべき――」
「触んな!!!」
伸ばした手を叩かれる。浪木の行動に怒りより違和感が湧く。
「眼鏡をとるとお前に不都合なことがあんのか?」
「お前に話すことは無い。さっさと帰れよ」
「.....オレはよ燈弥の正体が気になってしょうがねぇんだ。最初はただの興味からちょっかいかけた。だが今回のことで興味からこう、モヤッとした気持ちがすんだよ」
「急になんだ。知らねぇよそんなこと」
「見たことあんだ。あの後ろ姿、針穴に糸を通すような見事な一閃。だが、思い出そうとすると――もどかしさを覚える」
どこで見たことがあるのか、思い出そうとすればするほど、余計な記憶に邪魔される。
埒が明かねぇ。
「つまり何が言いたい」
「燈弥のことを知りてぇ」
「却下」
にべもない返しに思わず手が出そうになった。
「お前が!それを却下する権利はねぇはずだ!」
「うるせぇ!!ダメったらダメなんだよ!」
な、んだこいつ!?
理由もなくダメだと?――子供か!?
浪木ってこんな奴じゃなかっただろ!
感情論が嫌いで、打算的で、腹が読めない.....本当どうしたんだ!?
「う、るさいです...ね」
冷え冷えとした声がベッドからかけられ、固まる。錆びたブリキのように顔を向ければ、眼鏡をしていてもわかるほど不機嫌なオーラを醸し出す燈弥が身体を起こしていた。
「と、燈弥!寝てなきゃダメだろ!」
「それを妨害したのは君達です」
「おう、調子はどうだ」
「サマ臣君.....見てわかるでしょう?最悪ですよ」
そう言いながらベッドから降りようとする燈弥に浪木と揃ってギョッとする。
「「なにやってんだ!?」」
「な、に.....って、お風呂に入るんですよ。身体中ベタベタで気持ち悪くて」
なんだ風呂か。よし、風呂くらいならオレでも手伝える。
「手伝うぜ」
「馬鹿か!?そんな状態で風呂入ったら死ぬぞ!」
「死ぬのか!?」
それはダメだ。燈弥に死なれちゃ困る。.....いや、困るというか嫌だ。
「ああ....確かにそうですね。すみません、頭が回ってないですね僕」
「おい戦闘狂、燈弥見とけ。俺は着替えと身体を拭く物持ってくる」
「おう」
浪木が消え燈弥と二人きりになる。
やっぱ看病って難しいな。そう思っていると、燈弥がおもむろに口を開くのが視界に入った。
「僕の手....治ってますね」
「そりゃ保健医の異能で治療してもらったからな」
「治療....ありがとうございます。でも、これからはそういうこと頼まないでください。なるべく自然治癒力を衰えさせたくないので」
「へぇ、そういう考え方もあるんだな。わかった」
「......なにか聞きたそうな顔ですね?」
顔に出てたか?
「あ~.....前にさオレとお前って――」
聞こうとして止める。今のこいつは熱に浮かされている病人だ。そんな奴に『前にどこかで出会ってねぇか?』と聞くのは拙い。記憶がしっかりとしている健康時に聞かなきゃ確実性がねぇ。
なら何を聞くか.....
あ、さっき燈弥は風呂に入ろうとしてたな。風呂といえば大浴場。よし――
「.....燈弥って1階の大浴場に行ったことあるか?」
「ないですよ。人目があるお風呂は嫌いなんで」
「なら今度一緒に行かねぇ?」
「ゴホッ....話聞いてましたか?僕は人目のあるお風呂は――」
「なぜかよ、オレが大浴場に足を踏み入れるとあっという間に人が居なくなるんだよなァ」
「......」
「どうだ?」
「ゴホッ、ゴホッ......よろしくお願いします」
「かっかっか!なら早く元気になれよ」
「えぇ、そうですね」
よし、次に会う約束もできたことだしオレがここに留まる理由はないな。燈弥を見とけって言われたが、こいつならもう大丈夫だろ。何より浪木が帰ってきてギャーギャー言われんのがウゼェ.....
「――オレはそろそろ行くな」
「サマ臣君....今日はありがとうございました。君が居なければ僕はきっとあの時逃げていた」
燈弥、燈弥。
.....実はオレ知ってたんだ。あのカタラを前にして、燈弥が恐怖に後ずさったこと。でもな?オレはそれが許せなかった。だからあのカタラを攻撃したんだ。
お前は強者であるべきだ。
オレが認めた男なんだ。
だから恐怖から逃げることは絶対に許さねぇ。
でも結局、燈弥は逃げなかった。
カタラに立ち向かい、ボロボロになってまで戦った。
それはオレの得られなかった姿であり、オレが求めていた姿。
もう燈弥と戦いたいなんて衝動がどっか行くほど、オレの芯を揺さぶる姿だった。.....これを愛でたいと思わないなんて有り得ねぇだろ?そばに置きたいって思って当たり前だろ?
――あ?
昔同じようなことを思ったような気がするな。
誰に対してそう感じたんだっけか。
.....まぁいい。今はこっちが先だ。
ここは触れないほうがいいだろう。突っ込むのは野暮ってもんだ。
「逃げていた?……なんの話しをしてんのか分からねぇな」
「あは、は、は.....ゴホッ、ゴホッゴホッ、いえ....こっちの話です」
咳が酷くなってんな。これは話してる場合じゃねぇぞ。
「もーいいから、さっさと横になれ」
「サマ臣君」
「あ?」
名前を呼ばれると共に、オレの手に触れる熱があった。あまりのその熱さに心臓が跳ねる。
「君はとても強い人だ。僕は、僕は君のその足掻く姿.....が好ま....し.....いと....ぉも......て――」
糸の切れた人形のように横になった燈弥。
そのまま去ればいいものを、オレは震える手で奴の胸ぐらを掴み、引き寄せていた。
嗚呼クソ。自分の口端がつり上がっているのがよくわかる。だって、だって自覚しちまったから。
なぁ、燈弥。お前バカだろ。
自分がオレに気に入られてるって知ってるよな?
それで壁を作ってたよな?
オレはお前をそういう感情抜きでそばに置きたいと思っていたのに……!
なのに、なのにっ
ここでそれをぶち壊すのかよ。
「ぅ、ゴホッ......ゲホッ、ゲホッ!ぁ.......く、るし――んっ」
苦しいのだろう。
小さく開く薄い唇に、ちらりと覗く真っ赤な舌。
気づいたら口を塞いでいた。
「う....んっ、ゴホッ....!ぁふ...ちゅ...はっ、む」
全てが熱い。
薄い皮同士の接触だと嘲笑っていたものがこんなクるものだなんて知らなかった。気持ち悪いだけだろと嫌悪していた絡み合う舌が、こんな気持ちいいなんて知らなかった。
ダメだ。ハマる
「ふっ、~~っ!?!?ぅう、ん!」
意識が覚醒したらしい。暴れ始めた四肢を抑えるためにベッドに乗り上がり、同時に胸ぐらを掴んでいた手を後頭部に回しながら押し倒す。
深くなった口付け。互いの吐息を奪うようなそれにじん、と頭が痺れるような鈍い気持ちよさを感じた。
この先の行為を求めるように燈弥の纏う白いシャツに手を這わす。が、かろうじて残っていた理性がそれを押し留める。
だが....理性があっても何故かこの口付けだけはやめられない。やめられなかった。
下顎をくすぐるように舌でなぞる。
逃げる舌を追いかけ絡み合わせる。
逃げる舌を引っ張り甘噛みする。
唾液を飲み込ませるように喉奥を刺激する。
背筋がゾクゾクし、下腹部に熱が集まる。
「ぁ''んっ.....!むぅ、ぅ......ん......ぐ...........」
その時、急に燈弥の身体からふっと力が抜けた。気にせず口付けを続けようとしたが、カチャリとメガネが顔に当たり、眉が寄る。
眼鏡が邪魔だな.....
鬱陶しい眼鏡に手を伸ばし――止めた。
先程の浪木の様子からして燈弥にとってもコレを外すのは好ましくないことなんだろう。
....ああ、クソ。こんな時でも理性的な自分が嫌になる。このまま獣のように貪り食うことができればどんなにいいか。嫌がるこいつを押さえつけて秘密を無理矢理暴ければどんなにいいか。
クソ!クソッ!!.....オレにはできない。
蹂躙される側を味わったことのあるオレにはできない。それに今は一人だ。
唾液で濡れたこいつの口元を拭いながら、そう自重する。
まったく.....オレは何をやってんだ。襲っといて中途半端に解放するなんざ。
「....いひひひっ」
いや、燈弥が悪い。
「......お前はもっと考えて口に出せよ。こんな生き方を肯定しやがって、それに好ましいだと?馬鹿野郎。オレみたいな人間を受け入れると離してもらえねぇぞ」
相手が理性的なオレで良かったな?
他の奴ならこんなんじゃすまねぇよ。
《side end》
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