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第六章 貴方が狩りゲーで重視するのはなんですか?
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しおりを挟む半裸のサマ臣君と化け物が視界から消えるのを確認し、やっと一息つく。
なんなんだあのカタラは。下半身がダチョウで、頭はツノ生えたマネキンで、腕はカマキリで、胴体は鎧ときた。
そして鎧はサマ臣君の攻撃に傷ひとつつかないほど頑丈で、マネキンのツノは大木をへし折る程凶悪で、脚力は一瞬で距離を詰めれるほど危険で、鋭利な鎌は見るからに殺傷能力が高い......。
あんな化け物と戦わなきゃいけないとか――
「「「あのクソ教師め.....!」」」
どうやら2人とも僕と同じことを思っていたようだ。
「イッチー....この試験棄権しようよぉ。俺でもアレを倒すイメージが湧かない」
「昇級試験って棄権できないんじゃなかったんですか?」
「昇級試験参加は絶対だけど、試験開始からの棄権はアリ!」
「へぇー、でも棄権って......あのカタラが恐ろしくて逃げだしたと思われるじゃないですか」
「大丈夫大丈夫!そんなことを思ったやつは俺がていていって切断しちゃうから!」
「いやいやいや、不可能ですよそんなの。どうやって他人の心がわかるというのです。ということで、今から作戦会議を始めます」
「ぐぅ.....!だってその作戦俺死ぬんでしょ?やだよぉ~!まだいっちーとセックスしてないのに!」
「「ぶっ!?」」
何を言ってるんだこの人!?そんな理由で死にたくないとか冗談でしょ?っていうか冗談じゃないと怖い。
そう密かに引いていると、財前君が萩野君からの視線を遮るように前に出た。
「一条さんに近づくな」
「あは~......どけよお前。死にたいの~??」
「っ、俺には一条さんを守る義務がある!」
なんで???
財前君と僕は初対面だよね??守る義務があるのなんで……?
って、今はそんなことしてる場合じゃないでしょ。この瞬間だってサマ臣君が(多分)命懸けで時間稼ぎしてるんだから。
「もういいですよ財前君。今は作戦会議が優先なので、萩野君のことはスルーしましょう」
「.....わかった」
「よし、僕の作戦は――」
話してく内に財前君の顔がどんどん青くなる。
そんな財前君に対して、萩野君は目をキラキラさせツギハギ顔を楽しそうに歪めた。
だけど、
「で、スイッチ役は萩野君です」
「ぇ」
僕の一言で楽しそうな顔は一瞬で青くなった。
内心いい気味だと思いながら、表面上は申し訳なさそうな顔を作る。
「財前君には無理ですし、サマ臣君は今ここに居ません。この役は萩野君しかできないのです」
「ちょっとまって~!このお邪魔虫君が無理って決めつけるのは早計じゃないかなぁ?」
「どうなんです?財前君」
「俺はお邪魔虫なんで無理っすね」
「だそうです。諦めてください」
「こ、こいつ~!」
「はい、決まりです。萩野君に片手剣渡して下さい」
萩野君は嫌そうに財前君から片手剣を受け取った。
....先ほど、実行すれば萩野君の命を捨てることになりますと言ったが、あれ.....本当は僕のことを指している。大部分の危険は僕が受け持つことになるから、死ぬ確率も当然僕が1番高い。
わざと萩野君の命を捨てることになると言ったのはちょっとした意趣返し。彼には以前困らされたからこれくらいの意地悪してもバチは当たらないだろう。
「一条さん、それでどうするんだ?戦闘狂とあのカタラを探すにもこの森は広すぎる」
「彼ならきっと自分の限界が近くなったら戻ってきますよ。それまでおしゃべりでもします?」
「賛成~」
「......」
どうしたの財前君。そんな狂人を見るような目で僕を見て。なにもおかしいことは言ってないはずなんだけど。
「あのさ~このクソみたいな試験が終わったらテキ先に仕返しにいかない?」
「仕返しは僕の中で既に決定事項です。この試験をクリアしたら必ず実行します。因みに何をやるのかも決めています」
「イッチーがやるなら間違いなしだねぇ。結果は後で教えてね」
「わかりました」
「いやっ、なに呑気に話してんだよ!?仕返しとか大事だけど今はあのカタラだろ!」
どうどう財前君。君の言いたいことはわかるけど、ずっと気を詰めたままだと疲れちゃうよ。
「適度な息抜きです。どうせこの後、嫌でもカタラと向き合うんですから。今くらい楽しい会話したいじゃないですか」
「そうそう。あ、カタラと言えば~あいつさぁキメラだよね?」
カタラの話やめよって言ったのにこの人は.....。まぁ財前君が乗り気のようだから何も言わないけど。
「あんなん普通存在しないよな?聞いた事ねぇよあんなカタラがいるって」
「でも考えればあんなカタラ作り出せる家ってもうあそこしかないよねぇ。....テキ先の人脈どうなってんの?」
「あそこってどこだよ」
それは僕も気になったけど、まずカタラを作り出せることに突っ込ませて欲しい。
カタラって作れるの??
....でも確かにあの化け物が自然発生で生まれたとは思えないから作られたというのは有り得る。あんな殺意の塊みたいな組み合わせは人間の発想だろう。きっと。
さて、あんなふざけた化け物を生み出した家はどこかな?
「あそこはあそこだよ。五大家と同等の――あれ~?これって話していいやつだっけ?やっぱなし!聞かなかったことにして~」
「そこまで言っといてかよ!?」
ん?五大家と同等のって言った?そんな家僕が知らないはずがないんだけど.....聞き間違いかな?
「聞くなら俺以外から聞いてね。はいこの話おしまい!イッチー遊ぼーー!」
「うわっ」
急に抱きついてきた萩野君に尻もちをつく。
お尻痛い.....。抗議の視線を送るも、萩野君は自分の世界に入っているのか、僕の手をニギニギといじり気づく様子もない。
「一条さんから離れろっ!」
「ああ、いいよ財前君。僕は大丈夫」
僕の手ひとつで萩野君が大人しくしているなら安いものだ。まぁ、その代償に僕の精神がゴリゴリ削られているけど。
......僕の手を触る彼の手付きが厭らしい。
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